今回は、WAOJE（※）監事であり、世界を股にかけて年商200億規模のビジネスを展開する松井健一さんに、企業の海外進出についてお話いただきました。前編・後編の2本立てでインタビュー記事をお届けします。
松井さんが代表を務める松井グループは、大正時代から続く兵庫県明石市の味噌店「松井味噌」を筆頭に、中国など6カ国で味噌をはじめとする調味料を生産しています。
前編では、事業概要や海外進出を決めた理由などについて聞きました。
※海外を拠点に活躍する日本人起業家のコミュニティ


<p>今回は、WAOJE（※）監事であり、世界を股にかけて年商200億規模のビジネスを展開する松井健一さんに、企業の海外進出についてお話いただきました。前編・<a target="_blank" rel="noopener noreferrer nofollow" href="https://listen-web.com/topic/waoje-matsui2/">後編</a>の2本立てでインタビュー記事をお届けします。</p><p>松井さんが代表を務める松井グループは、大正時代から続く兵庫県明石市の味噌店「松井味噌」を筆頭に、中国など6カ国で味噌をはじめとする調味料を生産しています。</p><p>前編では、事業概要や海外進出を決めた理由などについて聞きました。</p><p>※海外を拠点に活躍する日本人起業家のコミュニティ</p><h2>30年前に中国・大連に進出した食品企業のパイオニア</h2><h3><strong>―まず松井グループの事業内容を教えてください。</strong></h3><p>1991年、私が25歳の時に中国・大連に大連松井味噌有限公司を設立しました。今は日本、中国、イギリス、マレーシア、シンガポール、ベトナムの6カ国に8つの工場、26の法人を持っています。現在扱っている製品のうち味噌は全体の2割弱で、主に手がけているのは、みそ煮やかば焼きのタレといった、水産物用の調味料。外食産業向けの調味料も扱っていて、そこから派生して日本の大手外食チェーンのメニュー開発にも携わるようになりました。</p><p>海外での農業指導も行っています。契約栽培農家の栽培計画策定や、ルールを守って栽培されているかチェックするための現地視察などを行い、日本の企業に安心・安全な食品をお届けできるよう奔走しています。</p><h3><strong>&nbsp;―中国で30年以上ビジネスを続けられている秘訣は何でしょうか？</strong></h3><p>大連の食品業界では最古参の日本人です。現地のネットワークや情報量の多さは強みだと思っています。ほぼすべての日本向け水産加工場とコネクションがあるので、ご希望に合う工場をご紹介できます。ありがたいことにご紹介やリピーターのお客様が絶えないので、当社は営業マンを雇っていません。</p><p>また、意外かもしれませんが、中国の食品業界における検査や品質管理の水準は非常に高いんです。私は中国のほかの工場を見て検査や管理の手法を学び、自分の工場にも取り入れました。初めは疑心暗鬼で工場を訪れた日本企業の方が、品質管理のレベルの高さに驚き、次々と依頼をくださるようになっています。&nbsp;</p><h2>海外進出＝結婚。自分の事業とマッチするのが中国だった</h2><h3><strong>―松井さんが海外進出を考えたのはいつですか？</strong></h3><p>私が大学を卒業した当時、松井味噌の年商は2億円ほどでした。その時は十分経営を維持できる状態ではありましたが、年々縮小傾向へ向かっていくのは明らか。味噌業界は全国的に見ても衰退していましたし、松井味噌も自分の代で終わるのだとぼんやり考えていました。</p><p>でも、そう思いながら事業を営むのは悲しい。会社を存続させるために海外進出に賭けてみようと思ったんです。</p><h3><strong>&nbsp;―数ある国の中から、なぜ中国を選んだのでしょうか？</strong></h3><p>当時の松井味噌のような零細企業が海外に出るのはすごく勇気がいることですが、「海外進出は結婚と同じ」だと考えていました。結婚相手を選ぶ時、本当にその人とうまくやっていけるのか、相性や条件面も踏まえて熟考しますよね。ビジネスの場合も同じです。</p><p>まず食品産業にとって、人口の多さは何よりも大切。市場規模は、人口という文字通り、人の口の数といっても過言ではありません。その点、14億人という世界最大級の市場を持つ中国は、経済面を見てもGDPは右肩上がりで、今や日本と大きく差をつけています。教育に対する意識も高く、街中に監視カメラが多数設置されるなど安全性も高いので、これからビジネスを展開するには申し分ない国です。&nbsp;</p><p>そして、大連市のある中国東北地方は、味噌作りに適したジャポニカ米や大豆の一大産地です。海外輸出を想定した精米技術、残留農薬の基準、栽培管理方法が確立されていたことも、大連への進出を決めた理由でした。</p><h2>ビジネスは子ども。子どもが世の中に認められることが一番の喜び</h2><h3><strong>―異国で挑戦し続けられた原動力は何ですか？</strong></h3><p>中国では辛いこともたくさんありました。いろいろな人に助けてもらいましたが、一番大きな支えだったのは妻です。</p><p>妻とは中国で出会い、結婚。3人の娘をもうけました。妻自身もビジネスを手がけていますが、いくら儲けたとしても私生活にまったくお金を使わない人なのです。中国では「男性はマイホームが無いと結婚できない」と言われるほど、持ち家が当たり前という風潮。しかし、私たちはいまだに借家に住んでいますし、車も業務用のトラックに乗り続けてきました。</p><p>結婚指輪も婚約指輪も無しで、新婚旅行にも行っていません。そうやって質素な暮らしを続け、会社を守ってくれた妻には心から感謝しています。<strong>&nbsp;</strong></p><h3><strong>―奥様も松井さんも、なぜそこまでストイックに生きてこられたのでしょうか？</strong></h3><p>2人とも自分のビジネスが本当に好きだったから、お互いの会社を守り合えてきたのでしょうね。</p><p>私たちは、事業や製品は子どもと同じだと思っているんです。ビジネスも子どもも、たくさんの人に認知され、愛されてほしい。自分の子どもが世の中に認められることほど幸せなことは無いと思っています。</p><p><img src="https://d118u0ws9s7zu5.cloudfront.net/cla66u0nn0000ziwbjlvsjby3/clp2511yl0002l508n7ozu5um.jpg">公開日：2023年11月17日</p><h3>Profile</h3><p><strong>松井 健一 / Kenichi Matsui</strong><br>1964年生まれ。神戸大学経営学部卒。松井味噌グループ16代目代表。中国をはじめとする6カ国に拠点を置き、8の直営工場、17の契約工場、26の法人を展開する。食品誌を中心に年間110本のコラムを執筆するなど、「和食の伝道師」として和食文化の普及活動にも取り組む。2019年度兵庫県知事功労賞、NBC一般社団法人東京ニュービジネス協議会主催2023年度グローバル大賞、2023海外アントレプレナー部門優秀賞などを受賞。過去にはWAOJE大連・初代支部長、兵庫県海外進出経済顧問（2019-2022）を務めた。WAOJE世界本部 現・代表監事。家族は中国人の妻と3人の娘。</p><h3>Credit</h3><p>取材：垣畑光哉／執筆：小原らいむ／編集：堤真友子</p><p>&nbsp;</p>