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ストーリー代表・CEO

対象は全国に70万橋。橋梁の安全を守る専門装置を開発から施工まで

代表_クリテック工業

判事を目指した青春時代から
一転経営者へ

培った営業力と徹底した教育で
会社のさらなる成長を図る

株式会社クリテック工業
代表取締役
若林 勇二/Yuji Wakabayashi

橋がこの世にある限り、需要は永久になくならない

車で橋の上を走っているとき、カタンカタンと音がするのを聞いたことがないだろうか。その音の発生源は『橋梁用伸縮装置』。温度変化による伸縮を吸収する役割を果たしており、もしもこの装置がなければ、道路に起伏ができたり道路の下に水が漏れたりしてしまう。車の安全走行のためにも欠かせないものだ。この装置の開発・販売・施工を手がけるのが株式会社クリテック工業。取り扱う製品の幅広さは日本一である。

代表取締役の若林勇二は、同社の事業を「永久になくならない仕事」と言う。現在、15m以上の長さの橋梁は日本に70万橋以上あるのに対し、橋梁用伸縮装置を製造するメーカーは20社程度。1橋に対して一定の間隔で装置を取り付け、一つひとつの寿命は20~30年。つまり、装置の製造・取替が絶えず必要なのだ。

同社の特徴は3つある。1つ目は、自社の工場を持たない、いわゆる「ファブレス」であること。製造設備を自社で抱えることによるコスト面のリスクを抑え、資金や人材を研究開発に集中させられる。

2つ目は、装置の製造だけでなく、橋梁の建設現場で施工管理も担当すること。その理由は、「お客様のニーズを把握するため」である。施工管理を経験することで、現場を理解した上でお客様に提案することができ、現場で発見した課題を研究開発に活かせる。

3つ目は、商社を通さず顧客に直接販売していること。自社で価格を決められるので、市場に左右されることなく、最適な価格を自社で設定して販売数を確保。同社では橋梁関係の幅広い会社との直接的な取引を実現している。

つまり、メーカーとして製品を提供するだけでなく施工まで一貫して行い、さらには施工で得たノウハウを研究開発、営業に活かすことができる。自社の中で全てがサイクルしているので、価格面でもスピード面でも他社を圧倒できるのだ。

その中で、若林は特に施工を重視する。文系・理系や職種に関係なく、現場で施工管理を担当する機会を提供している。

「私は現場仕事を『宝探し』と表現しています。現場では、どのくらいの交通量だと装置が壊れるのか、どの工程に時間がかかるのかなど、実際に行かないとわからない情報をたくさん得られます。それを新製品の開発に活かしたり、現場のことを理解した上で営業したりすることもできる。全てをワンストップで行う当社ならではの価値だと思っています」

司法試験に失敗すること10年。自分の天職を見つける

3人兄弟の長男として生まれ、「社会貢献をしろ」と父から幾度も言われて育った若林。「この世に生かされているということは、人の役に立つために生きている」と、幼い頃から教え込まれた。それを実現できるのは何かと、小学生なりに考えた。そんな折、親戚が詐欺被害に遭い、「弱い人を騙すような人間は僕が裁いてやる」と決意。判事を目指そうと考えた。

ところが、小学校から始めた野球に熱中するあまり、成績は急降下。高校ではレギュラーの座をつかみ活躍するも、勉強はそっちのけに。大学受験もうまく行かず、2年の浪人生活を送ることになる。しかし、浪人中に若林の考え方を変える出来事があった。

「当時の私は、人に相談するのが本当に苦手でした。幼稚園の頃から『長男として母や兄弟を支えていけ』と父に叩き込まれたせいか、自分が主体となって他を引っ張っていかなければ、と思い込んでいたんでしょうね。どうやって勉強すればわからなかったのに、誰にも頼れずに一人で抱え込んでいたんです。でも、このままではいけないと思い、高校時代のチームメイトであり、すでに大学へ進学していた友人に思い切って相談してみました。すると、彼は『ずっと活躍していた君のような人が、僕に質問してくれるなんてうれしいよ』と言ってくれたんです。『人に相談していいんだ』と気付き、涙が出るほどうれしかった。彼のその一言を機に、勉強に熱が入りました」

明治大学へ進学し、判事を目指して法律を専攻。ところが、司法試験に挑戦し続けるも、合格に至らないまま10年の月日を費やすことになる。

30歳が近づいた頃、先に社会人になっていた友人たちと会う機会があった。彼らの話題といえば仕事の愚痴ばかりで、居心地の悪さを感じた。しかし、ふと我が身を振り返る。

「愚痴ばかりをこぼす友人たちも、社会に出て何かしらの形で社会貢献しているんですよ。一方で、私は惰性で司法試験の勉強を続けていて、何も人の役に立っていない。そのときに出会ったのが『経済』の語源となった『経世済民』という言葉でした。法律は、物事が起こったあとに解決するためのものですが、経済は、自分が先に動いて思いどおりの世の中にしていくためのもの。『自分が動くこと=社会貢献』であると感じ、経済のほうが向いているんじゃないかと思いました。そうして社会に出ることを決めたのですが、やはり愚痴ばかりの社会人にはなりたくない。そういう人を一人でも少なくしたいと思い、経営者を目指すことにしたんです」

司法試験への挑戦に区切りを付けて就職を決意。普通なら法律知識を活かせる職を選ぶところだが、若林は人材派遣会社の営業職に就いた。古くから若林を知る友人たちも驚く選択だったが、死に物狂いの努力でトップセールスを記録した。

営業の仕事を選び、頑張れた背景には「営業っていうのは、物やサービスを売ることじゃなくて、自分をわかってもらうことなんだよ」という父の言葉があった。司法試験の勉強に10年を費やし、失敗に終わった経験は、一般的に見ればネガティブなもの。しかし、若林はそれを「人が経験していない、自分ならではの人生」ととらえ、「それを表現できる仕事こそ営業」と考えた。業績も上がり、「営業は天職」とまで感じるように。その後勤めた出版会社でも好成績を残し、営業スキルを確立させていった。

出版会社を退職後は、起業の準備を進めていた。その気持ちとは裏腹に、周囲からは「お父さんの会社に入らないの?」と言われた。父は数年前から企業の代表を務めていた。それがクリテック工業だ。

「自分で事業を立ち上げたい」という理由から、父の会社には絶対入らないと決めていた若林だが、周囲の声をきっかけに業界研究をすることに。すると、車が道路を走る限り永久に需要がある仕事であり、かつ競合も少なく大手もいないとわかった。自分がこれまで培ってきた営業力を活かせば十分勝てる分野だと思い、入社を決めた。

一般的に、社長の後継者として中途入社する人の多くは、権威を示すために最初から専務や常務などの肩書を持つ。しかし若林はあえてそうしなかった。ヒラ社員で、全社員のうち最低額の給与でスタート。「肩書で周囲を無理やり納得させたくない。実力がなければ皆ついてこない」という考えからだ。『結果が伴わなければ切ってくれ』と父にも言った。でないと社員が不幸になってしまう、と思ったという。また、入社当時から、同族経営をするつもりはなく、親族以外を教育して、後継者にするつもりであった。

メーカーは未経験だった若林だが、他業種で培ってきた営業力を発揮し、従業員にもノウハウを伝授。その結果、会社の業績は3倍成長。2007年に社長に就任した。

自分で戦略を立て、自立心を持って成長してほしい

「クリテック工業で働く人が『この会社に居て良かった』と思えるような会社にしたいし、死んでいくときに『この会社で働けて良かった』と思えるような人生を歩んでほしい。縁あって入ってきてくれた人たちには幸せになってもらいたい」

若林がそう語るように、同社では社員が幸せに働ける環境づくりを重要視している。例えば「表彰」の対象としている取り組みは「改善」「挨拶」「電話応対」「タイムキーピング」など計20種類にも及ぶ。一人ひとりの強みや努力にフォーカスし、認めることで、働きがいを感じてもらうためだ。また、「外部研修の受け放題」、人間力や技術力を高める書籍を貸し出す「社内図書館制度」など、社員が自身の成長を図れる制度や機会を提供している。

採用方針は「理念に共感してくれれば文系理系、男女も関係ない」。入社後1ヵ月は事業への理解や技術的な知識の習得のために時間をかけて研修を行い、半年~1年間ほど施工現場に入り立ち合い実習を受ける。理論的な知識と現場目線、両方を身に付けられるような教育に力を入れている。

業務の進め方にも工夫を凝らす。各チームで「アクションプラン」と呼ばれる年間計画を作成し、その計画を達成するために自分たちで戦略を考える。立てた戦略をもとに業務を進め、月ごとにフィードバックをすることで、戦略をブラッシュアップしていく。これを繰り返すことで、社員一人でも戦略が立てられるようになり、経営者の目線で仕事ができるようになるのだ。このように、同社では知識がない状態からでも、順序立てて成長することができる環境が整備されている。

「入社してくれる人には、やる気さえあればいろいろなステージを提供します。営業・研究開発・施工管理のどれか一つだけではなく、さまざまな部署をまたぐことも可能です。その結果、自分の力で仕事を回せる社員が増えてほしいし、そういう社員とともに会社を成長させていきたいです」


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リスナーの目線

取材時に拝見した資料には、数えきれないほどの社内制度がリストアップされていました。永年勤続賞、イベント皆勤賞、アクションプラン表彰など、その種類は多種多様。社員の幸せを願う若林社長だからこそ、あらゆることに気を配って前向きに働ける環境づくりに注力しているのだと感じました。また、若林社長自ら新入社員の教育を務めることを聞き、社員の教育への自信がうかがえました。

インタビュー・編集/青木典子、角田尭史   撮影/田中振一

Profile

1970年、山梨県甲府市生まれ。小学校から高校まで野球を続け、中学校からはキャッチャーとして活躍。明治大学法学部に進学し、刑法を学ぶ。大学卒業後は司法試験に10年近く挑戦するも合格できず、心機一転人材派遣会社で主に営業を担当。トップセールスを記録すると、出版会社でも新会社の設立、代理店統括業務などを経験。2004年、父親が代表取締役を務めるクリテック工業に入社。2007年、代表取締役に就任。

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