
経営者と同じか、それ以上の熱量で課題に向き合う。その覚悟はぶれない
熊本を中心に、九州の特産品を
全国に届ける
「地の利」を活かした情報量と
手厚いアフターサポートで
生産者と消費者の懸け橋に
株式会社コムセンス
代表取締役
吉永 安宏 / Yasuhiro Yoshinaga
九州産の農産品や農産加工品を全国へ販売するECサイト「くまもと風土」。
楽天のショップ約5万店舗の中から約120店舗が選ばれる「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を2015年度以降5年連続で受賞している。同賞は楽天市場に出店した店舗について「顧客からの評価」「注文・売り上げの伸長率」「お客様対応」などを審査して優良店を表彰するもの。また、2016年度以降は、「グルメ・ドリンク部門」の肉・野菜・フルーツジャンルでNo.1の証である「ジャンル大賞」の栄誉に輝き続けている(4年連続)。
運営するのは、熊本県熊本市に本社を構える株式会社コムセンス。熊本出身の吉永安宏が、東京で6年間Web制作の仕事に従事した後、故郷に戻って2008年に立ち上げた会社だ。現在は、「くまもと風土」をはじめ、美容や健康を意識した飲料と食材を販売するサイトやフルーツの定期購入サイトなどを運営。熊本県産を中心に、九州全土で採れた農産物や農産加工品を販売するeコマース事業を広く展開している。
同社の強みは、地盤が熊本にあるという「地の利」を活かした情報量だ。生産地には可能な限り足を運び、生産者や生産団体と話をした上で商品を仕入れるため、「どんな人が、どんな思いで作っているのか」といった生産者の情報や商品の特徴など、購入者が知りたい情報を詳しく伝えることができる。
また、商品の企画から出荷・流通、アフターサポートまで、すべての工程を自社内で行える体制を整えていることも強みの一つだ。特にアフターサポートには力を入れており、輸送中に商品が破損した場合には、100%自社の責任として速やかに返金や作り直しなどの対応をとる。
「インターネット上で取引をするにあたって、販売する側の顔が見えないことを不安に思うお客様は少なくありません。購入していただいた商品の金額に関わらず、お客様から何らかのアクションがあった場合は真摯にお応えすることによって、信頼関係を築いていきたいと思っています」
吉永がアフターサポートに力を入れるのは、自分たちが生産者と消費者の懸け橋になることによって、プラスの連鎖が生まれると考えているからだ。アフターサポートを通じて集めた情報やお客様の声は、生産者がより良い商品を作るためのヒントになり、結果としてさらに質の高い商品をお客様に届けられるようになる。
「自社の利益だけを追求していては、私たちのビジネスモデルは成り立ちません。生産者さんの活動をサポートして商品の価値を向上させ、さらにその価値をきちんとお客様に伝える。それによって、価値に見合う価格で販売でき、生産者さんに還元できるようになる。このバランスを大切にしていきたいですね」
熊本生まれ熊本育ちの吉永は、地元の商業高校を卒業後、すぐに就職。地元の携帯電話会社と飲食店で勤務した後、東京でIT関連の会社を立ち上げた友人に誘われて上京し、Web制作の仕事に従事するようになる。東京と地元とのスピード感の違いに戸惑いながらも、優秀な仲間に刺激を受けて死に物狂いで働いた。一方で、いずれは熊本に戻り、東京ではできない地域密着型の事業を立ち上げたいという思いも日に日に強くなっていったという。
「家庭の都合で大学進学が叶いそうになく、比較的早い段階から卒業したら働こうと決めていました。それでも、どこかコンプレックスがあって、働き始めて間もない頃からいずれは独立しようと考えていました。上京したのも、独立して稼ぐためにはもっと実力をつけないといけないと思ったからです」
30歳を機に熊本へ戻った吉永は、Webサイトの制作やシステム開発を行う会社としてコムセンスを立ち上げた。しかし、当時の熊本は東京に比べてITリテラシーが低く、営業活動は難航。制作業務だけで食べていくのは難しいと感じ始めたころ、大きな転機が訪れる。親戚のデコポン農家から、農業の現状について話を聞く機会があったのだ。
青果物の流通の過程には農協や市場、仲卸、小売店とさまざまな業者が入るため、生産者の手取り額は消費者が商品を購入する金額の半分程度にまで削られてしまう。吉永はそうした課題をインターネットなら解決できるのではないかと考えた。
テスト的にECサイトの制作と運営を請け負うと、2ヵ月弱で300万円の売上に達し、生産者の手取り収入は倍増した。
吉永は、ここにひとつのビジネスチャンスがあると直感する。地域に根差した事業を手がけたいという初心に立ち返り、県産品を中心に取り扱うECサイトを自ら立ち上げた。これが「くまもと風土」だ。
「熊本の特産品をひたすら調べて、農家や市場に何度も足を運び、頼み込んで商品を卸してもらいました。最初は『インターネットは信用できない』などと言われて苦戦しましたが、あるときみかんの相場が暴落して。以前営業した生産者さんから電話がかかってきて、みかん15トンを卸してもらうことができたんです。その15トンをしっかり販売して実績を作ったことによって、少しずつ信頼してもらえるようになっていきました」
サイトが軌道に乗り始めた頃、大きなピンチが訪れる。みかんが予想以上に売れ、受注過多となった結果、出荷が大幅に遅れたのだ。お客様からはクレームが相次ぎ、楽天市場からも退店させられかねない事態に陥った。
このことがきっかけで、吉永は自分たちが生産者側に寄り過ぎていたことに気付いたという。生産者と消費者、どちらとも同じように向き合って、双方の声にしっかり耳を傾けなければ、この仕事を続けていくことはできない。吉永の中に「生産者と消費者の懸け橋になる」という現在の理念が芽生えたのはこのときだ。
「新しいことを始めるとき、トライアンドエラーを繰り返すのは当たり前のことです。大切なのは、一つひとつの失敗に対してしっかり原因を追究し、リカバリーしていくことだと思います」
もう一つ、同社にとって大きな転機となったのが、2016年に起きた熊本地震だった。倉庫に保管していた商品に400万円近い損害が出たほか、物流がストップしたことで出荷も見送らざるを得ず、廃棄を余儀なくされた品物も数多くあった。かなりの危機的状況だったが、全国から寄せられる励ましの声に背中を押され、震災から3日後には営業を再開。生産者に状況を聞き、行き場をなくした商品を滞留させないよう引き取るなどして、地元の経済を再び動かすことに専念した。
「復興支援として、たくさんのお客様が商品を購入してくださいました。熊本が厳しい状況に陥っても、私たちがインターネットを通じて全国の人々と熊本をつなぐことができる。再び力を取り戻すための拠点としての役割を果たせることを実感しました」
以降、順調に売上を伸ばし、2017年からは子会社である株式会社コムセンスダイニングの運営でステーキ店も展開。楽天が行う「楽天ふるさと納税」で、サイト制作や広告の運用といったWebマーケティング全般を担うコンサルティング業務もスタートさせた。今後は自社でもコンサルティング事業に力を入れ、収益の柱を増やしていく考えだ。
事業の急成長に伴い、同社ではマーケティング・企画・制作・運営管理など、幅広い職種を募集している。入社後は一人ひとりの得意分野を見極めて各セクションに配属し、早い段階で責任ある業務を任せていく。社員に与えられる裁量は大きい。「挑戦」を重んじる自由な社風は、成長スピードを加速させる。新規事業についても、可能性があると判断すれば積極的に任せるという。
今後は、現在のサイトに新たな付加価値を付けてサービスのさらなる充実を図るとともに、まだ知られていない熊本ならではの商材を探して商品企画や情報収集をサポートし、県内の魅力ある食品を全国に販売していく予定だ。将来的にはECサイトだけでなく、アンテナショップなど実店舗の展開も視野に入れている。
当面の目標は、売上50億円。目標に達した時点で、熊本・九州を中心とした農産物の販売で確立した現在のモデルを全国展開するのか、IPO(新規株式公開)を目指すのか、次の展開を考えていく。
「基本的には、東京の会社にできないような『地の利を活かしたビジネス』を軸とします。大手企業の目が届きにくい、地方の課題を解決していくことが私たち地方ベンチャーの役割だと思っています。その理念に共感してくれる人に、仲間になってほしいですね」
初めてお会いした際は、「はにかんだ笑顔が素敵なハンサム社長」という印象を受けた吉永さん。ところが熊本地震で死活問題に直面していた農家の支援に駆けずり回っていた話からは、“肥後もっこす”ならでは情の厚さと強い正義感がひしひしと伝わってきました。また、熊本を愛しながらも、その一方で地元を俯瞰で捉えているビジネス勘こそが、震災復興に必要不可欠な視座なのではないでしょうか。
熊本県上益城郡嘉島町出身。地元の高校を卒業し、地元の携帯電話会社と飲食店でそれぞれ3年ほど勤務した後に上京。Web制作会社2社の立ち上げを経験し、30歳で熊本に戻って株式会社コムセンスを創業した。当初はWebサイトの制作やシステム開発を中心に行っていたが、地元の基幹産業である農業の活性化に貢献したいという思いで通販サイトを立ち上げ、県内産を中心とした九州の農産品や農産加工品を全国に販売している。
インタビュー・編集:垣畑光哉、青木典子、藤巻史/撮影:木下将
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