
卓球プロリーグ「Tリーグ」での優勝実績を持つ『琉球アスティーダ』を運営
多角的な事業展開で
国内プロスポーツチーム運営会社として
初の上場を実現
琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役
琉球大学客員教授
明治大学MBAビジネススクール講師
早川 周作 / Shusaku Hayakawa
2021年3月、国内プロスポーツチーム運営会社として史上初、しかも設立からわずか3年で東京証券取引所「TOKYO PRO Market」に上場を果たした企業がある。早川周作が率いる、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社だ。
同社が運営する「琉球アスティーダ」は、沖縄を本拠地とする卓球プロ男子チーム。2018年開幕の卓球プロリーグ・Tリーグに参戦し、初年度は最下位でスタートしながらも2年目は2位へ浮上、3年目に優勝を果たした。
2021年4月には福岡市に子会社を設立し、Tリーグ女子チーム「九州アスティーダ」の運営に乗り出している。
代表を務める早川に、卓球の経験はない。琉球アスティーダの運営を任されるまでは、スポーツビジネスに携わった経験もなかった。だからこそ、スポーツ業界の既成概念に縛られることなく、柔軟なビジネス展開を実現できたのだろう。
早川は学生時代に起業し、飲食店、リラクゼーションサロン・ネイルサロン、出前&ケータリングサービス、ECなど幅広い事業経営を手がけてきた。その実績をベースに、経営コンサルタントとして約90社におよぶベンチャー企業の顧問・アドバイザーも務めた。
こうしたビジネス経験を活かして、同社ではスポーツチーム運営に留まらず、多角的に事業展開している。
従来のプロスポーツチームの収益源といえば、チケット販売やファンクラブ会費、スポンサー企業の広告・協賛が中心。スポンサーが降りた途端に億単位の赤字に陥るなど、不安定な経営がなされてきた。
そこで早川は、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどから資金を調達し、経営基盤を支える複数事業を立ち上げた。卓球を楽しめるスポーツバルやグッズショップを沖縄県内で15店舗展開(2021年4月現在)するほか、パーソナルジム、卓球スクール、接骨院などを運営。さらにはBtoB事業として、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)支援や経営者倶楽部の運営も手がける。
飲食もスポーツも、コロナ禍により大打撃を受けた業種だが、この環境下において、2020年の売上高は前年比150%成長。飲食店の利用客は9割以上が地元民であり、テイクアウトとデリバリーに切り替えたのが功を奏した。
また、YouTubeチャンネル、オンラインサロン、TikTokなどSNSを駆使して卓球映像配信やファンとのコミュニケーションを強化。コアファンを増やしている。
さらに新たな資金調達手段として、クラウドファンディングも実施。株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO(ファンディーノ)」を通じて、151人の投資家から2250万円の資金を調達した。募集開始から9分21秒で1000万円を集め、8時間で2250万円に達するという、驚異的なスピードでの調達だった。
早川がこの手法を利用したのは「より多くの人を巻き込むため」だ。
「2250万円という額は、経営者仲間数人に声をかければ集まるでしょう。けれど、琉球アスティーダを『世界中にファンがいるチーム』にするためには、数百人数千人単位の人たちとタッグを組んだ方がいいと考えたんです。2万5000人以上いるFUNDINNOの投資家たちに、私たちのビジョンを知ってもらうチャンスとして利用しました」
上場を目指すにあたっては、「プロスポーツがビジネスとして成り立つ仕組みを創りたい」という想いもあった。スポーツや選手の価値が高い欧米と比較し、日本ではスポーツにお金が集まりにくい。人々に夢と感動を与えられるスポーツの市場に、なぜお金が循環しないのか――早川は課題が3つあると考えている。「ガバナンスが効いていない」「ディスクロージャーされていない」「上場会社がなくプライシングがなされていない」だ。
「琉球アスティーダスポーツクラブを設立したとき、この3点を打開しようと決意したんです。プロスポーツチームの前例を覆し、PLとBSをすべてオープンにすることで、より広く出資を得る。スポーツにしっかりと資金が循環し、選手やスタッフの報酬が上がり、かつ新たな事業も生み出せる仕組みを築く。そんな好循環を業界全体へ広げていくためにチャレンジしています」
そもそも、卓球にもスポーツビジネスにも無縁だった早川が、なぜプロ卓球チームの運営に乗り出したのか。その動機はいたってシンプルだ。「自分の志にぴったり一致したから」だと言う。
早川は20代の頃から「弱い地域・弱い者に光を当てる」ことを目指してきた。その背景には、自身が「社会的弱者」だった過去がある。
秋田県で生まれ育った早川は、19歳のときに大きな試練を経験している。家業が倒産し、実父が蒸発したのだ。心中寸前まで追い込まれた母子に、役所の対応は冷ややかだった。
それでも親族と法律家の助けにより、どん底の状態から脱出。新聞配達で学費を貯め、上京して明治大学法学部へ進学した。そして法律事務所のアルバイトとして必死に働く姿がある投資家の目に留まり、数千万円の出資を受け、学生時代に不動産会社を起業する。
一定の成功を収めながらも、事業運営をおこなう中では「強い者には有利・弱い者には不利」な社会構造への疑念がくすぶり続けた。「政治、法律を変えなければ」という想いを強くした早川は、26歳のときに会社を手放し政界へ飛び込んだ。羽田孜・元首相の秘書を約2年半務めた後、28歳で衆議院選挙に出馬。しかし惜しくも次点に終わり、再び事業運営に復帰する。
政治家として社会を変えることはかなわなかったが、経営コンサルタントとして、社会を変えていこうとする気概を持つ起業家たちの支援にも力を入れた。
そんなときに出会ったのが、Tリーグのチェアマンを務めていた元プロ卓球選手・松下浩二氏だ。紹介を受けて臨んだ面談の場で、松下氏の言葉に心を揺さぶられた。
「『5歳から始めて15歳でオリンピックに出場できる。お金がなくても、体格に恵まれなくても、世界と戦えてプロになるチャンスがある。そんなスポーツがほかにありますか』――そう聞いてピンと来たんです。卓球の振興は、『弱い地域・弱い者に光を当てる』という自分の志にマッチする事業だ、と」
その7年前から、早川は沖縄に居を構え、東京との2拠点生活を送っていた。幼い娘たちにとっては、沖縄が生まれ育った故郷だ。沖縄では、子どもの貧困率が他県平均の倍に達している。貧困問題の解決につながる支援は、沖縄への恩返しになるとも考えた。
「小さな島から日本一になり、世界で一目置かれるクラブになる。その姿を見た人々が熱狂し、『自分にもできる』と奮い立ち、自分の可能性を信じ、志を持って未来を切り開いていけるようになる。それこそが私が実現したかった世界。そこに取り組めるチャンスが初めて巡ってきたのだと感じ、チームの経営を引き受ける決断をしました」
チーム名の「アスティーダ」は、「明日・未来」と「ティーダ(=沖縄の方言で太陽)」を組み合わせた言葉。琉球アスティーダは、沖縄からオリンピック・世界選手権で活躍する選手を送り出し、それによって人々に希望を与える。まさに「未来を照らす太陽」となることを目指している。
「これからの時代は、社会課題解決型のビジネスでなければ生き残っていけない」と、早川は言う。
琉球アスティーダスポーツクラブが目指す社会課題解決は「貧富格差と地方格差の是正」。またこれだけに留まらず、SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)につながるビジネスモデルをどんどん展開していく考えだ。
例えば、新品の衣料が大量に廃棄されている問題。「スポーツドネーションOKINAWA」プロジェクトでは、スポーツアパレルブランド「UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)」で売れ残った商品を沖縄県内の児童養護施設などに寄付提供。衣料廃棄ロス削減・子どもの貧困対策支援・スポーツ振興に貢献する。
「企業に対し、単にスポンサー契約をお願いするのではなく、抱えている課題を聞く。それを地域・社会の課題とマッチングさせて、双方の課題解決につながる循環型ビジネスモデルをどんどん創っていきます。すでに150社ほどと連携して事業を進めています」
スポーツを軸にさまざまな業種と掛け合わせていくのが早川流。その一つが「スポーツ×テクノロジー」だ。映像での観戦の魅力を高める「テクノロジースタジアム」構想では、高解像度カメラ・ドローン・AI・VRなどの技術を掛け合わせていく。
またテクノロジーの活用によって、「ネット環境はあるが卓球コーチがいない」国・地域でのコーチング、トレーニング支援事業も計画中。卓球人口が伸びつつあるインドやアフリカに照準を定めている。
「社会課題解決型のビジネスモデルを多数組み立てて、沖縄から世界へ展開していく。それにより、どんな環境でも人々が夢を持てる社会を実現したいと思います」
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この3年間を「志も含めてすべて出し切った。とにかく働いた!」と振り返る早川さん。秘書の矢島さんによれば、軌道に乗るまではスポンサー営業から選手の獲得、東証との交渉まで、すべて一人でこなされていたのだとか。卓球界では門外漢であることを逆手に、分からないことは選手から謙虚に吸収し、年間20数試合の応援に駆け付ける——。社長っぽくない≪熱狂≫が、多くの人を動かしています。
大学受験直前に家業が倒産、父親が蒸発し家財をすべて失い無理心中寸前まで追い込まれるが、前向きな上昇志向で、大学進学を目指して上京。朝の新聞配達から深夜の皿洗いまでアルバイトをして、学費を作り明治大学法学部に進学。大学在学中の20代前半から、学生起業家として数多くの会社の経営に参画して活躍する。
その後、元首相の秘書として約2年半勉強し、28歳で国政選挙に出馬、次点。経営者に戻ってからは「日本のベンチャーを育てる」という意志の下、日本最大級の経営者交流会を全国で主催。著書として『人生が変わる!「夢・実現力」』『小さい夢から始めよう。』がある。
経済誌、新聞その他のメディア露出多数。2012年10月より2013年3月まで、日本経済新聞の子会社、ラジオNIKKEIで全国ネット冠番組「タイムリー・トークショー早川周作Co-Lab」に出演。30分の番組内では時事ニュースへのコメントや名経営者、現職大臣、知事らを迎え時事対談を繰り広げた。
また、弁護士、行政書士、公認会計士、税理士、社労士が在籍する総合コンサルティンググループ『日本リーディングコンサルティング株式会社』代表として約90社と数多くのベンチャーの顧問やアドバイザーの立場で法務・財務・営業支援などを指揮してきた。
2018年2月、沖縄から卓球のプロリーグであるTリーグに参戦する「琉球アスティーダ」やトライアスロンチーム、飲食店を運営する琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社を設立し、代表取締役に就任。
また明治大学MBAビジネススクール講師、国立大学法人琉球大学客員教授に就任し、業種業界を超えた幅広い分野で活躍している。
インタビュー:垣畑光哉/執筆:青木典子/編集:佐々木久枝
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