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ストーリー制作(デザイナー・ライター・編集)

地域のニーズを踏まえてお寺の価値を再構築する

代表_DIALOGUE

コミュニケーションがお寺を変える!

僧侶の人柄を伝えることで
市民と僧侶が対話できる機会をつくり
僧侶の価値を再構築する

「DIALOGUE TEMPLE」
編集長 / 株式会社唯 代表取締役
池谷 正明 / Masaaki Iketani

お寺の強みを発信し、地域の人々との距離を縮める

かつて、お寺は地域住民の心の拠りどころとして、葬儀や布教の場に留まらないさまざまな役割を果たしていた。古くは寺子屋として子どもたちの学び舎となり、祥月命日の法事では身近な悩みの相談相手ともなって、地域住民と深く結びついていたのである。しかし、社会の変化とともにこれまでお寺が担ってきた役割の必要性が薄れてきた。そして今、ライフスタイルの変化に伴う供養の多様化によって寺離れが進み、人々とお寺とのつながりはさらに薄れつつある。寺院での読経や供養に価値を感じない人も増えており、自ら魅力を発信できないお寺は淘汰される運命にあるといっていいだろう。

こうした危機的状況の中、お寺に代わって強みを発信し、地域の人のニーズに合ったお寺の在り方を企画して集客につなげているのが、株式会社唯だ。自らも浄土真宗本願寺派の僧籍を持つ代表取締役・池谷正明は、「誰でもいいからお寺に来てください、というマーケティング活動は、今の時代に合わない」と話す。

「お寺が自分たちの強みを明確にして、それに共感する人を呼ぶ。そうしないと、お寺は墓参りの場であるというイメージから抜け出せません。僧侶が遺族や檀家に対し日頃から何を伝えているのか、その価値を深く知ってもらうことが重要です。当社では、依頼を受けた寺院の情報発信のやり方や広報の支援、全体的な業務改善提案などを通して、お寺の存在価値の向上に貢献していきます」

檀家制度が崩壊しつつある昨今、お坊さんと付き合いがないケースは多い。葬儀の簡略化も進み、僧侶の存在意義が変わる中、「普段の付き合いはなくても、葬儀のときにきちんと故人を弔ってくれればいい」というニーズも増加傾向にある。

そこで唯では、マスコミ出身の視点からお坊さんや仏教のことを知りたい人に届けるメディアを運営する。

僧侶はもっとも人柄が重視される職業だからこそ、僧侶自身がこれまで何を大切にしてきたかを第三者視点で伝えるメディアだ。

「僧侶やお寺は敷居が高いと思う人が多いですが、見せ方や伝え方をお寺から変えれば距離は縮まっていきます。僧侶もただ一方的に話をするのではなくて、話を聞いてあげる。そして宗教者としての立ち位置を変えず、僧侶自身の体質を変えていく必要があると思っています」

マスコミの経験から、「誰にどう伝えるか」の重要性に気付く

池谷は、神戸にある浄土真宗本願寺派、仏心寺という寺の次男として生まれた。幼い頃は、古くからの伝統やしきたりに押しつぶされるような気がして、ずっとお寺が嫌いだったという。

「念仏の価値も、遺族に寄り添うことの意味もわかりませんでした。将来はそのままお寺の人間として生きていくのではなく、自分の力で社会に出たいとずっと思っていましたね」

将来に悩んでいたとき、大きな転機が訪れた。
阪神淡路大震災が起き、自宅が全壊。母方の実家がある福岡に居を移し、仏教系ではない西南学院大学に進学したのを機に、お寺とは距離を置くことになった。卒業後は福岡のテレビ局に就職。面接で訴えた「番組を縁の下で支える立場になりたい」という希望通り営業に配属され、広告主に番組の意図や出演者の想いを伝えて協賛を獲得する仕事に従事する。

当時のテレビ業界は、すでに弾けていたバブルの気分から抜け出せないまま、大量消費・大量生産を続けていた。視聴者の声に耳を傾けず、営業がとってきた案件を精査することもなく、これまで通りの番組制作をやり続ける日々。次第に視聴率は落ち、視聴者が番組に寄せるメッセージの数も減少の一途をたどる。当時について、「一度立ち止まって、自分たちのステーションブランドは何か、自分たちにしかない強みは何かを考える時間が必要だった」と池谷は振り返る。

「このとき感じたことや経験したことが、お寺の価値を地域住民とともに考えるという現在の姿勢に活かされていると思います」

人のために動ける仕事を目指して、お寺の広報へ

2008年、リーマンショックが起きて業績が大きく落ち込み、上司や同僚の顔が次第に暗く沈むようになった。自分を含めた多くの社員が仕事や取引先の愚痴を言いながら働いていることに気づいたとき、池谷は「せっかく働くなら人に感謝されたいし、仕事に時間を費やした分、自分も幸せになりたい」と感じ始めたという。

転職のきっかけが生まれたのは、海外旅行ついでに自局の番組を英語でプレゼンテーションしていたとき。日本語の通じない国でも多くの人から「面白い」と言ってもらえた。それは「番組のコンセプトをしっかり伝えられたから」だと感じたという。

これからは、コンセプトから自分の言葉で作る仕事がしてみたい。そんな池谷の想いを知った同期が紹介してくれたのが、大手広告代理店ベトナム拠点での営業部長としての募集だった。一念発起してベトナムへ飛んだ池谷は、広告制作の上流工程を担うことになる。大手メーカーの新商品発売に合わせてキービジュアルを作り、メッセージを込めたポスターやテレビCMなどに落とし込んでいく仕事だ。

「専門用語の壁はもちろん、これまで自分が伝えてきたものは上辺だけだったという現実にもぶち当たりました。クライアントが自社の商品やサービスに込めた想いを真に理解せず、ただ人に伝えるだけの仕事をしていたのだと痛感しましたね。この商品のキーメッセージは何か。それを誰に伝えて、どう動いてほしいのかがわかっていなければ広告は作れないことを改めて知りました」

ベトナムで働く決意をしたとき、結果が出せても出せなくても、3年で次のステップに進もうと決めていた。3年目にあたる2016年、ハノイの町を歩いていた池谷は、生きることを心から楽しむベトナム人の陽気さと明るさから学んだことを日本に持ち帰り、誰かのためになるような仕事がしたいと思い立つ。時を同じくして、僧侶仲間から「東京のお寺で、広報を手伝ってほしい」という依頼が舞い込んだ。

「休暇を使って帰国し、住職一人でやっているお寺を訪ねて、課題をヒアリングしました。すると、今やお寺は、存在を自ら発信しないと誰にも気付いてもらえない存在になっているというんですね。僧侶を葬儀に派遣するサービスが広まり、お寺を持たなくても僧侶としてビジネスができる環境になりつつあって、お寺を守る住職として危機感を覚えていると聞いて驚きました。そこで、お寺の存在を知ってもらい、そこに足を運んでもらう活動をしましょうと提案したんです」

人と人をつなげる仕組みづくりでお寺を変え、価値向上を図る 人と人をつなげる仕組みづくりでお寺を変え、価値向上を図る

2017年、池谷は帰国して株式会社唯を立ち上げ、さっそくお寺のサポートを開始。都内のお寺で、通夜・葬儀の際に住職に帯同する役僧として従事するとともに、ホームページや寺の広報誌の作成などに取り組んだ。
そこで気付いたのは、一般の人にとってお寺は墓参りのために来る場所であり、自分から僧侶に話しかけたり、何かを相談したりする人はほとんどいないということだった。ならば、こちらからコミュニケーションをとろうと考え、門の前に立って声をかけるようにしたところ、次第に心を開いて会話に応じてくれる人が増えていったという。

「役僧や小僧がいっぱいいるお寺なら、忙しい住職に代わってコミュニケーションをとることができますが、一人で切り盛りしているお寺ではそうはいきません。必然的に参拝する人とのつながりは薄くなり、住職やお寺に親しみを持つ人も減ってしまうわけです。1年間勤めさせていただいて、檀家さんをはじめお寺にお参りする人と住職がこれからどういう道へ進まなければならないのか、そのためにお寺が市民のために何をすべきか、という道筋がはっきり見えてきました」

事業として、依頼があったお寺の業務代行を2つ提供している。ひとつは、僧侶の知見から僧侶に特化した人物紹介メディア「DIALOGUE TEMPLE」で僧侶の人柄を伝える記事を発信し、その存在価値を可視化する事業。もうひとつは、ユーザーの視点から檀家を取材した記事をユーザーレビューとして発信し、凡庸化した現代の寺院サービスの価値を可視化する事業だ。

「お寺が持つ願いの場、先祖を敬う場としての存在意義はしっかり残しつつ、もっと気軽に人が集まって話し合える場所にできたらいいと思っています。人と人とをつなげる仕組みをつくってお寺を変え、お寺の価値を向上させていきたいですね」

リスナーの目線

マインドフルネスや瞑想、禅などが持てはやされるストレス社会の現代。TV局やブランドエージェンシーの経験を持ちながら、自らも僧侶資格を持つ池谷さんが仏教界に新しい価値を吹き込むことで、日本中のお寺が人の心を癒し、正しいあり方を示す場になればと思いました。どこまでも謙虚なその姿勢がきっと多くのお寺に受け入れられ、社会との橋渡しになってくれることでしょう。

Profile

1975年、神戸市にある寺の次男として生まれる。大学卒業後は福岡のテレビ局に入社し、広告営業を経験。14年間勤めたのち、ベトナムの広告代理店に転職し、在越日系企業のブランディングに従事。2017年に帰国し、都内寺院の役僧を勤めながら株式会社唯を設立し、檀家や地域住民が寺院に何を求めるかを調査した。現在、寺院や僧侶の広報代行や檀家の満足度調査・ユーザーレビュー記事を執筆している。

Staff

インタビュー・編集:垣畑光哉、藤巻史/撮影:鈴木愛子

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