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「人」「食」「社会貢献」を起点にビジネス総合力を身に付け、即戦力として活躍
フランスのスタートアップと日本企業の架け橋に
「クロスボーダーだからこそ成せる革新的なイノベーションを」
SINEORA
CEO
今井 公子 / Kimiko Imai
フランス・パリを舞台に、現地のスタートアップ企業とオープンイノベーションを望む日本企業をつなぐ会社がある。SINEORA(シンノラ)だ。会社名は、日本語で「境界」と訳される「ORA」に、否定を表す接頭辞「SINE」を付けた造語で、「ボーダーレス」という意味合いを表している。SINEORAを牽引するCEOの今井公子は、会社設立の背景をこう語る。
「大小問わず企業というのは、新規事業の創出なしに成長を見込めない時代に突入しました。しかし、大企業や中堅企業は、組織の構造的に事業開発をスピーディに進めることが難しいのが実情です。また独創的なアイデアが生まれにくいという難点もあります。
一方スタートアップ企業は、ニッチな市場に狙いを定めて、独自のテクノロジーと斬新な発想でフレキシブルなビジネスを編み出す術を持ち合わせていますが、リソース不足が大きな課題です。そこで大手企業とスタートアップ企業が、互いに不十分な要素を補い合い、協業して新しいビジネスを輩出する仕組みが必要だと感じたのです」
国境や産業間のボーダーを越えたクロスボーダーのコラボレーションこそ、インパクトのあるイノベーションが生みだせると信じている今井。会社名の由来となっている「ボーダーレス」は、SINEORAの事業テーマでもある。
海外企業との協業を視野に入れながらも、海外市場の情報や知見が少ないがために好機を失い、情報収集やソーシングばかりに時間とリソースが取られている日本企業は少なくない。SINEORAが持つ網羅性の高いデータベースと優れたコンサルティング力を活かすことで、最適なビジネスマッチングを実現し、両者それぞれが本領を発揮して新たな価値創造をする環境を創っている。
ヨーロッパの中でも特にフランスは、スタートアップ企業が盛んだと今井は話す。その背景にあるのは、2013年にフランス政府が主導する形で始動した、スタートアップ支援プログラム「フレンチテック」。フランスのスタートアップ企業を世界レベルまで押し上げることを目的に、海外の優秀な起業家の招致や公的資金援助、エコシステムの構築を推進してきた。その甲斐あり、ベンチャーファンドの資金調達額は増加し、多くのディープテック企業が台頭する状態となった。
「フレンチテック成功の理由を挙げるとするならば、あくまで政府は旗振り役で、実際は民間企業やそこで働く人々がハンドリングする、官民一体型の政策ということ。国はビジョンを示し、最適なタイミングで資金援助や雇用促進を実施していますが、強権的な手段は一切とっていません。フレンチテックの中心的存在であるスタートアップ企業をはじめ、起業意欲の高い実業家やスタートアップ企業のビジネスパートナーとなり得る大企業にスポットを当ててくれたことが、スタートアップシーンの発展を加速させたと考えています」
フレンチテックにより、スタートアップ企業界隈、ひいてはテック産業全体がスケールアップし始めた時期に訪れたのが、新型コロナウイルスの流行だ。感染状況や医療体制を鑑みたマクロン大統領は、2020年3月16日、強制力の高い外出制限を国民へ要請。国境を閉ざすロックダウンが開始された。前年の2019年に正式にSINEORAを設立した今井にとって、あまりにも衝撃的な出来事だった。
「さあこれから、というタイミングで始まったコロナ禍。クロスボーダーを強みにしていた当社の事業にとって、渡航制限のかかるロックダウンは致命的だと感じました。少しずつ積み重ねてきたものが、一気に崩れ落ちた感覚でした」
もともとリモートワークに対する肯定感の高いメンバーが揃っていたため、社内のミーティング等はスムーズにオンラインへ切り替えることができた。苦戦したのはPR活動。設立間もないSINEORAを一人でも多くの人に知ってもらえるよう、ロックダウン中から毎月日本企業向けのウェビナーを開催し、地道に認知度向上を図ってきた。
新型コロナウイルスの感染拡大は、フランスの生活様式にも大きな影響を与えた。マスクの装着やテレワークの義務化、挨拶としてのハグやキスをする慣行が消えつつあるといった事態に、戸惑いを覚えるフランス国民たち。経済的な打撃も、当然避けられなかった。しかし早期の経済回復を目指したフランス政府は、資金援助や特別融資、税金免除など、他のEU諸国と比較しても大胆な財政措置を決行。その結果、企業倒産や失業を防いだ。
またコロナ禍を経験したフランス国民は「社会や環境問題に対する意識が変化した」と、今井は実感している。
「もともと社会問題に強い関心を抱くフランス人ですが、その傾向がより顕著になりました。使い捨て容器は使わずランチボックスを持参したり、ファストファッションではなく長く着られる高品質な服を選ぶようになったり、自転車通勤の人もよく見かけます。こうした動きは私たちのビジネスにとっても、無関係ではありません。最近日本でもよく聞かれるSDGsを事業に組み込む、スタートアップ企業への投資額はボリュームアップの傾向にあります。子ども世代が生きやすい未来をつくるために、個人企業問わず、社会全体で協同的に環境配慮に取り組む姿を見られるようになったのは、この2年の大きな変化です」
世界中に未曾有の打撃を与えた新型コロナウイルスの流行の始まりから、2年が経過しようとしている。「企業の真価が問われる分岐点の到来」という今井の言葉どおり、ここに来て業績を伸ばす企業と倒産する企業の二極化が進んでいる。それはスタートアップ企業も例外ではない。
「コロナ禍に突入して、しばらくは財政措置により危機的状況を免れていた企業も、経済支援がなくなった今になって倒産しかけています。そうした企業は、組織運営や事業拡大ではなく、資金調達ばかりにリソースを割いていたという特徴があります。もちろんスタートアップ企業にとって資金調達は必要タスクではありますが、固い信念のもと経営に臨まなければ淘汰されるということを目の当たりにしました」
部品の供給不足を理由に回復遅れにある製造業をはじめ、産業全体が停滞傾向に陥るケースもあるが、その中でも「模索し続ける努力が企業には必要だ」と今井は言う。予測不能な時代だからこそ、組織の基盤構築や事業のブラッシュアップといったアクションを積極的に取るべきだと考えている。そうした考え方の根底にあるのは、前職で勤めていた「ダッソー・システムズ」での経験だ。
今井は約20年間、デジタルトランスフォーメーション関連の事業に携わる中、うち14年ほどは、3D関連のソフトウェアをはじめ、設計から製造、販売までを一貫して手がける世界的なIT企業ダッソー・システムズに勤めていた。同社は頻繁な人事異動や組織変更、新規産業への参入や企業買収を繰り返しながら、事業の多角化を図ってきた。組織の中に身を置いていたときは、それが当然だと感じていた今井だが、企業から離れ経営者側に立って、改めてその必要性を痛感する。
「会社は生き物なんだと、改めて考えさせられました。環境に応じて、どんどん進化させていくことこそ、経営者の使命なのだと。パンデミックは、そうしたことを私に教えてくれましたね」
世界中が新型コロナウイルスの感染収束を願う中、2022年に実施されるフランス大統領選挙に対し、「ヨーロッパのテック業界を左右する正念場」と見解を示す今井。スタートアップ企業の発展を底上げしたフレンチテックの継続は、「欧州らしいテクノロジーを世界にアピールするチャンス」だ。
「欧州のテクノロジーは、『Tech for good』、つまり『より良い社会のための技術』といわれています。アメリカや中国の最新テクノロジーばかりが注目されがちですが、環境保護や格差是正といった、社会が抱える問題解決に対応する技術革新をリードするのが、欧州であり、フランスであるのだと考えています」
一方で、国によって母国語や文化が異なる欧州への市場進出は、国ごとに対応を変える必要があるため、ハードルが高いと考える日本企業が多いのも事実だ。さらに、成熟国家であるフランスの企業に投資をしても、新興国と比べて伸びしろが小さいというイメージもなかなか拭えない。こうした現状に、「今こそ商機」と日本企業にメッセージを送る。
「実は日本企業と仕事をしたがっているフランス企業がたくさんあります。先ほど話したTech for goodも、日本社会との親和性が高いコンセプトなのではないでしょうか。日本にはない独特のテクノロジーを駆使して、日本企業に特別なバリューをもたらすことができるはずです。日本企業にはオープンマインドでいてもらいたいですね。
また最近では、植民地時代から密接な関係を持つアフリカとのビジネス開拓の窓口として、フランス市場は注目を浴びています。広範囲にわたる海外展開を視野に入れている企業にとって、フランス市場には蕾が隠されているかもしれません」
フランスのスタートアップ企業に大きな期待を寄せる今井が、自身が率いるSINEORAに抱く想い。それは「インスピレーションを与える会社にする」ということだ。コロナ禍が始まって以降、着実に続けてきたリモート下でのビジネスディベロップメントやプロモーションが実を結び、2021年にはさまざまなプロジェクトを手がけた。「2022年は開花の年に」と、今井は意欲を見せる。
「新しいビジネスモデル、新しい考え方、新しいテクノロジー、そうしたものを発信し、皆さんに良いインスピレーションを与えたい。そして、企業や起業家の方が行動するきっかけを創る存在でありたいです」
公開日:2022年3月31日
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2000年、早稲田大学国際経営学修士(MBA)取得。東京にて日系、外資系企業に勤務し、2010年に渡仏。現在パリ在住、二児の母。過去20年間にわたり、東京とパリにて、ノキアやダッソー・システムズといった国際企業で、デジタルトランスフォーメーションの最前線に立ち、イノベーションによる変革をリードしてきた。ダッソー・システムズではワールドワイド間接販売チャネルのトップにアジア出身の女性として初めて就任し、戦略企画のVICE PRESIDENTまで務める。2019年、今までの経験を活かし日本企業の国際競争力を上げるためのクロスボーダーなオープンイノベーションを支援するSINEORA(シンノラ)を設立。最初から世界で成功する会社を目指し、いつまでも差別化や強みを生み出せる仕組みを持つ組織づくりを支援する。
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22 Rue Boissière, 75116 Paris,フランス
インタビュー:垣畑光哉/執筆:堤真友子/編集:ひらばやしふさこ
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