
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
INSIGHT LAB株式会社
代表取締役社長CEO
遠山 功 / Isao Tooyama
当社は社員の7割以上がエンジニアという技術者集団です。エンジニアは職人気質の人が多く、自分の技術力を生かせるものづくりが好き。黙々と仕事に取り組んで成果を出すのが得意である一方、集団の中で自分の色を出すのが苦手な傾向にあります。
日本人はどうしても他者と違うことをすることに抵抗があり、標準化に走りがちですが、自分自身の強みを生かしていくためには「個」の力が欠かせません。エンジニアといえば技術力、という昔ながらの伝統とも言える部分を変わらず大切にしながらも、一人ひとりの個性や人間力を伸ばせる環境づくりをしていくことが、現在の当社には必要であると考えています。 こうした考えの源には、プログラマ出身という私自身の経歴があります。高校で情報学科に進み、プログラミング漬けの毎日を過ごしました。高校を卒業する頃には10種類ほどのコンピュータ言語を使えるようになり、パソコンゲームを作るのに熱中。大学は数理学科に進んで、得意だった数学とプログラミングの理解を深めていきました。
このころは、「自分の会社を作りたい」という目標が明確になった時期でもあります。小さいときはみんな、「パイロットになりたい」とか「サッカー選手になりたい」という夢を持っていますよね。私は幼いころに見たドラマの影響で、漠然と「社長になりたい」と思い続けていました。
一方で、教師であり税理士でもあった父のあとを継ぐべきではないかと心のどこかで思ってもいたんです。特に兄が教師の道に進んでからは、自分には税理士が残されたと感じて、簿記の勉強もしていました。
しかし、やはり私の個性や適性とは違っていたのでしょう。畑違いという感覚が抜けず、原点である「社長」という夢に立ち戻ることになりました。経営者としては異色である「プログラマ出身」という経歴も、私の個性のひとつ。「自分らしさ」を信じて夢をつかみ取った自分の経験に照らして、社員たちには自分の弱みを潰すことより強みにフォーカスすることに力を入れてほしいと思っています。「個」を伸ばすための具体的な施策として、社内にはフリーアドレス制を取り入れています。エンジニアはつながりを求める習性があり、ひとつの環境に慣れ親しんでしまうと、変化があったときに柔軟な対応ができなくなってしまいます。席を定めず、あえて「個」を意識させることで、どのチームでも同じパフォーマンスを発揮してもらえるようにしました。
さらに、「ETP=エンジニアタレントプログラム」という制度を導入。エンジニアは一人ひとりがタレントであるとして、上下関係をなくすという取り組みです。役割によって与えられる名称は「リーダー」と「メンバー」「トレーナー」のみで、階層は存在しません。一見すると自由で楽なようですが、エンジニアのアイデンティティの確立、人間力の伸長を目的とした自由なので、自立性や自発性のある「個として成長したい人」でなければ残っていけないという厳しさもあります。
さて、「プログラマ出身の社長」と聞いて、どのように会社を経営していくか想像がつくという人がどれだけいるでしょうか。どちらかと言えば、技術の専門職として、会社を支えていく裏方的な役割のほうが働く姿をイメージしやすいと思います。
実際、経験談を聞こうと高校時代、大学時代の仲間や先輩を当たっても、経営者になった人はいませんでした。もちろん、私も経営の知識など一切なく、起業を志してはみたもののまさに五里霧中。そこで、まずは就職をして経験を積んでからフリーランスになり、ひとりで事業をスタートさせました。
法人化してから5年ほどは、後輩や友人・知人数名と地道にやっていましたね。技術力には自信がある人間の集まりなので、お客様からご要望があればたいていのことは実現できます。私が2社目でビッグデータを扱っていたので、世間で話題になるかなり前からビジネスとして展開できていたのも他社にない特徴でした。
反面、営業が不得手な仲間ばかりですから、基本的なスタイルは「待ち」。依頼があればお客様の想定以上の技術で応えられるものの、お客様への働きかけは一切できていませんでした。業績をさらに向上させていくためには営業力の強化が欠かせないと、営業手腕に定評がある人物を取締役に迎えたのは最近のことです。「自分たちで仕事を取りに行く」という会社としてあるべき形が確立され、「頼まれたものをどう作るか」から「自分たちの強みをどうアピールしていくか」へと考え方も変わってきました。
私たちの強みは、企業が保有するデータを事業にどう生かすかというビジネスインテリ ジェンス(BI)分野に早くから着眼してビジネスを展開してきたこと。そして、分析したデータから新たな仕掛けを作り出せる技術力と、企業のニーズに合わせて適切な対策やシステム構築を提案できる力です。
そこで、「世の中にあるデータを使って何ができるかという可能性をシステムの力で可視化し、お客様の挑戦に貢献する」というソリューションのゴールを定め、迅速な意思決定のための情報分析システムを構築する「BIサイエンス」、分析したデータを顧客ごとに最適化したシステムとして提供する「Webシステム開発」、開発力に限定せず問題解決を図る「ITコンサルティング」という3つの領域でビジネスを展開することにしました。
企業が持つ情報を適切に分析・加工・発信してお客様の多様なニーズに応えていくという信念は、どの事業にも共通しています。
当社ではプロジェクトへの参加も社員の意思に委ねています。手を挙げた社員に責任ある仕事を任せ、プロジェクトごとにチームを作っていく。プロ意識が高くハイレベルな技術を持った社員ばかりですし、自らの意思でプロジェクトに参加するわけですから、当社のものづくりの現場は「ワクワク」に満ちています。大切なのは、「ワクワクの理由」を自分に問い、納得できる理由を見つけること。当社の企業文化である“ワクワク”し“ふむふむ”するという好循環の繰り返しこそ、お客様の挑戦に貢献するというゴールへの近道なのです。
こうした文化やビジョンを社員と共有し、同じ目線に立ってお客様の満足度を高めていくためには、教育制度の充実が不可欠です。私は研修のような「教える場」をたくさん設けることが教育だとは思いません。「教えなくても自分で学んで伸びる環境の提供こそ教育である」というのが持論。いつの間にか学ぶ力が身に付き、自然と知識を吸収できる環境を整えることが真の教育だと考えています。
社内には知識の交換ができる社内ポータル、教えを請いたい人のそばに自由に座れる雰囲気づくりなど、小さな仕掛けがいっぱい。私も良いと思ったことは積極的に発信し、社員の士気高揚を図るとともに学ぶ意欲を刺激しています。
例えば、「今日のこんな提案がよかった」「誰々のプレゼンがよかった」というような感想が社員間でシェアされれば、関わった本人は自分の仕事に自信が持てます。すると自然に、さらに良い仕事をしよう、そのために知識を増やそうという考えにつながっていくでしょう。「100年企業」を目指して、社員一人ひとりの成長を促し、より強力なプロフェッショナル集団へと進化していきたいですね。
今後は、子会社をつくり、「アイウェイズグループ」として付加価値をつけたサービスを展開しながら、「100年企業」実現への基盤を固めていく予定です。2016年春には自社運営のWebサービスを展開する100パーセント子会社「デジタルシード」を設立。これを足掛かりに、いずれは子ども向けのIT教育や、事情があって退職した人の就労支援など、BtoCの事業に特化した子会社の設立も視野に入れています。
一方で、最近になって「IPOはしない」という決断を下しました。理由のひとつは、やはり私は技術畑出身の人間で、人前に出て弁舌さわやかにサービスを語って支持を得るよりも、技術力で勝負したいという思いが強かったから。もうひとつは、上場した結果、株主利益を優先して思うようなビジネスができなくなるのは避けたいと思ったからです。あくまでも、自分の原点であるプログラマという立ち位置から、会社が一番スムーズに機能する道を探していきたい。やはり私は、根っからの技術者なんだと思います。
技術者は集まって仕事をするもの。高稼働で精神的にも肉体的にもきつい仕事である。業界には、いまだにそんな不文律があります。
私はそこに一石を投じて、技術者のクリエイティブな側面を大切にできる会社を創りたい。社員の個性を伸ばすように、会社としても他社とは違う個性を出して、技術者が純粋に仕事を楽しめるような「ワクワク」する会社を創っていきたいですね。
自らの紹介に「現場が好きな」と冠するほど現場を愛する遠山さん。その愛はそのまま、社員への愛でもあります。現場の課題や悩みと真摯に向き合い、常識にとらわれない解決方法を探る。仕事に喜びを感じる瞬間を丁寧にすくい上げ、既成概念にとらわれない勤務環境をつくる。正直で真面目な人、という第一印象そのままのまっすぐさが、社員の心を惹きつけているのでしょう。
1977年生まれ、東京都出身。高校時代から多数のプログラミング言語を修得。さまざまなプログラム開発も手掛ける。2000年に東京電機大学を卒業後、システム開発会社に入社。その後、CRM・データベースマーケティングを支援する会社でマネジメントを経験。2005年にアイウェイズ株式会社(現INSIGHT LAB株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。2018年3月代表取締役会長CEOに就任。ITコーディネータ(経済産業省推進資格)、PMP(米国プロジェクトマネジメント協会認定)、ITIL(英国政府機関認定)などの資格を持つ。2013年度より東京電機大学非常勤講師を務める。
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
一人ではできないことを、チームで実現させるスイミー経営
入社1年目にして大阪本社の新規プロジェクトに抜擢。2年目には東京拠点の立ち上げを担う
写真家と事業家、二つの顔で自然や動物に寄り添う
タグ