
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
「最高のチームを創る」プロダクトミッションに想いを込めて、新規事業開発に全機現する
株式会社ZENKIGEN
代表取締役CEO
野澤 比日樹/Hibiki Nozawa
新規事業責任者
曽良 竜太/Ryota Katsura
米国の人材コンサルティング会社が世界各国の企業を対象に行った「仕事への熱意度調査」(2017年)によると、日本で仕事に熱意を持っている人の割合は全体のわずか6%。これは139カ国中132位で最下位クラスであることが判明した。
「このままでは、この国は衰退していくばかりだ」
2017年10月、代表取締役CEO野澤比日樹が株式会社ZENKIGEN(ゼンキゲン)を立ち上げたのは、そうした危機感からだった。
「大人が1日のうち最も時間を費やすのが仕事です。人材を経営資源の一つとしてとらえるHR領域をテクノロジーで変え、活気ある社会を次世代に引き継ぎたい。そんな想いで会社を創業しました」
社名のZENKIGENは、禅の言葉である「全機現(ぜんきげん)」からとった。「人の持つ能力のすべてを発揮する」という意味で、仕事において誰もが全機現できる社会を実現したいという願いを込めた。
ZENKIGENが開発した最初のプロダクトは、採用DXサービス「harutaka(ハルタカ)」。harutakaは、オンラインのライブ面接ができるだけでなく、AIで自己PR動画を解析し、応募者の印象を定量化したり、面接担当者に面接品質をフィードバックしたりする機能を備えている。
今でこそコロナ禍でWeb面接は当たり前となったが、harutakaがリリースされたのは2017年。当時は、海外や地方に住む学生の採用に力を入れる企業や、先進的な取り組みをする企業などを中心にプロダクトの導入が進んでいた。そんな中で迎えたコロナ禍では、プロダクトの機能、負荷、運用のキャパシティーを含め万全の体制で臨み、各社の採用業務を支え続けた。
このharutakaに採用されているのが、アフェクティブコンピューティングといわれる技術だ。例えば、口角、目線、体が横に動くか、縦に動くかなどといった動きを行動心理学に基づいてAIに学習させることで、安心しているか、過度に緊張していないかなどを解析することができる。
2021年11月、ZENKIGENはアフェクティブコンピューティングの技術を応用した二つ目のプロダクトをリリースした。1on1改善サポートAI「revii(リービー)」だ。
reviiは、オンライン上で1on1を行い、お互いの表情や体の動き、発話の内容などをAIで分析する。その結果、メンバーがどんな状態にあるか、マネージャーとメンバーの関係性はどうかといった視点から1on1を評価し、チームがより良い状態になるよう改善を促す。マネージャーとメンバーの関係性は組織図上にマッピングされるため、コミュニケーションがどこで活性・非活性になっているかが可視化される。
reviiの企画・開発に取り組んだのは、新規事業責任者の曽良竜太だ。
曽良は、過去さまざまな事業の立ち上げに携わってきた。コミュニケーションAIの技術を駆使して「対話」のレベルをアップデートしていくことで、職場だけでなく医療や教育など、あらゆる産業を変えていけるのではないか。ZENKIGENの持つ技術にそんな可能性を感じて入社した。曽良に課せられたのは、ZENKIGEN独自のAIエンジンをベースとして、職場環境を改善する新しいツールを企画・開発するというミッションだった。
世の中の職場環境を良くするには、どうすればいいか。これまで、さまざまなチームを立ち上げ、所属してきた曽良は次のように考えた。
これまでいろんなチームを立ち上げた経験から、心理的安全性の高さと仕事に対するやりがいが重要だということを身をもって知っている。そこでは互いが学び合い、楽しく働ける。そんなチームを世の中に増やせば、熱意を持って働く人が100%になって、とんでもないことが起こるのではないか。
世の中は、誰かの仕事でできている。一つ一つの仕事が良くなっていけば、世界は良い方向へ、ものすごい勢いで変わっていくだろう。
「まずは、職場の1on1コミュニケーションをアップデートして、そこで働く人たちがやりがいを持って働けるようにする。お互いに言いたいことを言い合える関係性を持った、最高のチームを創る。そんなビジョンを掲げて、reviiの事業を推進し始めました」(曽良)
新しい事業を作る。その苦しみを、曽良は次のように語る。
「一番大変なのは、『なぜやるのか』が決まるまでですね。新規事業開発は孤軍奮闘。いろんな人から意見され、心が折れそうになることもあります。『なぜ自分がそれをするのか』が定まっていないと、とても苦しい思いをすることになります」
曽良は新規事業を作るうえで、reviiとしてのプロダクトビジョンとミッションを掲げた。
プロダクトビジョンは、「すべてのチームを『最高のチーム』に」。すべてのチームが最高のチームになれば、世界を変えるチャレンジにつながる。最高のチームを創るためには、一人ひとりの個性や信頼の結束が不可欠だ。そこで、ミッションは「『つながり』をエンパワーメントする」とした。
ビジョンとミッションを実現するためのバリューも、練りに練った。事業立ち上げメンバーとオンラインで集うキックオフ“合宿”を行い、「最高のチーム」とは何か、意見を交わし合った。「チームのメンバーを信頼し、背中を任せる」「チームとして何を成し遂げたいか、問題の本質と向き合う」「ZENKIGENが掲げる壮大なビジョンを語るには、それに見合う力が必要だ」——。
新規事業はただでさえ不確かなもの。スタートアップの新規事業は「不確かの二乗」といえる。だからこそ、チーム作りを進めるにあたってはこうした明確なビジョンが必要だ。
「これまでさまざまな事業やチームの立ち上げに携わってきましたが、最終的に一番大切だと感じたのは『意義』や『志』です。そこに引かれて参画してくれる人もいる。そして、志や想いがなければ自分たちが潰れてしまう。『なぜやるか』を明確にすることこそが、新規事業のリアルなのだと思います」(曽良)
プロダクトビジョンを作り込むところから始まった新事業開発。その開発の過程にも困難はあった。一番の課題となったのが、reviiの肝となるAIの精度とUXだ。
AIが1on1を評価するうえで、その結果が人の主観と一致するかは大切な要素だ。AI側が「このメンバーは積極性が高い」と評価しても、実際に面談をしたマネージャーは「積極性がない」と感じているかもしれない。AIと人の主観をすり合わせる必要があるのだ。
また、プロダクトを主体的に使ってもらうには、UXの作り込みも重要だ。1on1の分析結果に対していかに納得感を持ってもらい、実際の改善につなげるか。
「例えば、マネージャーが『今日の1on1はこちらの想いをしっかり伝えよう』と、時間内の9割発言したとします。AIがその1on1を分析して、『あなたは話しすぎです』『メンバーには積極性がありませんでした』と評価したら、マネージャーは納得がいかないでしょう。そうでなく、『しっかり想いを伝えられましたね』と評価したうえで、『次回は相手の感想を聞いてみましょう』というサジェストをするなどしています」
こうした改善をするために、曽良らは顧客へのヒアリングを欠かさない。プロダクトをどう活用しているかはもちろん、その組織のマネージャーとメンバーの実際の関係を知ることが大切だと言う。マネージャーにはメンバーのことを、メンバーにはマネージャーのことをヒアリングして、プロダクトがそのチームにどんな価値を提供しているのかを探り出す。
「こうしたUXの一つ一つを確かめていくことで、競合に対する優位性が上がると考えています。プロダクトの磨き込みは緻密にしなければいけません」(曽良)
reviiが掲げるプロダクトビジョン「すべてのチームを『最高のチーム』に」を実現するためには、reviiで可視化できる指標が、人的資本経営において重要であることを経営者に気付いてもらう必要がある。
「どんなメンバーが活性化していて、どんな活躍をしているか。それを見える化することが私たちの役割だと思っています。reviiで1on1を実施し、組織の状態が可視化されることは、人的資本において有用であると経営者に認識してもらう。この取り組みを世の中の企業に拡散していくことで、『最高のチーム』が増えていく。そんなロードマップを描いています」
曽良は、その先の未来にも想いをはせる。
「こうしたデータは最終的に個人に還元すべきだと考えています。会社の中で誰と接して、どんな活躍をしたかといった、職務経歴書や履歴書には表れないデータを基にすれば、世界で一番輝ける自分の職場が見つかるかもしれません」
ビジョンとして、「会社のため」「社会のため」を掲げる会社は少なくないが、ZENKIGENが掲げるのは「次世代のため」。次世代に向けてより良い社会を作るという壮大なビジョンは、3年や5年で実現できることではない。長いマラソンを走りきるために、野澤は「社員一人ひとりが充実した人生を送ることを推奨したい」と話す。
「家族、趣味、運動、食事、仲間……。人生はさまざまな構成要素で成り立っています。社員には、バランスの良い豊かな生活を送ってほしい。そういう生活を送っていなければ、『社会のため』『次世代のため』に目が向かないと思います。社員が心身共に充実し『全機現』しているからこそ、良いプロダクトが生まれ、良い社会を実現できる。長い時間をかけて、この好循環を生み出していきたいです」
公開日:2022年9月8日
野澤比日樹
1998年、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。1999年、創業期の株式会社サイバーエージェントへ転職し、大阪支社の立ち上げ、社長室、事業責任者などに従事し、会社の成長に貢献。2011年に孫正義会長の誘いでソフトバンクグループの社長室に入社し、電力事業であるSBパワー株式会社の設立、立ち上げに携わる。2017年10月、株式会社ZENKIGEN創業。
曽良竜太
2007年、株式会社アイ・エム・ジェイ(現:アクセンチュア株式会社)に新卒入社。コンサルティングや経営企画室、新規事業の立ち上げなどに従事。2012年にエムスリー株式会社に入社し、医療情報専門サイトの運用チームリーダーを経て、2014年より株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、新規事業責任者として保険のオンラインコンペアプリや、カードローンの与信サービスをリリース。
2021年よりZENKIGENにジョインし、1on1改善サポートAIサービス「revii(リービー)」の事業責任者を務める。
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東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル6階
インタビュー:垣畑光哉/執筆:森田大理/編集:佐々木久枝
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