世界に通用する日本発のマーケティング会社を作る

株式会社アイスタイル 取締役兼COO(最高執行責任者) 高松 雄康

高松 雄康Yukou Takamatsu

株式会社アイスタイル

取締役兼COO(最高執行責任者)

アイスタイル グローバル

シンガポール代表取締役CEO

2015.06.09

語学よりも大切なのはビジネススキルとビジョン

私は1996年に博報堂に入社し、営業として8年間大手自動車メーカーを担当しました。自分のビジネスの基礎づくりをした時期です。担当していた自動車メーカーは、グローバルな大企業で、後半の4年間はブラジルなどの中南米も担当し、多くの経験を得ました。ただし当初は、なぜ自分が担当者として選ばれたのかと疑問に感じていました。私は留学経験もないしMBAホルダーでもない。語学スキルがあるわけでもなかったので「どうやっていけばいいか」と頭を悩ませていました。

そこで上司に、なぜ私が海外担当に選ばれたのかと尋ねたのです。すると「お前は分かってないな」と笑われました。

「海外ビジネスに必要なのは言葉じゃない。ビジネススキルとビジョンだ」「お前に言葉ができなくても、言葉ができる人間を隣に置けばいいだけだ。だから言葉なんて関係ない。なぜお前に海外をやらせていると思っているんだ」

この時の上司の言葉は、今でも私にとって財産です。海外がぐっと自分に近づいてきて

「そうか、自分も海外ビジネスができるんだ!」と思えました。

だからといって語学の勉強をさぼっていいというわけではありませんが、確かに語学はツールでしかありません。外国の言葉を使える人は世の中にたくさんいる。でも、ビジネススキルとビジョンを携えて、海外ビジネスができる人の数は少ないのです。やがて「グローバルで通用するビジネスをしたい」「いつかは自分で経営をしたい」という気持ちが育っていきました。

博報堂で8年目に入ると、ビジネスについて、特にその歳でできる広告代理店の仕事に関しては、ほぼ一巡した感がありました。そして、これまでは1社のビジネスを変えていくことに取り組んできたけれども、そろそろ市場そのものを変えるとか、マーケティング業界を変えるビジネスをしたいと思うようになりました。

私が現在勤めている会社・アイスタイルの代表取締役社長である吉松徹郎は、大学3年生以来の親友です。彼がアットコスメを立ち上げた時は、正直なところ「クチコミサイトなど始めてどうするのか」と思いましたが、広告代理店との付き合い方など「こうしたらいいよ」と個人的にアドバイスをしていたのです。会社を辞めて起業しようと考えている時に、1999年からすでに起業している吉松に相談しました。すると「起業しないで経営しないか?」と持ちかけられ、私はアイスタイルのボードメンバーにジョインしました。当時のアイスタイルはまだ正社員70名程度で、ずっと赤字でした。そこで、私が1年間広告マーケティングの統括をして黒字に転換し、「ここまでやったのだから、好きなことをやらせてほしい」とアイメディアドライブという会社を立ち上げました。これは、日本で最初に行動マーケティング型のアドネットワーク構築を手がけた会社です。今でこそ広告の仕組みとしてはメインになりましたが当時は早過ぎました。その後、リーマン・ショックなどの影響などもあり会社は解散、私は再びアイスタイルにコミットしました。

海外にいるからグローバルモデルを考えられる

アイスタイルにジョインした時から、私にとっては「この会社を世界で通用する日本発のマーケティング会社にする」ということが大きな目標でした。大手は別ですが、日本から海外に進出して通用しているマーケティング会社はまだありません。それをベンチャーで実現する。これは私の中にある明確なビジョンです。

実際にシンガポールとインドネシアに拠点を構えたのは2012年ですが、実はそれより5年ほど前から中国の美容系クチコミサイトに投資を始めました。海外ビジネスは投資フェーズが長いので体力が必要です。当時はまだ上場前で、ひとまず投資をしながら、アジアで自分たちに何ができるか模索することにしました。中国でもアットコスメのような美容関連メディアを作れないかと考えましたが、中国市場を見渡すとそれはなかなか難しい。投資したウェブサイトも苦戦していました。

そこでファーストステップとしては、日本の化粧品の輸入やプロモーションのサポートから始める方針を決定。アイスタイルの掲げる「ビューティープラットフォーム」という戦略は、美容関連のすべての事業に関して、生活者と企業の接点になるというものです。それが、中国ではゴールデンタイムに放映するテレビ番組という形となりました。

中国でのビジネスに目処が立つと、香港にヘッドクォーターを置いて中国や台湾へと展開することも検討しました。しかし中国は化粧品市場にまだ伸びしろがあるものの、マーケティングの業界から見るとすでにかなり成熟市場で、日本人が優位に立つのは困難です。一方、アジア全般に目を向けると、可能性はまだまだ残されています。先行メリットを得るべく、早めに進出しようということになりました。

もちろんアジアと一括りに言っても、実際は国によって文化も言葉も状況も違います。まずはシンガポールに拠点を置き、どのようなビジネスを始めるか考えました。そのためには、母体である国内ビジネスが盤石であることが必要です。そこで、海外ビジネスへの思い入れが誰よりも強い私が、日本のすべての事業を統括して収益を確保しつつ、海外も立ち上げるということになり、毎月2週間ずつシンガポールと日本を行き来するようになりました。

シンガポールは本当にいろいろな人たちが出入りするので、まさに情報のハブです。いろいろな話がある中、痛感したのはやはりアジアで勝つためには相当大きな投資が必要であることが分かりました。アットコスメのようなメディアを立ち上げるなら、特にかなりの投資が必要です。日本でも収益化に10年かかりましたが、アジアではそれ以上かかるかもしれません。たくさん議論を重ねて出した結論は、まずは一番可能性のあるもの、つまりマネージメントと人だけで突破できるマーケティングビジネスから手をつけるということでした。

そして、これから経済が成長し業界としても伸びていくと見込んでインドネシアを選び、首都ジャカルタにデジタルマーケティング会社を立ち上げたのです。

現在、シンガポールの拠点はヘッドクォーターとして、ジャカルタのマネージメントをしています。彼らがビジネスをしやすいようにサポートする立場です。

また、シンガポールには私たちと繫がりが深い化粧品メーカーの拠点も数多く集まっています。そこで中国の場合と同じく、こうしたメーカーのマーケティング活動のサポートも先行者メリットを活かしたビジネス機会を窺っています。初めてオフショア開発したグローバル対応でマルチ言語のウェブサイトを作れるコンテンツマネジメントを、ad:tech NewYorkでリリース発表するなど実績を積み重ねています。

オフィスはガラス張りで、目の前にはプールが見え、キッチンや洗濯機も備えたソーホータイプのオフィスです。私は毎朝、社員の誰よりも早く行ってそのプールでひと泳ぎしてから仕事に取りかかります。ここでは開発を手がけていて、運動不足のメンバーがほとんどです。そこで、最近は週に最低一度は皆で朝8時半に集合して、シンガポールの街を走り、一緒に朝食を摂ってから仕事に臨んでいます。

インドネシアのオフィスにもよく行きます。ジャカルタ市街地の渋滞がひどくなければ、シンガポールとジャカルタは東京から大阪に行く程度の時間感覚で行き来できます。こちらは立ち上げから2年で黒字化し、業界としてもトップ5に入るデジタルマーケティング会社へと成長しています。知名度も上がり、政府のインバウンドの仕事も受けていますし、Googleからエージェンシーで最高の賞もいただきました。

もちろんすべてが順風満帆というわけではありません。大きな失敗もしています。誰を信用するなど、日本では容易にできる見極めが、海外にいると途端に難しくなります。

しかし、完全なグローバルモデルのビジネスは、日本にいたら思いつかない、時には日本だと成功しないようなモデルということもあります。だからこそ、海外拠点を構えた意義を感じるのです。

アジアで何が通用するのかというのは、やってみなければ分からない。だからこそトライ・アンド・エラーを繰り返していくしかありません。そしてそれを許容できる会社でなければ、アジア進出は不可能です。

ひとまずインドネシアは軌道に乗り始めたこともあり、今はアットコスメという本業を今後アジアで展開していくのかどうか考えるタイミングに来ています。

また、アジアには魅力的な市場がまだたくさんあります。特にベトナムとタイについては、いずれにしても何かトライしていきたいと思います。その他に考えているのは、日本のプレイヤーがどこでも円安の煽りを受けている今、海外で頑張っていくなら他社と組むことも考えていく時期に来たと感じています。

欧米系の企業は、莫大なキャッシュを抱えて勝負をしてきます。これに負けないためにも、日系企業は特に海外ベンチャー同士、ウェブ系の企業同士が手を組んだら何ができるか考えるべきです。シンガポールには志を同じくするプレイヤーが集まっているので、何か大きな取り組みをしたいと考えているところです。

高松 雄康

インタビュアーの目線

一見、肩から力が抜けた雰囲気を醸しながら、実は大手広告代理店で得た知見をもとに会社を黒字化した手腕が評価され、現在は国内のマーケティングと海外事業の統括を任されるスーパービジネスパーソン。日本と複数の海外拠点を飛び回りながらその重責を担うご苦労はいかばかりかと察せられますが、それも社内外からの期待の表れなのですね。

書籍「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち 」から掲載】


Profile

1996年、株式会社博報堂入社。
主に大手自動車メーカーのキャンペーン全般を担当。2005年より日本最大のコスメ・美容の総合サイト@cosmeを運営する株式会社アイスタイルに経営参画し2012年に東証1部上場。2006年には、ユーザー参加型のドラマ広告を展開し第6回TIAAを受賞し、DAコンソーシアム社と共に日本初の行動ターゲティング型アドネットワークの立ち上げに従事。現在はアイスタイル取締役兼COOとして主にマーケティングと海外を推進統括している。

Contact

株式会社アイスタイル

〒107-6034
東京都港区赤坂一丁目12番32号 アーク森ビル 34 階
03-5575-1260
http://www.istyle.co.jp/

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