世界中にトンネルを掘り、人と人を繫ぎたい

ENZAN (ASIA) PTE. LTD. Director 藤田 裕司

藤田 裕司Yuji Fujita

ENZAN (ASIA) PTE. LTD.

Director

2015.06.05

3K=3D現場にITソリューションを

現在シンガポールでは、地下鉄を主にしたトンネル建設プロジェクトが目白押しです。

トンネルを掘るのは、直径約7メートル、長さ約10メートルの円筒の形をした、先端が回転しながら前進していくシールドマシンという機械で、これを使って上手に掘るためのシステムが当社の製品です。業界では当社の名前を取って〝enzan system〞と呼んでいただいています。

システムはまずカーナビのような役割を果たし、あらかじめセットしたルートに沿ってマシンをナビゲートします。測量器を自動制御し、複数のセンサーを使うことで精度を保ち、軌道が誤差5センチ以内に収まるようマシンをガイダンスしていくのです。システムにはセンサーが集めた各種のデータを記録するドライブレコーダーのような役目もあり、現場のエンジニアたちに多様な情報を提供します。このシステムはこれまで日本を含め、世界20ヵ国、約1000本のトンネル工事に利用されています。

最初にシンガポールのトンネル工事に当社のシステムが導入されたのは10年ほど前で、この時は日本のゼネコンからのお声がけによるかたちでの参加でしたが、シンガポールを含むその他各国での実績も増やし、今では日本以外のお客様からもお仕事をいただき、各国のプロジェクトに参加させていただいています。

シンガポールの公共交通機関は現在全長180キロですが、2030年までに360キロとなる計画が発表されています。これは現在の東京の地下鉄(東京メトロ+都営地下鉄)に匹敵する大工事です。その大多数の現場で、当社のシステムを使って掘削することを目標としています。

トンネルを1本掘るためにたくさんの人(人種・職種)が関わります。そして地面の下というのは、目で視ることができないため、何が起こるか分からない世界です。当社のようなITソリューションを導入しているとはいえ、環境をある程度コントロールできる工場などに比べて不確定要素が多く、いわゆる3Kの労務集約型現場です。

言葉遊びのようですが、私は日本の3K(きつい、汚い、危険)を英語でDifficult, Dirty, Dangerousの3Dと説明しています。私たちのシステムはこのきつい・汚い・危険の3D現場に三次元(3D)でマシンをガイダンスするITソリューションを提供しているのです。当社のシステムで集めているデータをもっと活かした、新しいサービスを開発して現場に貢献していきたいと考えています。

ニッチな業界ではありますが競合他社は存在します。2013年4月にシンガポールで駐在事務所を立ち上げ、現場に足繁く通い、もっと海外に展開するためにはどうするべきか、たくさんヒアリングしてきました。システムの操作は納品時の1週間で現場ユーザーに覚えてもらいますが、その後もユーザーからの質問に対して迅速に対応したり、要望に対してシステムを改良したりしています。現地に拠点を置くことでお客様からのフィードバックを直接受けることができる、有利な体制ができました。

システムの良し悪しの判断、差別化に繫がるのは、システム自体は当然として、「サポートが良かったから」ということが多々あります。だからこそ、全力でサポートしてお客様の心を掴むつもりで臨んでいます。

また、システムのユーザーだけに留まらず、各プロジェクトにたくさんの国からいろいろな職種の人たちが関わっているので、彼らが将来自国に帰った時にそれぞれの国で当社のシステムやサポート力の良さを広めていってもらいたいと思っています。

世界の都市を巡ると、都市の発展は同じ流れを辿ると感じます。まず地上の発展があり、ある程度開発が進むと地下の開発が始まり、地下鉄や道路、上下水道、共同溝などのトンネルが作られていくのです。

数年前までは中国を主とした世界各都市のトンネル工事にシステムを提供していましたが、最近はジャカルタやホーチミンなど、東南アジア各地でも地下鉄工事が始まっています。インドではデリー、ムンバイ、バンガロール、チェンナイで実績がありますが、新しいプロジェクトも進んでいます。

これまでも海外業務は多かったのですが、2011年からは特に増え、アメリカ、メキシコ、中国、台湾、タイ、ドバイ、そしてシンガポールの現場に関わらせてもらいました。1ヵ月のうち1週間から半分は海外に行っていました。

シンガポールの地下鉄工事についても、私が関わり始めた当初は月に1回ペースで日本から通っていましたが、シンガポールや周辺各国にビジネスチャンスを感じ、駐在させてほしいと会社に進言しました。駐在員事務所を立ち上げて1年が経ち、2014年の6月、現地の会社と組んで、数ヵ月前から準備していたLTA(陸上交通庁)の新しいプロジェクトを正式に受注することができました。同時に、駐在員事務所をENZAN(ASIA)PTE.LTD.として法人化し、私が現地責任者に就任しています。

トンネルを通じて人と人を繫ぐ

私は工学部の出身で、大学・大学院と土木工学を学びました。卒業後に就職したのは大手通信会社で、最初の赴任地は鹿児島県でした。学生時代から興味があったITと土木で学んだインフラ構築を組み合わせた仕事がしたいと考えていたのですが、成熟した大きな組織の中では、自分のやりたいことと実際の仕事との差異に疑問を感じるようになりました。そんな時に学生時代にアルバイトをしていた京都の会社(株)演算工房と再度ご縁があり、転職を決めました。

アルバイトをしていた当時から、演算工房の海外ビジネスは軌道に乗りつつありました。そして、私が社員として戻ってきた頃にはさらに海外案件が増えていました。海外展開の波にうまく乗れたのだと思います。入社2年目には私も海外に出るようになり、最初はソウル、次はイスタンブールのボスポラス海峡トンネルの現場に行きました。学生の頃から海外で仕事をしたいと思っていたので、海外での業務は苦になりませんでした。

私が生まれ育ったのは広島県広島市の外れです。海外との接点などほとんどない田舎でしたが、あるとき父が仕事で2週間ほどアメリカに出張し、お土産に黄色い紙のノートを買ってきてくれました。その色合いも触った時のざらざらした感触も自分の知っているノートとはまったく違い、外国にはこんなものがあるのかと憧れが芽生えたのです。小学校4年生の頃には英語に興味を持ち、近所の寺の境内でやっていた寺子屋のような英会話教室に通い始めました。

大学時代に初めて海外に出て、バックパッカーの旅をしました。最初に訪れたのはイギリスで、映画「トレインスポッティング」に触発されてロンドン〜エディンバラを往復しました。その時は友人と2人でしたが翌日から別行動になり、旅先の宿で一緒になった人と友達になったりして一人旅の楽しさを覚えました。それからアメリカ西海岸やニューヨークへ行ったり、ユーレイルパスでヨーロッパ各国を巡るなど、アルバイトでお金を貯めては海外に出ました。東南アジアを旅したこともあります。旅に出るたびに、価値観や文化などまったく違う人たちと出会い、そして将来はこういう人たちと一緒に仕事がしたいと思うようになりました。

シンガポールに腰を据えてから、新しいチャレンジがたくさんあります。今は自分とローカルスタッフ2人だけの小さな会社ですが、ずっと技術畑にいたので経営は未経験。トップ兼ペーペーの新米です。そして、今やっていることが一番面白いと感じています。

かつて海外を旅行したり、大学で研究したり、会社でシステムを開発したりした断片的な経験が、すべてがひとつに繫がって仕事に活かせるようになってきました。また、出張ベースで通っていた頃より遥かに人との繫がりが広がりました。シンガポールはもちろん、それぞれのプロジェクトには世界中からいろいろな国の人たちが集まってきています。役所、企業のお偉いさんとお話しする機会もあれば、現場で作業をしている人たちと一緒に汗水流して過ごす時間もある。かつて望んだ以上に世界中のさまざまな人たちと一緒に仕事をすることができています。ダイバーシティを肌で感じ取れる刺激的な環境です。

私はこれまでトンネルづくりというのはPlace to Place、つまり場所と場所を繫ぐものだと思って仕事をしてきました。しかし、こうやってトンネルづくりをすることで、「People to People」、つまり人と人との繫がりを広げる仕事でもあるのだと気づいたのです。私自身もまわりの環境が変わるたびに、数々の素晴らしい出会い、悲しい別れがありましたが、それらがすべて今の自分の糧になっています。

これからますます世界中のトンネルづくりに関わり、〝enzan system〞を広めていきたい、この地球の地下開発に携わり、世界中の人たちを繫げて貢献していきたいと気持ちを新たにしています。今までも会社にはたくさん失敗を経験させてもらってきました。失敗した分だけさらに次のチャンスが巡ってくる。だから、ひるむことなく挑戦し続けていこうと思います。

藤田 裕司

インタビュアーの目線

「リアルな空気感をお伝えしたい」という藤田さんの熱意により、ダイナミックな発展を続けるシンガポールの地下で粛々と進むトンネル工事の現場取材が実現。日本人が世界のインフラ作りに貢献している様を目の当たりにして、誇らしい気持ちになりました。ワインが大好きという藤田さんのエスコートで夕食もご一緒していただき、素敵な一夜でした。

書籍「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち 」から掲載】


Profile

1979年、山口県生まれ。
広島修道高校卒業後、1998年京都大学工学部に入学、2004年同大学院修了。学生時代はメタンハイドレート含有地盤の解析を研究する一方で、アルバイトで貯めたお金で海外を旅行し、旅行者や現地の人たちと直に触れ合う。卒業後は大手通信会社に就職、鹿児島県に赴任。離島を含む県内通信設備構築に携わるが、縁あって京都に本社を置く㈱演算工房に転職。画像解析等の研究や新商品の開発、トンネル工事に使うシステムの海外サポートを行う。シンガポールに拠点を立ち上げ、責任者として既存ビジネスの確保と新規顧客・新規市場の開拓、新規商品の開発に邁進中。

Contact

ENZAN (ASIA) PTE. LTD.

4010 Ang Mo Kio Avenue 10, #05-03, Techplace1, Singapore 569626
http://enzan-k.com

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