森の中の舗装路から始まった都市を作るという大実験
A2A TOWN (Cambodia) Co.,Ltd President 猪塚 武

A2A TOWN (Cambodia) Co.,Ltd

猪塚 武Takeshi Izuka

President

2015.06.05

選挙、起業、買収、そして再び起業へ

私たちはカンボジアのキリロムという国立公園の土地を利用して、リゾート学園都市を作っています。「軽井沢を作りながら筑波大学を誘致している」イメージです。キリロムは軽井沢と同じく、高原にある避暑地で、首都プノンペンから100キロほど離れています。車で2時間半かかりますが、いずれ道路が整備されれば1時間半になるでしょう。

カンボジア政府から現在借りている土地は契約ベースで約2000ヘクタール。つまり20キロ平方メートルです。キリロムの価値は、自然溢れる森。手間はかかっても木を伐採せずに施設を建てたり、道を作ったりしています。

現在の事業は土地の一部分を利用した第1フェーズの緒に就いたばかりなので、住人も今は社員150名だけですが、最終的には10万人が住む都市になる予定です。事業は2012年から取り組み始め、スティーブ・ジョブズのコネクティング・ザ・ドッツのごとく、自分の経験がすべて繫がり出したと感じています。

子どもの頃からアインシュタインが好きで、学者になるつもりで大学では物理学を専攻しました。博士課程まで進みましたが「このままでは日本が危ない」と今の政治に危機感を感じ、政治家を目指しました。今引き返せば、将来的な財政破綻を回避できると考えたのです。選挙資金が必要なので、当時最も初任給が高かったITコンサルティングファームに就職し、1年余りで資金を稼ぎ出馬しましたが、あえなく落選。もう一度選挙に出るために、資金を稼ぐ手立てを考えました。

その時、ちょうど世間はITブームで、博士課程でスーパーコンピュータを使っていた経験と、一流コンサルティング会社出身というブランド力で、幸いにも仕事をいただくことができました。これだけの複数案件があるのであればと、1998年にデジタルフォレストというIT企業を立ち上げました。

次の選挙では出身地である香川県から出馬したかったので、起業も香川でしました。最終的に70名程度の株主を得ましたが、そのおよそ半分は香川県民。この経験から、世の中に対して正しいことをしていると、それを理解し、多くの人たちが応援してくれることを学びました。

創業当初は東京を離れたこともあり苦労しましたが、2003年にヒット商品が生まれ、やがてウェブアクセス解析のリーディングカンパニーとしての地位を確立。中国とインドに子会社を作り、2008年には資本金を4億円ほど調達し借り入れを8億円まで増やしました。軌道に乗り始めたと思った時に、やってきたのがリーマン・ショックです。このタイミングでNTTコミュニケーションズからの買収の話を持ちかけられ、最終的にはこの話を呑み、大企業の子会社の社長という立場になりました。しかし、大企業というのは起業家が生きていくのがとても難しい場所で、結局1年で退社。会社を売り払った今、守るべき社員はいなくなりました。手元には売却資金が残ったので、何かできるという状況になりました。

そこで第二の起業を目指し、まずはシンガポールに拠点を作りました。シンガポールを選んだ理由は、移住して自分の子どもたちに英語をしっかり学ばせるには最適な国だと判断したからです。2015年末にASEANは経済統合され、今まで以上に大きく発展することが予想されます。ASEANの中心であるシンガポールには多くの日系企業が進出しています。東京に出ることを上京といいますが、シンガポールの場合には上星といった感じです。

ここで始める会社の肝心の事業内容については、最初の会社は流れに任せて決めてしまったので、今回は慎重に決めることにしました。

2年ほどアジアの国々を巡り、ASEAN周辺について研究しました。取り組んでみたい事業はたくさんありましたが、「きっと他にいいものがある」とぐっと堪えてベストなものが見つかると信じて我慢しました。そのうち、海外では自分の日本市場における強みより、日本人としての強みのほうが重要だと感じるようになりました。そして、誰をパートナーとし、その国にどんなニーズがあるのかを重視するようになりました。

そういう目で見ると、例えばインドや中国は外資規制が厳しいですし、シンガポールはとても自由でハンディキャップは少ないですが、その代わりメジャーリーガークラスのプレイヤーが世界中から集まっていて勝つのは難しい国でした。

そうしてベストな競争環境だと判断したのが、カンボジアです。市場のレベルとしてはミャンマーも似ていると思われがちですが、ミャンマーには外資規制があり、強豪プレイヤーもすでにたくさん集まっています。カンボジアにはそうした障害がないうえ、日本が最も多くの寄付をしている国なので、スーパー親日国です。日本人としての強みを生かすことも十分にできる土壌があると思いました。

森の中で学び、働き、暮らすための都市作り

実際に現在の事業に取り組む決心をしたきっかけは、パートナーの現地旅行代理店協会事務局長にキリロムへ案内され「あれ?道路が舗装されている」と気づいたことでした。山の中の田舎道がなぜ舗装されているのかと言えば、そこがかつての国王シハヌークの別荘があった場所だったからです。そこで、キリロムについていろいろと調べていくうちに、別荘があった土地が今は国立公園として眠っていて、政府から土地を借り受けることができると知り、リゾート構想が生まれました。

軽井沢も最初は外国人宣教師が立ち上げ、今では日本人の避暑地です。キリロムの最終的に90%くらいはカンボジア人のためのリゾートになると考えています。

リゾート作りに向けて社員を教育するうちに、これを体系化して大学を作れば、企業が欲しいと思う人材を大量に育成できると思いました。つまり、カンボジア人など新興国のリーダーを作る、高い給料を稼げる人間を生み出すということです。これは進出してくる日系企業にとっても助けになります。

ハーバードがトップから世界を変えるなら、我々はピラミッドの底辺から世界を変える人材を育成することを目指しています。多様性を重視し、世界中から学生を集めて全寮制の環境で学ばせます。将来的に3万人を予定しています。

日本からのインターン生としてやってきた学生たちとの出会いも、大学づくりのきっかけとなりました。彼らは私たちの事業を見て「頑張らないと日本人は勝てないかもしれない」と衝撃を受けて帰っていきますが、彼らの柔軟性を見ていると私も「日本もまだ捨てたものではない」と安心します。将来的には学生と共にインターンも世界中から迎えて、インターンと大学で運営するリゾートになればいいと考えています。

アジア、特にマレーシアはリタイアして移住する日本人の多い国ですが、調べるうちにカンボジアのほうがニーズにマッチすることが分かり、大学の中にリタイアメントコミュニティを作る計画を立ち上げました。カンボジアは治安の良い国ですし、仏教国なので、例えば日本人が面倒を見てもらうとしても文化的に相性が良い。また、観光立国ですから、おもてなしの精神も持っています。

また、マレーシアでは外国人が買える家は3000万円程度しますが、このキリロムでは3万米ドル以下です。為替にもよりますが約300万円で、50年の定期借地権付きの個別住宅を得て自分の家として登記して住むことができます。もし15年後にリタイアする予定の人がいたら、ぜひ今購入して15年間は大学に貸していただきたい。そうすればドル建てで毎年金利8%程度がバックされ、15年後には購入費以上の金額が戻ってきている計算です。

事業は垂直統合型で進めているので、自らマスタープランを作り、測量し、建物や道路を作り、リゾートも大学も運営しています。すべて「自前」を心がけているのは、「アウトソーシングしないことで品質を保つ」というあるインドの経営者のモデルにのっとっています。計画を決めてアウトソーシングすると、発注後に大きな失敗が起こる可能性があります。自分たちで進めていけば1週間単位の小さな失敗は起こっても、端から対処していくことで大失敗を回避し、より良いものを作り上げることができるのです。少しずつ作っては見直し、場合によっては一旦壊して、再度作り直すこともあります。ITの世界にはアジャイルソフトウェア開発という方法がありますが、アジャイル都市開発と言えるかもしれません。

後発発展途上国とはいえ、国家レベルのプロジェクトに自ら参加できているという事実は、当然のことながら大変なことがたくさんあります。しかし、学生の時に学んだ地球物理学の勉強が測量に役立ち、学園都市の市長のような立場である今は、政治家を目指していた経験がとても役立っています。仕事のストレスがないといえば噓になりますが、やりたくないのにやっているということはひとつもありません。

今後も、さまざまな町を作っていきます。最終的には70年後に完成する息の長い計画です。この事業は大掛かりな実験でもあります。これから新興国に進出する日系企業と一緒にこの実験を推し進められたらさらに面白いでしょう。リバース・イノベーションの機会もたっぷりあります。もう自分だけでは遊びきれないから、みんなで一緒に遊びたいというのが私の願いです。

猪塚 武

インタビュアーの目線

「ゼロからイチを作るのがベンチャー」とは言うものの、猪塚さんは道や橋を造り、家具や炭も手作りするところから始める究極のアントレプレナー。1年前に伺った際にはまだオープン前で、正直ここに人が来るものかと思ったものです。今回はレストランも完成し、バンガローも満室。たくさんのお客様で賑わう光景に、期待が一気に膨らみました。

書籍「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち 」から掲載】


Profile

1967年、香川県出身。
早稲田大学理工学部物理学科、東京工業大学大学院理工学研究科修了。アクセンチュアを経て1998年に株式会社デジタルフォレスト社を設立。会社売却後、2010年に日本を離れ、4年間のシンガポール生活を経て2014年1月より家族でプノンペンに移住。
高原リゾート、大学、産業クラスターを含む「リゾート学園都市vKirirom」を経営する。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs’ Organization)の日本支部会長、アジアの理事を務め、世界的な起業家人脈を持つ。和僑ASEANディレクター。

Contact

A2A TOWN (Cambodia) Co.,Ltd

#253,255 E0, Borey Bi Pup Tmey-Boeung Chhouk,Road 2011 (Ouknhar Tri Heng Road), Street E,Khan Po Sen Chey, Phnom Penh City, Cambodia
http://www.vkirirom.com/ja/

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「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち」

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