制作業界に新しい経営スタイルを

株式会社 揚羽 代表取締役社長 湊 剛宏

湊 剛宏Takahiro Minato

株式会社 揚羽

代表取締役社長

2015.10.06

憧れの映像制作会社で気付いた業界の厳しい現実

高校時代から映画が大好きだった私は、「映像で人の心を動かす仕事をしたい」と思っていました。しかし、大学で入部したのはラグビー部。映像からは離れた生活でしたが、テレビのドキュメンタリー番組だけはよく見ていました。

特に好きだったのは、ヨーロッパで作られた番組です。日本の番組とは桁違いにクオリティが高く、特にイギリスのBBCはすばらしい作品を数多く手がけていました。卒業後はBBCに入りたいと思いましたが、英語もままならないのに無理な話です。目標に近づく一歩目としてNHKを受け、採用担当者に気持ちを正直に打ち明けました。「人の心を動かすドキュメンタリー番組を作りたいのですが、御社の作品はまったく面白くありません。何年か御社で番組作りを学んだのち、BBCに行きたいです」若気の至りとはこのことですが、なぜか気に入ってもらえて内々定。しかし、社風などが自分に合わないと感じ、結局リクルート社に入社しました。同社で担当したのは、人材採用、教育、組織に関するコンサルティング営業です。3年ほど働いたら映像関係の会社に転職するつもりでしたが、思いのほか仕事が面白く、結局7年間お世話になりました。

30歳になり、さすがにこれ以上になると未経験での採用は難しくなるだろうと考え、映像制作会社に転職。積年の夢を実現した私は、やる気満々で働きました。想像通り、仕事も最高に面白く、充実した毎日でした。

ところが、一点だけ困ったことがありました。テレビ局や広告代理店などからの下請けが常の映像制作会社は、非常に給料が安いのです。リクルート時代は結構な高給取りだったのですが、年収は一気に200万円まで落ちました。当初は「いずれ上がるだろう」くらいに思っていたのですが、一向に上がる気配はありません。家族4人で暮らすため、預金を切り崩す生活が続きました。

しかし、それもいよいよ厳しくなり独立を決断。2001年に当社を立ち上げました。人材採用などに使用する企業のプロモーションビデオ(PV)の制作から開始しましたが、現在ではグラフィック部門(パンフレットなど)やウェブ部門でも強みを発揮しています。

新たな経営スタイルで業界の「常識」を覆す

映像やグラフィックなどを制作する世界は、クリエイティブで華やかな印象があると思います。確かにクリエイティブではありますが、クリエイターがまともに食べていけない会社も多く存在します。

原因の一つには、業界の構造的な問題があります。制作会社は非常に数が多いうえ、完成する作品のクオリティは「高くて当たり前」という世界です。そうなると、どうしても長時間労働なうえ薄給にならざるを得ないのです。

そしてもう一つ。これが非常に大きいのですが、制作会社の多くは自分たちが「ビジネス」をしているという意識や、普通の企業のように会社の仕組みを整えようという意識が非常に希薄なのです。

ときには帰宅できないほど忙しいのに、給与は雀の涙。ブラック企業と言われても仕方ないのですが、業界全体がそんな感じですので、誰も問題にしません。また、職人気質のクリエイターは、作品のクオリティを上げることには熱中しても、組織への帰属意識は薄い人種です。さらには、新人の教育制度なども皆無といえます。

加えて、会社の業績も開示されなければ、経営計画も、広告代理店の方針次第なので将来的な見通しも立たない。

当社は、そのような業界の「常識」を覆そうと思っています。ミッションは「今までのクリエイティブ業界にはない新しい経営スタイルで成功し、業界に大きな影響を与える」。

働きに応じた給与をきちんと支払い、休みも確保されている。仕事のマニュアルや、研修制度も整っている。コスト管理をしっかり行い、経営数字を開示したり、長期の経営戦略を立てて成長を目指す。制作事業を「ビジネス」ととらえ、新たなサービスを提供する。制作業界以外の企業であればどこでもやっていることを、当社は徹底してきました。

結果的に、業績は順調に伸びています。ちなみにグラフィックの分野では、売上高50億くらいがトップの会社です。近い将来、当社は100億を目指しており、いずれは経営のノウハウを制作業界に広めて、制作業界全体が少しでも幸せになるといいなと考えています。

それを実現する戦略をひと言のキーワードで表すと「ハイブリッド」、つまり「二つの力の組合せ」となります。

そもそも当社が伸びたのは、私に「人材採用」と「映像」という二分野の知識やスキルがあったからです。独立した当初、私はテレビ番組のプロデューサーを本業にするつもりでした。しかし、リクルート時代の先輩が経営している会社にご挨拶に行ったところ、人材採用のPV(プロモーションビデオ)を制作できる会社があまりないことに気づきました。当時のPVといえば、「こちらが本社ビルでございます」といったナレーションの入る、堅苦しくてダサいものばかりでした。また、同業種の企業の違いや個性を表現できる映像クリエイターもいませんでした。

その点、リクルートにいた私は人材採用が分かっていますし、各企業の差別化もできます。ドキュメンタリー番組にも携わっていましたので、働く人を生き生きと描くことも得意です。そこで、早速それらの知識や手法を採用PVに持ちこんだところ注文が殺到。「ビジネス+クリエイティブ」というハイブリッドが、当社を前進させる強い原動力となったのです。

そして、これから目指す事業は「リアル+デジタル」のハイブリッドです。

広告プロモーションには、イベントや店頭PRなどで販売促進を図る「リアル」の分野と、ウェブ上でそれらを展開する「デジタル」の分野があります。この二つは手法がまったく異なるため、広告業界では棲み分けされています。そのため、広告を依頼する企業(クライアント)としては、二つを別々の会社に発注する必要があり、また双方は競合なので、一つのプロモーションを協力して進めることもほぼしません。

当社では、それを解決したいと思っています。現在、広告業界ではリアルとデジタルの比率は8対2くらいで、まだリアルの扱いが圧倒的ですが、今後はその差が縮まってくるはずです。当社ではワンストップで双方を提供できる体制を整え、「リアル+デジタル」のハイブリッドを大規模に展開できる、日本で有数の会社にしたいと思っています。


Profile

1968年、東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。
1992年株式会社リクルート入社。HRの営業を7年間経験。
1999年テレビドキュメンタリー制作会社に転職。AD、ディレクター、プロデューサーを経て、
2001年株式会社揚羽を設立。
趣味はスキューバダイビング、ラグビー。

Contact

株式会社 揚羽

東京都中央区八丁堀2-12−7 ユニデンビル3F
URL:http://www.ageha.tv/

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