海外でのオフィス賃料はその国でビジネスを始める“入学金”

EntreHub 代表 玄 君先

玄 君先Kunsen Gen

EntreHub

代表

2015.04.26

シンガポールに住んでいるだけで人脈は広がる

私が代表を務めるアントレハブ・ホールディングスは、シンガポールとタイで日本企業向けにサービスオフィスを提供している会社です。単にオフィスのスペースを貸すだけにとどまらず、現地に進出する企業の法人設立やビザ取得、税務申告、契約書作成などのサービスもワンストップで提供しています。

日本では、港国際グループという法律事務所の代表でもある私ですが、2010年5月に港国際グループシンガポール法人の設立とともにシンガポールに活動拠点を移し、翌年の8月には家族も現地に移ってきました。現在はシンガポールを拠点にして、日系企業の海外進出コンサルティングを主に手がけています。現地のパートナーと提携しながら、お客様に対して法務や会計などさまざまなサポートが可能なのは、こうした背景があるのです。

海外での事業展開については、2009年に港国際法律事務所を開設した当初から頭にありました。私は弁護士として法律事務所に勤めたあと、モルガン・スタンレー証券やメリルリンチ日本証券を経て、最後はリーマン・ブラザーズで働いていました。そしてご存じのように2008年にリーマン・ブラザーズは破綻し、私は職を失いました。

そこで「これから何をしよう」と考えたときに「もうサラリーマンはやりたくない」「今度は自分で会社を立ち上げたい」と思ったのです。けれども、今後日本の経済が縮小に向かうのは確実です。生き残りをかけた競争が、これから一層厳しくなる日本よりも、国全体が大きな成長を遂げようとしているところでビジネスをやりたいと考えたのは、自然な成り行きでした。

そうはいっても、サラリーマンをやめたばかりの人間が、いきなり海外で会社を起こしたからといってうまくいくわけがありません。そこで、まずは今まで自分が培ってきたネットワークやノウハウを活かすことができる国内で事業を立ち上げ、経験や資金をある程度積み上げたうえで海外に出ようと思ったのです。国内での法律事務所の開設は、最初から海外を見据えてのことでした。

日本事務所では開設当初から弁護士を雇い、自分は経営や営業に徹するというスタンスで事業を広げていきました。証券会社時代に法務がわかる営業職として仕事をしていた私は、当然営業活動は得意です。その一方で、弁護士はその仕事柄、営業を苦手としている人が多いので、私が営業に専念することで、彼らには弁護士としての業務に集中してもらうことにしたわけです。最初は横浜からスタートし、その後神奈川県に4ヵ所、東京、大阪、神戸、福岡の計8ヵ所に事務所を設置しました。

横浜を拠点としていた私も、メールやスカイプを活用すれば、大阪や神戸のスタッフとのコミュニケーションもほとんどストレスがありません。この経験から、私が海外に拠点を移してもマネジメントはできることがわかりました。また権限委譲を進めた結果、国内の事務所については、私が細部に関わらなくても運営できる体制が整ってきたのも大きかったですね。

海外進出先としては、ソウル、北京、上海、香港、シンガポール、シドニーなど、日本との時差が少ないところを候補に挙げていきました。その中で、グローバル化が進み、日系企業も数多く進出しているという点、そして治安や食事、教育などの住環境が整っているという点からシンガポールを選びました。特に家族のことを考えると、街に緑があふれ、学校も充実しているというのは大切な要素になりました。ただ、日本と比べると物価がかなり高いのがつらいところですね。

今でこそシンガポールにも海外進出支援のコンサルタントが増えてきましたが、当時はまだ珍しかったのでしょう。日本に一時帰国した際、お客様に「実はシンガポールに住んでおりまして、今は日本出張中なんです」と話すと、すごく興味を持ってくださいました。そんなきっかけから海外進出を検討している経営者に紹介の輪が広がり、人脈がどんどん増えていったのです。

こうして知り合った方が、出張や視察でシンガポールに来られたときには、喜んでアテンドをします。シンガポール国内だけでなく、ホーチミンやジャカルタに行くと聞けば、ガイド役を買って出ては、旅行会社のツアーでは行けないような場所にも案内しながら、現地に関する情報をいろいろとお話しします。このような関係を通じて、お互いに信頼できる間柄となり、ビジネスに結びつくことが多いですね。

傍からはただ遊んでいるように見えたとしても、私は「自分ならではの付加価値を提供できる仕事だけを選ぶ」という姿勢で取り組んでいるつもりです。お客様をアテンドするにしても、その行先やもてなし方は人それぞれのはず。私ならではのサービスとは何か。いつもそう自問自答しながら、お客様に向き合っています。

法律事務所が経営するサービスオフィス

サービスオフィスの事業も、自社ならではの付加価値を考える中から生まれてきたアイデアです。

シンガポールやタイが日本と大きく異なるのは、仮にオフィスの賃貸契約を3年で結んだ場合、途中で状況が変わって退去するとしても、当初の契約通り、3年分の賃貸料を支払わなくてはいけないということです。日本のように退去の2ヵ月前に通知をすればいいというわけにはいきません。要は、オフィスを借りるのにはリスクを伴うので、サービスオフィスに対するニーズが日本と比べると高いのです。

ところが、実際に私たちがシンガポールでサービスオフィスを探してみると、どこも利用料が高すぎるという事実に気がつきました。「もっと手頃なサービスオフィスがあれば、みんな喜んで利用してくれるはず。それならば、自分たちでやってしまおう」と思ったのです。

私たちの本業はあくまで法律事務所です。つまり、サービスオフィスを利用してくださったお客様に、本業である海外事業のコンサルティングや法務面でのサポート業務の利用を促すことこそが、本質的な目的なわけです。サービスオフィス事業単体で大きな利益をあげる必要はないため、利用料は他社よりも抑えることができます。お客様としても、単にサービスオフィスを利用できるだけではなく、法人設立、ビザ取得、会計、税務申告、人材紹介、給与計算代行、契約書作成などのサービスをワンストップで受けられるのはメリットが大きいはずです。

最初のサービスオフィスは、2013年2月にシンガポールに開設、続いて6月にはバンコクにもオープンしました。バンコクを選んだのは、バンコクの経済が伸びていることもありますが、今後ミャンマーやカンボジアなどに進出する日系企業がタイを足掛かりにするケースが増えると予想したからです。

サービスオフィス事業を始めたのには、日本企業の海外進出を応援したいからという思いもあります。海外進出のポイントは、小さくてもよいから、まず現地に拠点を持つことです。いくら1週間程度の現地出張を何度も繰り返したとしても、ビジネスは広がりません。現地にオフィスを構えて、ある程度の裁量権を持った人間が駐在していてこそ、初めて現地企業の経営者も本気になってこちらと接してくれます。次はいつこの国に来るのか、わからないような人を相手に、本腰でビジネスを進める人などいるはずはないのです。

私はそういう意味では「オフィス賃料はその国でビジネスを始めるための入学金のようなもの」と思っています。本来は少々高くても払うべきです。しかし初期投資コストが高いことにリスクを感じて海外進出を躊躇している企業があるのなら、そのコストを少しでも下げたい。私はそう思って、サービスオフィス事業に参入することにしたのです。

玄 君先

Profile

1966年兵庫県生まれ。
神戸市出身の弁護士(横浜弁護士会所属)。灘高校、東京大学法学部、カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了。三井安田法律事務所、西村あさひ法律事務所、モルガン・スタンレー証券、メリルリンチ日本証券、リーマン・ブラザーズ勤務。同社破綻による失職を機に、2009年に弁護士法人港国際グループを設立(2014年1月現在計8事務所、海外2拠点〈シンガポール、ヤンゴン〉所属弁護士数28名)。3年前に家族でシンガポールに移住。シンガポールとバンコクで日系企業向けのサービスオフィスを運営。ファイナンスやM&A、オーナー企業や富裕層の資産管理、相続、事業承継、海外進出サポートなどに強い。

Contact

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