日本人らしさが、日本人の付加価値となる

ACC Factory Pte. Ltd. General Manager 小椋 啓太

小椋 啓太Keita Ogura

ACC Factory Pte. Ltd.

General Manager

2015.04.26

日本でもアメリカでもなく、シンガポールを選んだワケ

アメリカの大学を卒業してから日本に戻り、事業会社でソフトウェア開発の仕事に携わっていたのですが、あるとき一念発起して公認会計士の資格取得を目指すことにしました。約2年間、毎日仕事が終わると近所のスターバックスに通い、教材と電卓を片手にひたすら勉強しました。合格したのは2006年、32歳のときでした。

公認会計士を目指したのは、IT関係のエンジニアとして、会社の顧客データ管理や売上管理のシステムを作っているうちに、利益をあげて事業を回す会社の仕組みに興味を持つようになったからです。そこで経営の最前線に触れることができる会計士になろうと思いました。

資格を取ったあとに考えたのは、「どこの国で働くか」ということでした。30代前半の自分は、これから先30年は働き続ける必要があります。けれども、これから30年の日本を思うと収縮していくイメージが強く、先行きがそのようにしか思えない国で働いていても、ワクワクがありません。アメリカの大学に行っていたのだから、アメリカで働く選択肢もありましたが、アメリカだって、もうこれまでのような成長は望めないかもしれません。「でも東南アジアであれば、これから成長していく可能性が高い」と考えたのです。

東南アジアの中でシンガポールを選んだのは、英語圏であること、国際的に汎用性の高い国際会計基準を採用していたこと、そのため自分が習得した会計知識を活かしやすいことなどが理由です。そこで世界4大会計事務所の一つであるアーンスト・アンド・ヤングのシンガポール事務所の採用試験を受け、無事合格してシンガポールで働くことになりました。

それから約4年後の2010年、さらなる転機が訪れます。監査業務に携わっていた私は、この仕事にもどかしさを感じていました。監査という仕事は、独立性を保つために顧客企業と一定の距離を置くことが求められます。経営の最前線に触れたいために会計士になった私が「クライアントと一緒にビジネスを作っていける仕事がしたい」と思うようになったのは、ごく自然な流れでした。

そんなとき、日本で経営管理や経営戦略の支援を手がけている会社の代表から声がかかりました。シンガポールに設立した現地法人「ACC Factory Pte. Ltd.(以下ACC)」の経営を任せたいというお話でした。ACCも会計事務所ですが、クライアントの経営現場により踏み込んだ仕事ができそうだったことから、すぐにオファーをお引き受けすることにしました。

アジアの空気に慣れても、日本人らしさは忘れない

ACCの主なお客様は、現地に進出している日系企業です。現地法人の設立や就労ビザの発行のお手伝いから始まり、月次経理や決算書、税務申告書の作成業務などを行っています。また最近では、地域統括会社の経理業務のように、東南アジア域内の多国間の取引のお手伝いをする機会も増えてきました。

このような仕事を手がけていると、シンガポールや東南アジアの経済や日本企業の動きを肌で感じ取ることができます。私は日本のバブルを知らない世代ですが、今のシンガポールを見ていると「日本がバブルだったときもこうだったんだろう」と思うぐらいに活気にあふれています。失業率もわずか2%台。新たな活路を求めてシンガポールに進出してくる日系企業が後を絶ちません。

そんな状況もあって、幸い多くの仕事に恵まれています。実は事務所のホームページもないのですが、あればあったで、問い合わせに対応できない恐れもあり、躊躇するところです。せっかく連絡をいただいても、返信すらできずに信頼を失うリスクを考えたら、口コミと紹介をベースにして仕事を広げていったほうがいいとも思えます。

それに、日本と比べるとマーケットがコンパクトでプレーヤーの数も少ないシンガポールは、人と人とのつながりで仕事が発生するケースが多いです。新たに紹介されたお客様の仕事に対して、きちんとしたクオリティーで応えれば、またそのお客様が新しいお客様を紹介してくださるという循環が成立している。私たちとしても、「そのお客様を紹介してくださったお客様を裏切るわけにはいかない」という気持ちが働くので、強い責任感とやりがいを持って仕事に取り組むことができます。逆につながりがモノをいう世界であるぶん、もしクオリティーの低い仕事に終始したときには悪い噂も一気に広がるわけですから、緊張感はあります。

私が考える「クオリティー」とは、日系企業のお客様に価値を感じていただけるサービスを提供することです。シンガポールに進出してきて、間がない企業であれば、まだ現地の商慣習も知らなければ、法律もわからず、戸惑うことがたくさんあるはずです。私たちは、シンガポールの法律や税制度に明るいうえ、日系企業の経理や会計のやり方についても熟知しています。日系企業の立場に寄り添いながら、「この売上については、こういう税制を活用するといいですよ」といった会計・税務面でのアドバイスをすると、とても喜んでいただけます。これはローカルの会計事務所ではなく、日系の会計事務所だからできることだと思います。

スタッフには時間を守ることも徹底させています。多くのシンガポール人は、10分程度は遅刻と思わない人が多いですが、日系企業を相手に、10分の遅刻が二度三度と続いたら信用問題に関わります。そこで、日本人からすれば当然ですが、お客様のところには必ず時間通りに到着するように指導しています。

でもいちばん大切なのは、私自身が日本人の感覚を忘れないことだと思います。どうしても海外生活が長いと、現地の価値観や仕事のスタイルに染まってしまいます。郷に入っては郷に従うことも大切ですが、日本人の価値観やメンタリティーを持ち続けていないと仕事に支障が出てしまいます。

以前、あるお客様から「日本人は取引先と仕事でトラブルが生じたときでも、何とか折り合いながら最後までやり遂げようとする。でも現地の企業は、価格交渉一つとってもビジネスライクで、折り合わなければ決裂ということが起きる。だからACCを選んだ」と言われたことがあります。私が日本人らしさを失えば、自分の仕事の付加価値までも失うことになる。そうならないように、日本では何を背負いながら、どんなモチベーションで仕事に向き合っているかを時々思い出すようにしています。

小椋 啓太

Profile

1974年高知県生まれ。
高校卒業後、アメリカの大学に進学。帰国し、上智大学卒業後、国内企業に就職。データベース作成、システム開発業務などIT業務で経験を積んだあと、会社経営に興味を持ち会計士に転身しシンガポールへ。大手監査法人にて内部統制監査業務、外部監査業務に従事し多くのシンガポール現地企業の会計・税務実務に携わる。2010年より当地の会計事務所ACC Factory Pte. Ltd.の運営を任され、シンガポール進出企業に対する各企業の事業・ステージに応じた会計・税務サービスを提供。海外進出に関する会計・税務アドバイスほか、企業経営の効率化と業務の最適化、コスト削減などのサポートを行う。シンガポール公認会計士。

Contact

ACC Factory Pte. Ltd.

7500A Beach Road, #11-324 e Plaza, 199591 Singapore
EMAIL : general@acfl.com.sg

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