海外では日本代表として仕事をする

アジア・ダイナミック・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役 佐藤 大輔

佐藤 大輔Daisuke Sato

アジア・ダイナミック・コミュニケーションズ株式会社

代表取締役

2015.06.09

バブル崩壊が始まり

私が現在手がけている事業は2つあります。

ひとつはタイの法務、会計、税務、労務などタイ法人経営の基礎知識を日本国内でレクチャーする仕事です。私自身、タイに対して旅行やビジネスを含めて関わり合いが20年以上になります。この体験に基づいて、海外職業訓練協会(OVTA)や銀行関係のセミナーで講師を務めたり、企業からタイ現地法人の経営コンサルティングを受託したりしています。

タイでビジネスをする場合には、関係省庁や会計・法律事務所と話す機会が多くなりますが、ある程度の専門的な知識がないと、希望していない状況になってしまうことがあります。また、赴任経験のない本社管理部や役員の場合は、現地との間に認識のズレが生じます。私の会社は、そういったギャップを埋めるためのお手伝い、いわば転ばぬ先の杖の役割です。

もうひとつは東南アジアにおける「内田クレペリン検査」の実施です。これは、連続して一桁の足し算をしていくだけで、その人の基本的な仕事のテンポや行動特性を測ることができる心理検査です。最大の特徴は、使用するのがアラビア数字だけという点。数字だけならほぼ全世界共通ですから、どこででも同じ条件で検査をすることが可能なうえ、実施方法は15分計算したら5分休憩、さらに15分計算して終了というシンプルなもの。設問を読まないので、読解力や言語上の解釈に影響されることがありません。この検査は日本オリジナルで、60年以上の歴史を持っています。2007年にタイの高架鉄道会社に営業をかけたところ、運転手適性検査に採用され、2013年からは全社員に実施するようになりました。タイ人のデータはすでに2000人以上集まっており、現在はベトナム人にも実施しているところです。最終的には東南アジアの主要各国で、各1000人分以上のデータを収集するつもりです。

個々人のテンポや行動特性が分かると、どのような仕事をどのようにさせればいいのかが判断できます。また、集団として比較すると、例えばタイ人とベトナム人とでは判定結果が大きく異なります。海外進出企業であれば、漠然とではあっても進出国の国民性は把握していると思いますが、個々のまたは集団の行動特性を数値化できれば、海外展開がより楽に安全になるはずです。

私が新卒で就職したのは1991年、大手流通グループ企業の子会社でした。バブル崩壊にまだ皆が気づいておらず、私の同期は55人もいました。人事部に配属され、翌年は30名以上を採用しましたが、その直後に急激に景気が悪化していきました。

しかし、会社には人事情報・人件費予算作成システムがなく、リストラしようにも、満足なデータがありません。部署でプログラミングできる人間は私だけで予算もないので、データベースソフトのマニュアルを読み込んで、半年くらいかけてシステムを作り上げました。おかげでデータベースには詳しくなりました。

当時よく海外旅行していましたが、日本は経済が急降下して暗い雰囲気に覆われていたのに、タイは経済成長真っ只中で光輝いていました。何度か渡タイするうちにバンコクに住みたい気持ちが強くなり、入社3年半で退職してタイに渡りました。タイ語を学ぶ傍ら、タイ全土を巡り、歴史や文化、美術を知る機会にも恵まれ、タイへの造詣が深まりました。

ただ事情があって、半年ほどで帰国し、紙の広告企画制作会社の営業をすることになります。得意な仕事ではないので、何か自分にしかできないことはないかと模索するうちに、ウェブサイト制作を始めました。そして、タイ国政府観光庁や在京大使館のホームページの仕事を受けたことをきっかけにタイとの関係も復活します。その後は、データベース構築の知識を活かして検索システムを作ったり、社内情報システム開発を任されたりするうちに、SEのような立場となります。

日本人をタイで合法的に働けるようにしたい

2000年、IP電話という技術革新が起こりました。

ある時、東京と大阪に店舗を持つお客様から、店舗同士の電話代を削減できないかとご相談を受けました。2つの店舗はPOSレジが専用線で繫がっていて、それを利用すれば内線電話として複数回線取れるということが分かり、IP電話の導入に成功したのです。東京と大阪で可能ならば、東京とバンコクでもできるはず。「ならば、日本のコールセンターを丸ごとタイに持っていけるのでは?」と思いついたのです。

実は半年間バンコクに滞在した時に、一番驚いたのは「タイには日本人の不法就労者がたくさんいる」という事実でした。おそらく5千人以上の規模です。それ以来ずっと頭の片隅で、日本人が自分の意志で働きながらタイに住めるようになる方法を探していました。そもそもタイで外国人の労働が厳しく制限されているのは、タイ人の雇用機会を奪うからです。しかし特殊な言語である日本語のコールセンターなら、日本人にしかできませんから現地の人の職を奪うことはありません。

また、日本国内は最低賃金が決まっており、人件費を削減したくても限界がありますが、タイなら物価が日本の1/3程度なので、給与が日本の半額でも日本人を雇えます。つまり日本のコールセンターのコストを劇的に下げて、タイに「サービスの輸出」という新しい外貨獲得手段をもたらすことができるのです。

そこで2001年の3月にタイのBOI(タイ投資委員会)を訪ねました。その理由は投資奨励法に基づきBOIから投資奨励されている業種の場合は、他の法律に矛盾しても投資奨励法が優先するからです。BOIを訪ねた時点でコールセンターはその業種リストに入っていなかったのですが、よく調べると、業種表について「この表にないものもタイに役立つものであれば、委員会において審議され、上記表に付け加えられる」との一文を発見しました。そこでBOI担当官に「コールセンターとは何なのか」「なぜタイに日本のコールセンターを持ってくるのがタイの国益に資するのか」「他のアジアの国はどうしているのか」を1年ほどかけて説明し、最終的にBOI長官まで辿り着いて、さまざまな関係者を前に私がプレゼンする公聴会を開催していただいたのです。そしてBOI本会議でコールセンターを投資奨励業種にすることが決定されました。約1年半かかっていたので、この時はさすがに感無量でした。

正式な認可が下りるのにさらに半年かかり、2003年の春になっていました。やっと本格的に営業を始めたのですが、コストを削減できると言っても前例がないので大規模なセンターはどこもやろうとしません。2005年にとにかく会社を設立して日本人観光客向けの課金制3者間電話通訳や、英会話学校の電話サポートなどできるところからビジネスを始めました。

電話オペレーターに関しては、ウェブサイトでバンコクの日本人に「コールセンターで合法的に働けたら働きたいですか?」と呼びかけて数百人の候補者を集めていました。

しかしすぐに大成功とはいかず、せめてオペレーターの数を100人(BOIとの約束では200人)にしたいと思っていた時に、マスターピース・グループの佐藤修会長と出会いました。マスターピース・グループはタイに先んじて中国大連に日本人コールセンターを持っていましたが、中国の物価上昇リスクを抱えていました。そこでタイで一緒にやろうと話がまとまり、アジア・ダイナミック・コミュニケーションズという社名をマスターピース・グループ(タイランド)に変更して、150人を超える規模のコールセンターを実現することができました。

その後、会社は順調に利益を出し、私が作ったBOI認可で他社のコールセンターも次々に設立され、「日本人が自分の意志で、タイで合法的に働けるようにしたい」という目的を達成、私の役割は終わったと思いました。そこで2012年、今までタイ法人経営で学んだことを日本で教えるために、タイで最初に使っていた社名を復活させて始めたのが当社です。

また、内田クレペリン検査事業は、コールセンター事業と並行して始めていました。日本にはまだまだ世界に通用するものがあるものだと思います。

タイとの関係は良好で、先日も運輸長官にお会いしたばかりです。海外というのは、日本だったら会えないような人に会える機会がたくさんあります。外国では日本人一人ひとりが日本を代表していると見られるからでしょう。

昨年はタイ王国和僑会の幹事として、BOI認可が取れない事業に求められるタイ企業との合弁を安全に行う投資スキームも開発しました。今後10年くらいは、タイ進出を皆さんにうまくやっていただくことと、内田クレペリン検査を東南アジアで定着させることが目標です。

明確な目標とそのプランがあれば、皆さんには是非挑戦していただきたいと思います。

佐藤 大輔

インタビュアーの目線

海外でビジネスを始めようとした時、こんな人がサポートしてくれたらどんなに安心だろう。そんな〝誠実で信頼のおける人物〞というのが、取材を通じて感じた佐藤さんの印象です。タイ王国和僑会の幹事として多くの日系企業とタイとの橋渡しを数多くされているのも「タイにおける日本人代表」としての誇りが原動力になっているのでしょう。

書籍「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち 」から掲載】


Profile

1968年、東京都生まれ。
1991年立教大学社会学部観光学科卒。2001年、タイで初となる日本人スタッフによる日本向けオフショア・コールセンターの事業開放をタイ政府に提唱。2002年10月にBOI(タイ投資委員会)新規奨励業種として追加が決定、2003年に事業を立ち上げ、150人体制まで拡大。2012年4月に帰国、タイ進出コンサルティングサービスを提供するアジア・ダイナミック・コミュニケーションズ㈱を設立。タイの文化や歴史への造詣も深く、タイ事情全般に精通したコンサルタントとして、最新の実地アドバイスを行っている。2013年6月、OVTA(一般財団法人海外職業訓練協会)国際アドバイザー登録。タイ王国和僑会幹事。

Contact

アジア・ダイナミック・コミュニケーションズ株式会社

〒108-0073
東京都港区三田四丁目1番27号
http://adc-japan.com/

関連書籍のご案内

書籍
「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち」

日本の国内だけで働くこともいいけれど…
一度きりの人生は、海外へ目を向け、自分の可能性と仕事の幅を拡げよう!

世界の空気を吸い、グローバルに生きる!海外であくなき挑戦をする人々…その26人の生の声がここに!!

ウェブサイト:http://www.abroaders.jp/

ご購入はこちら

週間アクセスランキング