新興国を見て働くことの意義を見つめ直す「留職」

特定非営利活動法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事 小沼 大地

小沼 大地Daichi Konuma

特定非営利活動法人クロスフィールズ

共同創業者・代表理事

2015.06.09

未来のリーダーを創る武者修行

私たちNPO法人クロスフィールズは、留職プログラムという事業を運営しています。「留職」という言葉は私たちの造語です。日本企業の社員をアジア新興国のNPOやNGOに派遣し、その方の本業のスキルで現地の社会課題の解決に挑んでいただくプログラムです。数ヵ月間という限られた時間の中で、課されたミッションをやりきり、現地社会へと貢献する。私自身も経験した青年海外協力隊の企業版だとイメージしてもらえるといいかもしれません。企業にとっては、グローバルに活躍できるリーダーの育成や、新興国での事業創出などといった効果が期待できます。

2011年にこの事業をスタートして以来、導入していただいた企業は20社以上となりました。派遣人数はまだ累計でも50名程度ですが、初年度が1名、2年目で8名と増え、4年目となる今期は50名程度の派遣を見込んでいます。毎年倍増以上していて、企業の方々からの関心が急速に高まっていることを肌で感じます。

日本企業はグローバルな事業展開が必要だと言われ続けていますが、一方で、企業の中にはグローバルなリーダーを育てる土壌が減ってしまっているという皮肉な現状があります。企業が積極的に海外進出していた頃は、日本人の若手社員が現地へと派遣され、工場のラインで現地の人に仕事を教え、工場長となり、最後はスーパーバイザーとなってリーダーシップを身につける機会がありました。しかし現在は、企業買収によるグローバル展開も増えており、できる限り日本人の派遣者を減らしてローカルスタッフだけで現地事業を行うことがスタンダードになっています。すると、必要になる日本人はスーパーバイザー1人だけです。グローバルに活躍できる人材を育てる現場が失われたなら、10年後のスーパーバイザーは誰が務めるのか。この人材育成の仕組みの空洞化を埋める新たな武者修行として、留職プログラムが注目されているのだと思います。

留職での現地滞在は数ヵ月間と短期間ですが、語学研修などの座学とは違い、現地の人たちが抱える実際の課題を解決していくというリアルな実体験ができます。新興国のタフな環境に身を置いて課題解決を最後までやりきる経験は、まさに「修羅場」と呼べるもので、人を大きく成長させていきます。

また、留職プログラムはさまざまな「枠」を超える機会でもあります。「国境」という枠を超えて新興国を見ることは、改めて日本という国を見つめ直す機会になります。「組織」や「短期的な利益追求」といった枠を超えて現地の人たちのために働くことは、自分自身の人生を振り返る機会となり、そして仕事を「仕える事」ではなく「志す事」と捉えるきっかけになります。私は、「志事」をするビジネスパーソンを一人でも増やしていきたいのです。

学生時代の私はラクロスというスポーツに没頭していたのですが、オフになるとバックパッカーとしてアジアを旅して回っていました。大学を出たら教師になるつもりでしたが、それはもっと世界を知って経験を積んでからにしたい、そう考えている時に見つけたのが青年海外協力隊の募集でした。私は、中東シリアに環境教育の隊員として2年間派遣されることになりました。

私がクロスフィールズを立ち上げた原体験のひとつは、協力隊の活動の前後での友人たちとのやり取りにあります。出発前に就職が決まっている大学の同級生たちと話をすると、「メーカーに行ってものづくりで日本を元気にする」「ビジネスを通じて世界の経済格差を減らすために商社に行く」などと熱く話していて、頼もしいなと思いました。「みんなも頑張ってくれ。俺も頑張ってくる」という気持ちで、私はシリアに旅立ったのです。

そして2年が経って帰国した時、同級生たちは私の帰国を祝う飲み会を開いてくれました。そこで意気揚々とシリアでの経験を語り、これからいかに熱く生きていきたいかを話すと、あろうことか、友人たちは「どん引き」していました。「お前が言っていることは青臭すぎる」「会社に入って早く大人になれ」と、彼らは口々に言いました。日本企業は志のある人材を求めていて、実際に熱い若者たちを数多く採用している。しかし、たった数年で若者たちの情熱は冷めてしまうのが現状なのだと、私はその時初めて知りました。そして同時に、そんなもったいないことは許せない、という強い憤りを感じたのです。その憤りが、私を起業へと突き動かす原動力になりました。

こんな格好いい眼の人は初めて見た

青年海外協力隊は、いわゆる「発展途上国」という地域へと派遣されて活動をします。そう聞くと「現地の人たちはさぞかし貧しくてかわいそうな状況にあり、それを救うべく日本人が何かを教えてあげるのだろう」というイメージがあるかもしれません。しかし実際は違い、どんな地域に行った協力隊員たちも、日本に帰ってくると「自分の方が教えてもらった」と言うのです。事実、私自身もそうでした。

発展途上国という地域には、前向きなエネルギーが満ちています。「自分たちが頑張ればこの村が良くなる」、「自分はこの国を本気で良くしたい」と、地域や国の発展を我が事として捉えて働いている人がたくさんいるのです。そんなカッコいい人たちの姿を数多く目にしたことが、私にとって何よりの財産だったかもしれません。

中でも最も強烈な印象を受けたのは、私が派遣されたシリアのNPOで同僚として働いていたアリさんという方でした。彼は村長の長男でしたが、名誉職である村長にはならず、NPOのメンバーとして日々懸命に働いていました。「村長になって村を良くするには限界がある。このNPOで、村を良くしたい」と話す彼ほどキラキラした眼をした人に、これまで私は会ったことがありませんでした。

そのNPOには、大手経営コンサルティング会社から出向されてきたドイツ人コンサルタントが2人いて、私はその部下として働いていました。初めは国際協力の世界になぜビジネスの世界の人材が入ってくるのか意味が分からなかったのですが、彼らがビジネスのスキルをフル活用してプロジェクトのマネジメントを行うと、現地での活動は音を立てて改善されていったのです。ビジネスと社会貢献の世界が交わることを知ったのは、その時でした。

また、さらに驚いたのは、現地の人たちから「ありがとう」と言われることで、ドイツ人コンサルタントたちも生き生きと働くようになったことです。自らの持つスキルで社会に貢献できるという実感と手応えとが、彼らの目をアリさんのようにキラキラとさせていったのです。

帰国してからこの経験を振り返った私は、日本の会社で情熱の行き場を失っている人たちにドイツ人コンサルタントがしたような体験を提供できたら、社会を変えることができるのではないかと思い始めたのです。シリアでのアリさんやドイツ人コンサルタントたちとの出会いが、私の2つ目の原体験です。

協力隊の後に外資系コンサルティング会社に身を置いていた私は、そこを辞めてNPOを立ち上げたという話をすると、「なぜそんなリスクを取れたのか?」とよく聞かれます。そんな時、私は「挑戦しないことがリスク」だと答えるようにしています。シリアから戻ってきた時に感じた違和感や義憤を、そのままにして生きていくこともできたと思います。ただ、何も行動を起こさなければ、いつか死んでいく時に必ず、「あの時に何か行動をしていれば」と後悔すると感じたのです。私には、それがどうしても嫌でした。だからこそ、後悔するかもしれないリスクを選ばなかったのです。

また、今の時代はとても変化が速いです。5年前、10年前とは明らかにいろいろなことへの認識が変わっていて、そのスピードはますます速くなっています。つまり、今日の常識は3年後には非常識になっていて、逆に、今日の非常識が3年後の常識になる時代なのです。そう考えると、今多くの人が「その道は正しいね」と言っている道は危ない可能性が高く、逆に多くの人が「そっち行って大丈夫か?」と疑う道に行く方が、新しい未来を切り拓ける可能性があるのだと思うのです。その意味でも、「挑戦しないこと」の方がリスクは高いと思いますし、何より、挑戦するという道を行くことは、最高に楽しいです。

クロスフィールズの活動を始めてみて、日本の若手は二極化していると強く感じます。将来に危機感があるからこそ、「じゃあ変わるしかないね」という意識で挑戦を志向する層と、「何としてでもどこかにしがみつこう」という意識で保守的になっている層がいます。

前者の人たちには是非、実際に行動を起こして発信者になってほしいです。日本企業に勤めている人にとっては、留職プログラムも、そのひとつの手段として有効活用していただけたら嬉しいです。そして後者の人たちには、沈みゆくタイタニック号にしがみつくだけではなく、そこから小舟で外に漕ぎ出した前者の人たちの発するメッセージに耳を傾けて、そのうえで自分の行動を決めてほしいと願います。

挑戦する意志を持つ人を全力で応援するというのが、私のポリシーです。もしこの文章を読んで何かしらを感じてくださった人がいれば幸いですし、何か挑戦をしたいと思ってくださった人がいれば、心からのエールを送りたいです。そして、私たち自身も、このクロスフィールズという挑戦にこれからも全力を尽くしていこうと思っています。

小沼 大地

インタビュアーの目線

学生時代に描いた夢を追い続けるのは難しいものです。大人になって熱が失せることもあれば、若さに任せただけで持続できないことも多い。小沼さんは青年海外協力隊→外資系コンサルティング会社→NPO法人というステップを踏むことでそれを実現してきました。しかも、教師になるという夢も体現しているのですから、素敵な人生ですね。

書籍「世界を動かすアブローダーズ ~ 日本を飛び出し、海外で活躍するビジネスパーソンたち 」から掲載】


Profile

1982年、神奈川県生まれ。
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学時代はラクロスでU-21日本代表に。就職前に青年海外協力隊でシリアに赴任するなど、独自の経歴を持つ。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年5月、松島由佳(共同創業者・現副代表)とともにNPO法人クロスフィールズを創業。企業の社員が新興国で社会問題解決に取り組む「留職」プログラムを推進している。
企業・行政・NPOという領域の垣根を超え、社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを増やしていきたい。

Contact

特定非営利活動法人クロスフィールズ

〒141-0031
東京都品川区西五反田3-8-3 町原ビル3F
03-6417-4804
http://crossfields.jp/

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