新興国を見て働くことの意義を見つめ直す「留職」

特定非営利活動法人クロスフィールズ

小沼 大地Daichi Konuma

共同創業者・代表理事

 目次

未来のリーダーを創る武者修行

私たちNPO法人クロスフィールズは、留職プログラムという事業を運営しています。「留職」という言葉は私たちの造語です。日本企業の社員をアジア新興国のNPOやNGOに派遣し、その方の本業のスキルで現地の社会課題の解決に挑んでいただくプログラムです。数ヵ月間という限られた時間の中で、課されたミッションをやりきり、現地社会へと貢献する。私自身も経験した青年海外協力隊の企業版だとイメージしてもらえるといいかもしれません。企業にとっては、グローバルに活躍できるリーダーの育成や、新興国での事業創出などといった効果が期待できます。

2011年にこの事業をスタートして以来、導入していただいた企業は20社以上となりました。派遣人数はまだ累計でも50名程度ですが、初年度が1名、2年目で8名と増え、4年目となる今期は50名程度の派遣を見込んでいます。毎年倍増以上していて、企業の方々からの関心が急速に高まっていることを肌で感じます。

日本企業はグローバルな事業展開が必要だと言われ続けていますが、一方で、企業の中にはグローバルなリーダーを育てる土壌が減ってしまっているという皮肉な現状があります。企業が積極的に海外進出していた頃は、日本人の若手社員が現地へと派遣され、工場のラインで現地の人に仕事を教え、工場長となり、最後はスーパーバイザーとなってリーダーシップを身につける機会がありました。しかし現在は、企業買収によるグローバル展開も増えており、できる限り日本人の派遣者を減らしてローカルスタッフだけで現地事業を行うことがスタンダードになっています。すると、必要になる日本人はスーパーバイザー1人だけです。グローバルに活躍できる人材を育てる現場が失われたなら、10年後のスーパーバイザーは誰が務めるのか。この人材育成の仕組みの空洞化を埋める新たな武者修行として、留職プログラムが注目されているのだと思います。

留職での現地滞在は数ヵ月間と短期間ですが、語学研修などの座学とは違い、現地の人たちが抱える実際の課題を解決していくというリアルな実体験ができます。新興国のタフな環境に身を置いて課題解決を最後までやりきる経験は、まさに「修羅場」と呼べるもので、人を大きく成長させていきます。

また、留職プログラムはさまざまな「枠」を超える機会でもあります。「国境」という枠を超えて新興国を見ることは、改めて日本という国を見つめ直す機会になります。「組織」や「短期的な利益追求」といった枠を超えて現地の人たちのために働くことは、自分自身の人生を振り返る機会となり、そして仕事を「仕える事」ではなく「志す事」と捉えるきっかけになります。私は、「志事」をするビジネスパーソンを一人でも増やしていきたいのです。

学生時代の私はラクロスというスポーツに没頭していたのですが、オフになるとバックパッカーとしてアジアを旅して回っていました。大学を出たら教師になるつもりでしたが、それはもっと世界を知って経験を積んでからにしたい、そう考えている時に見つけたのが青年海外協力隊の募集でした。私は、中東シリアに環境教育の隊員として2年間派遣されることになりました。

私がクロスフィールズを立ち上げた原体験のひとつは、協力隊の活動の前後での友人たちとのやり取りにあります。出発前に就職が決まっている大学の同級生たちと話をすると、「メーカーに行ってものづくりで日本を元気にする」「ビジネスを通じて世界の経済格差を減らすために商社に行く」などと熱く話していて、頼もしいなと思いました。「みんなも頑張ってくれ。俺も頑張ってくる」という気持ちで、私はシリアに旅立ったのです。

そして2年が経って帰国した時、同級生たちは私の帰国を祝う飲み会を開いてくれました。そこで意気揚々とシリアでの経験を語り、これからいかに熱く生きていきたいかを話すと、あろうことか、友人たちは「どん引き」していました。「お前が言っていることは青臭すぎる」「会社に入って早く大人になれ」と、彼らは口々に言いました。日本企業は志のある人材を求めていて、実際に熱い若者たちを数多く採用している。しかし、たった数年で若者たちの情熱は冷めてしまうのが現状なのだと、私はその時初めて知りました。そして同時に、そんなもったいないことは許せない、という強い憤りを感じたのです。その憤りが、私を起業へと突き動かす原動力になりました。

Profile

1982年、神奈川県生まれ。
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。大学時代はラクロスでU-21日本代表に。就職前に青年海外協力隊でシリアに赴任するなど、独自の経歴を持つ。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。2011年5月、松島由佳(共同創業者・現副代表)とともにNPO法人クロスフィールズを創業。企業の社員が新興国で社会問題解決に取り組む「留職」プログラムを推進している。
企業・行政・NPOという領域の垣根を超え、社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを増やしていきたい。

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