海外における中小企業のリスクマネジメント

マーシュ ジャパン株式会社 代表取締役社長 中西 主

中西 主Chikara Nakanishi

マーシュ ジャパン株式会社

代表取締役社長

2015.04.29

中小企業経営者のビジネスリスクに対する認識、準備の欠如

東日本大震災――。

地震大国である日本、いつかは襲ってくるのではないかと誰もが不安を抱えながらも、誰もその時を予測し得なかったこの未曾有の大災害が発生して2年が経過しました。震災後2年で様々な企業経営に関わるリスクが顕在化したと言えるでしょう。

地震や津波による財物損壊、サプライチェーンの寸断による需給不足とそれに伴う売上の減少、キャッシュフローの枯渇による決済不能、取引先の倒産による売掛債権の貸し倒れ、建物構造上の欠陥に起因する人身傷害による賠償責任、従業員の怪我や死亡による労災問題、そして、被災した多くの人々を苦しめる心の痛み(メンタルヘルス)などの問題が、今も尚深い傷を残したまま解決されていません。

企業経営を取り巻くリスクに対して、「備えあれば憂いなし」という格言に異を唱える経営者はほとんどいないのではないでしょうか。ただし、その「備え」の具体的な方法となると、全ての経営者が自社の対策について明確な答えを持っているわけではないでしょう。ましてや、リスクマネジメントという言葉は知っていても、実際のところ、いったい何をすれば良いのかわからない経営者もいれば、自社にはリスクマネジメントなど導入するに及ばずと考える経営者もいるかもしれません。

海外に比して、日本の中小企業経営者のビジネスリスクに対する認識とそのマネジメント能力は、決して高いレベルにあるとは言い難いのが現実です。

まず、企業を取り巻くリスクについて理解を深めていきましょう。次頁の図では、地震や津波に起因するリスクがドミノ的に連鎖する様を示しています。

一例を取りますと、地震発生→産工場損壊→サプライチェーン寸断→ブランド/社会的信用喪失→売上・利益減少→企業存続の危機というリスクのドミノ的連鎖が発生しています。リスクマネジメントとは、まさに、この地震発生という不可抗力のリスクに対して、いかにして企業の存続を守るか、その術を熟考し対策を講じる、ということに他なりません。

企業を取り巻くリスクとリスクのドミノ的連鎖

大企業においても中小企業においても、事業活動を行っている限り、そのリスクマネジメントの目的は同じです。事業の規模や取引/会計の複雑性、適用法規などの違いはもちろんありますが、リスクマネジメントに関して、そのプロセスと対処方法の原則は変わりません。

では、中小企業にとって、あるべきリスクマネジメントというのは、どのようなものなのでしょうか?私たちは、長年リスクコンサルティングサービスを提供している大企業に対して、多くのケースで下の図のプロセスでリスクマネジメントの導入支援を行っています。そして、このプロセスは簡易化されているものの、海外においては中小企業に対してもリスクプロフェッショナルを通じて行われています。リスクマネジメントの基本は、正しいプロセスを踏むことにより青天の霹靂といった事態にも対応することなのです。

再度、地震リスクを例に取って考えてみましょう。

『リスクの把握=地震』

リスクの分析と評価=地震から発生する倒壊、火災、津波に起因する財物損壊と利益損害ならびに臨時費用損害(取り片付け費用、仮社屋賃借費用、残業代など)。規模によっては大損害になる可能性大。自社の被害による損害のみならず仕入先、販売先など取引先の被害によるサプライチェーンの断絶も可能性あり。

優先順位=高リスクへの対応方法検討

回避=不可避

軽減=工場の耐震構造強化、取引先の複数化、事業継続プランの作成

転嫁=地震保険や利益保険などの購入

保有=在庫高を増やす、キャッシュフローの改善(大企業の場合は、キャプティブ設立)、災害時における主要銀行とのクレジットラインの取り決め

《検討結果要約》

現実的な選択として軽減と転嫁が検討されました。取引先の複数化や事業継続プランの作成など費用が比較的かからないものは即刻着手することになりましたが、 工場の耐震構造強化には相当額の投資が必要ということがあり、費用対効果の観点から地震保険の購入を検討することになりました。もちろん、大企業においてはそもそも管理すべきリスクがより大規模であり、複雑かつ広範囲であるがゆえに右記のプロセスが必然であるとも言えますが、中小企業にとってもこのプロセスは非常に有効です。

リスクマネジメントプロセス

Profile

学卒後、外資系保険会社等を経て、保険ブローカーのセジウィックの日本支店に入社、1997年にGMに就任。
1999年同社と現・マーシュ ジャパン株式会社が合併、新規ビジネスに取り組む。その傍ら、大学院にて財務、管理会計を学ぶ。2007年に取締役、2010年1月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。

Contact

マーシュ ジャパン株式会社

【東京本社】
〒163-1438
東京都新宿区西新宿 3-20-2 東京オペラシティタワー38F
tel. 03-5334-8200
【大阪支社】
〒541-0047
大阪府大阪市中央区淡路町 3-6-3 NMプラザ御堂筋12F
tel. 06-6231-9055
URL http://www.marsh-jp.com/

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