
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
はじめの一歩のその先へ。勝つ力、続ける力を育成する投資教育アプリで、日本の投資力強化に挑む。
田中 勇輝 / Yuki Tanaka
株式会社アドバン
代表取締役
「貯蓄から投資へ」を合言葉に、現在、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった投資への優遇税制が存在する。しかし証券会社に口座を開設したものの、3割近くの人が取引しないまま放置状態にあるという(日本証券業協会「2021年度 証券投資に関する全国調査」より)。
「せっかく投資に興味を持ってNISA口座を開設したのに、150近くある銘柄のどれを選んでよいのか分からない。これは、投資について学んだ経験がないことが原因です」と投資教育アプリを手がける、株式会社アドバン代表取締役の田中勇輝は話す。
民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられたことから、若年期からの金融リテラシー向上が課題となっている。2022年4月からは、高校の家庭科学習指導要領に投資信託を含む金融教育が盛り込まれた。
その時流を見越すかのように、アドバンでは投資初心者向けの教育アプリを多数手がけている。「ビットコイン初心者ガイド」「サルでも分かる副業FX」と、徹底してビギナーに寄り添ったラインアップである。商品名はフランクだが、いずれも高い技術力に支えられたアプリだ。
アドバンは2010年に創業された。iPhoneの日本上陸は2008年、アンドロイドは2009年。当時、日本国内の携帯電話は、旧来型のいわゆる「ガラケー」がまだ主流であり、同社も創業当初はガラケー向けコンテンツを事業の要としていた。
「iPhoneやアンドロイドが普及しはじめ、創業2年目からはスマホアプリを中心に開発するようになりました。それ以降、顔文字アプリ、女性向けアプリなど、さまざまなジャンルのメディアを作ってきましたが、ここ数年は、自社サービスの投資教育アプリに注力しています」
アドバンにはマーケター、エンジニア、デザイナーの3職種がある。いわゆる営業部門が存在しないのは、新規の営業をしなくても依頼が引きも切らないからだ。
「3つに職種が分かれてはいますが、その垣根も可能であればない方がいいと思っています。エンジニアだからマーケティングのことを知らない、デザイナーだから技術に興味がない、ということではダメ。お互いの仕事内容や難しい部分を理解し合うことが重要です。実際、社員にはその意識が根付いていると思います」
投資ジャンルへ進出するヒントは、まさにその社風から生まれた。エンジニアの一人が広告運用を通して、投資ジャンルが高いポテンシャルを持っていることに気付いたのだ。成果報酬型広告の中で、金融や人材系など単価が飛び抜けて高いものがあった。調べてみると、広告単価の高いジャンルのうち、投資には初心者向けアプリがほとんどない。しかもクオリティーはお世辞にも褒められるようなものではなかった。
試しにエンジニアがアプリを制作。半日程度で作ったものだったが、毎月10件の成約、30万円の利益があがるようになった。
「しっかり取り組んだら、もっと伸びるかもしれない。そう確信して、投資ジャンルにシフトしました。エンジニアの発見と思いつきで始めたことが、現在の弊社の主力になっています」
この3年間、アドバンは投資教育に取り組み続けてきた。
それ以前も投資初心者向けアプリを展開しており、月間1~3万の安定的なダウンロードがあった。そして、少ない月でも200人、多い月には700~800人が、アプリ内のリンクを通してFXや仮想通貨の口座を開設していた。
これらの投資アプリは、投資を始めるところがゴールとなっている。投資用の口座を開設したら、アプリは卒業。しかし本当に大切なのは、その先にある投資を実行し、続けることである。そこで同社は、2022年6月リリースの投資シミュレーションアプリ「Runcha」を2年かけて開発した。
「投資はスポーツと同じで、トレーニングや経験を積むための練習場が必要なんです。例えばサッカーなら、ルールを学び、パスやドリブルの基礎練習を行う。戦略を立て、練習試合をして感覚を養い、ようやく試合に出る。そのステップが当たり前。でも投資の場合、多くの人がいきなり実戦の場に立とうとする。練習や経験を積める場所を高いクオリティーで提供しよう。その強い思いでRunchaを開発しました」
Runchaは実際の証券取引システムとほぼ同じ内容となっており、いくつかのモードが搭載されているのが特長だ。例えばイベントモードでは、リーマンショックのような有名な金融危機を追体験できる。チャレンジモードでは、過去20年間のランダムな時代に飛び、15分間のトレードを体験できる。マイページには成績と分析、ランキングが表示される。
Runchaがほかの投資シミュレーションアプリと大きく異なるのは、上位トレーダーの全トレード履歴を見ることができる点だ。
稼いでいるトレーダーが、成功した取引についてYouTubeなどで公表することはあっても、失敗した取引の内容を出すことはほとんどない。しかし重要なのは、失敗の仕方だ。投資に失敗はつきもの。大切なのは“致命傷”を負わないよう、上手に失敗することである。
「投資で利益を出す人は、負け方がうまいのです。Runchaでは、投資の上手な人の勝ちトレードも負けトレードもすべて見ることができるため、より実戦に役立つ情報を得ることができます。3カ月、半年と練習を積めば、判断力も高まります。大切なお金を投下するのですから、しっかり練習してから投資し、長く続けていただきたい。アドバンのアプリが日本の投資力の底上げに貢献できればと願っています」
この10年余りで携帯電話はガラケーからスマホへ、劇的なまでに切り替わった。ここで、ガラケーコンテンツからスマホアプリへの移行に成功したアドバンが駆使したのは、未来を予測する力ではなく、攻略する力であった。
「我々はこれまで、未来を予測してきたわけではありません。新しいプラットフォームを『攻略』してきたのです。攻略力があれば、次にどんなトレンドがきても大丈夫。またそれを攻略すればいいのですから。そもそも、未来を予測することはできません。例えば、TikTokがこれだけのスピードで広まり、YouTubeに追いつこうとしているなんて、誰が予測できたでしょうか」
新しいものを攻略するためには、4つのステップがあるという。
1つ目は、ルール・仕様書を読むこと。「Facebook広告がうまくいかない」と嘆く担当者の8割が、広告ガイドを理解していない。家電製品を使うような感覚で、説明書を読まずにいきなり取り組んでしまう。これでは攻略できるはずもない。
2つ目のポイントは、活用して慣れること。ルールに関しては、広告出稿側で変更できることではない。変えられるのは活用方法のみである。ルールをすべて把握、理解したうえで、それをしっかり活用していく。活用については場数を踏むことがものをいう。繰り返し活用し、慣れていくことが重要である。
3つ目は、計測。広告を活用したら、それで終わりではない。その結果について、費用対効果を計測する。
そして最後が、評価・分析。計測した結果について、良かったのか、悪かったのかを評価し、その勝因あるいは敗因を分析する。
「この4つのステップを完璧にできたら、Facebook広告だって攻略できるし、YouTubeもTikTokもメタバースも、何だって攻略できます。攻略できないとしたら、どれかが足りないということ。基本的なことだと思われるかもしれませんが、これらができていないことが多いのです。中でもよくあるのが、仕様書を読んでいないケースです」
アドバンは企画からデザイン、開発、集客全般まで、開発の8割方をインハウスで行っている。
「Webサービス事業は、総合格闘技のようなものです。何か一つだけ強ければいいわけではなく、全体的にムラなく強くしていかなければなりません」
その中で培われてきたのが、集客力である。アドバンの高い集客力に着目したクライアントから、集客代行の依頼が多く寄せられている。
「自社アプリの開発・運営に並び、今ではWeb集客支援も弊社のメイン事業となっています。しかし我々の本業は、あくまで自社サービスです。自分たちで身銭を切って広告を出し、費用対効果を計測する。それを10年以上続けてきました。自分たちが主体となって広告を運用し続けているからこそ、クライアントと同じ目線に立つことができます」
準備不足のクライアントに対しては、広告の出稿をしないように助言することもある。
ある時、まだスマートフォンに対応していないWebサイトへFacebook広告からアクセスを流そうとしているクライアントがいた。しかしFacebookは、ユーザーの85%がスマホからアクセスしているというデータがある。「広告に50万円使うなら、そのお金でまずはWebサイトをスマホ対応させましょう」。そうクライアントに助言したという。
「もちろん、依頼を受ければそれは弊社の利益になるでしょう。でも、クライアントの利益面を大局に立って考え、今すべきこと、必要なことをはっきりお伝えするようにしています。経験に基づく知見から『真の支援』ができていると自負しています」
ガラケー時代から10年以上という経験と実績。そして、クライアントと同じ目線に立った的確なアドバイス。これこそが、アドバンが大きな信頼を寄せられているゆえんである。田中は最後にアドバンの未来をこう語った。
「目標は、日本発となる世界のトレーダーや投資家に使われるアプリを開発し、投資教育の領域で本質的な価値を追求した新アプリをリリースしていくことです。今後も集客の先の成果や業績へのインパクトをクライアント様以上に考えられるサービスを目指します」
公開日:2022年9月8日
20代前半にWebサービスを企画開発するもまったく集客できず、数カ月で終了。良いものづくりを継続するためには儲けが必要で、儲けを生み出すためにはマーケティングが必須と痛感し、業界1位の会社に就職して徹底的に修業。
ポリシーは「知識格差だけで儲けない」「知ってることの切り売り、手間賃をもらうサービスを目指さない」。理由はつまらないしダサいから。2010年7月設立の株式会社アドバンは、「ユーザーの新しい挑戦やワクワクの手助けができる投資教育サービス事業」と、「Web広告、ASO、YouTube集客支援事業」を営み12期連続黒字。
Contact
東京都品川区東五反田1丁目20-7 神野商事第2ビル1F
インタビュー・執筆:稲田和絵/編集:室井佳子
撮影:田中振一
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