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ストーリーその他

無機質なキャンパスに温かみを。―インタビューで生み出す“Hok-kori”

誰もが聴き手になり、
話し手となれる

人との繋がりを、ストーリーで
広げる

Humans of Keio
Founder
水野 友佳理 / Yukari Mizuno

自分の理想のキャンパスライフのために

「キャンパスライフにスポットを当てよう」

慶應大学の学生を取材し、SNSで紹介するHumans of Keioは、水野友佳理のこんな決心から生まれた。

取り上げられるのはスポーツで名をあげた人でも、タレント並みに知られた有名人でもなく、キャンパスで日常を送っている人だ。図書館で本を探している学生や、授業が終わって次の教室へ移動している学生に声をかけ、時には浴衣を縫っている留学生に話を聴くこともある。

インタビューをもとにつくり上げられた記事はFacebookやInstagramに投稿される。思いもよらない記事が大勢の読者から共感を呼ぶこともある。60年前の卒業生が、今は廃刊となった「三田新聞」の100周年記念出版を目指して動き出していることを紹介した記事は、驚くほどの共感を集めた。

入学当初、自分の思い描いていたキャンパスライフが現実とは大きな落差があることに戸惑っていた。

「大学に入る前は、キャンパスにはたくさんの友人がいて、カフェに行けば毎回違う人と話せるような時間が待っているのだろうと、ずっと憧れていました。でも実際には入学シーズンが落ち着けば、人間関係はほぼ固定化し、中高の時と何ら変わらないなと感じたのです」

気軽に話せて、心を許せる友人がたくさんいれば自分のキャンパスライフはもっと楽しいものになるはず。自分の理想とするキャンパスライフを追求するところから動き出した。

それにはまず交友を広げようと、キャンパス内を歩いている見知らぬ人に話しかけることを思いつくが、突然、知らない人から声をかけられても警戒されるだけ。そこで一策を講じたのがHumans of Keioだ。メディアを作ることで、「インタビュー」という必然性が生まれた。

元来水野は言葉に敏感である。小さい頃から本を読んでいて気に入った文章にはマーカーを引くなどして自分の引き出しに入れ、大学では教授の何気ない一言もメモにとり、聴き漏らすまいとしてきた。そうした「人の口から語られる言葉を蓄積していきたい」という想いもHumans of Keioには込められている。

初めは「自分の企画は共感を得られるのだろうか」と不安が頭をよぎることもあったという。ある日、友人が主催するイベントでHumans of Keioについて話をする機会を得た。すると周りから次々と応援の声が寄せられ、写真撮影を手伝ってくれるパートナーも現れた。この出来事が水野のエンジンを点火させた。それからは次々とインタビューを行い、今では約300名の記事が掲載されるまでになった。

水野はこのメディアを「こんなことをしている人がいる」で終わらせるのではなく、その先を見据えたものにしたいと考えている。

「Humans of Keioを通して、『こういう風に過ごしている人がいるのだから、自分の毎日も大事にしよう』という気持ちがキャンパス内に広がっていけばいいと思っています」

キャンパスという同じ空間にいながら、他人のことには関心がない人が多い。そんな人に向けて、水野はメディアを通じて他人に関心を持つきっかけや、温かい気持ちを届けている。だからこそHumans of Keioの頭文字をとり「“Hok-kori”『ほっこり』」を届けるメディアと自ら位置付けたのである。




 

一人ひとりの声と想いに触れたニューヨークでの生活

思いついた企画を実行する行動力のある水野だが、幼少期から活発だったわけではない。父親の転勤や、早生まれで体が小さかったことなどがあり、幼稚園に行きたくないと愚図る時期もあった。

そんな水野を変えたのは、週8回のさまざまな習い事だった。学校以外の新しいコミュニティにとけこむには自分から話しかけるしかない。そのとき、自分からアクションを起こすことの必要性や新しい友人をつくることの楽しさを知った。

中学生になると積極性はさらに強まり、3年生の9月には単身渡米することを決心し、ニューヨークの高校へ通うことにした。

自ら選択したとはいえ、アメリカでの寮生活は楽なものではなかった。日本にいれば普通にできた活動が、寮の規則に縛られてできないことや、ホームシックになったこともあった。

しかし、これまでも日々新しい刺激がある環境に身を置き、その中で楽しみを見つけてきた。「ここでしかできないことをやってやろう」と切り替え、部活動や委員会など、多い時には10を超える活動を並行してきた。

Humans of KeioのヒントとなったHumans of New Yorkと出会ったのもその頃のこと。ニューヨークの街を歩いている人々にインタビューをし、その人生にスポットをあてる、ごくシンプルなコンテンツにくぎ付けになった。

「Humans of New Yorkを初めて見たとき、『ニューヨークにはこんな人がいるのか』と外国を身近に感じました。そして、それ以上に、一人ひとりの想いに温かみを感じ、名前もわからない通りすがりの人の声とはこんなにも素敵なものだったのか、と気付かされたんです。Humans of Keioの読者の皆さんにもそんな体験をしてほしいんです」



 

話を聴くことで変えられる未来

就職活動や卒業を控え、大学生活も終盤に差し掛かった今、水野はHumans of Keioの未来や今後の展望をどのように見据えているのだろうか。

「Humans of Keioを通じて私はたくさんの取材をしてきましたが、この社会では誰もが聴き手になることができると考えています」

話を聴いてくれる人が存在すれば、必ずそのストーリーに共感する人も現れる。「その循環が生まれたら、個人が萎縮せずに暮らせる社会がつくれるのではないか。Humans of Keioは、その一助としてたくさんの人に見てもらいたい」と水野は言う。取材対象を限定しなかった理由もここにある。

水野の究極の目標は、インタビューなどのアプローチを用いて「誰も排除されない社会」を実現することだ。今の世の中、国家でさえも国民すべてを平等に扱えているとはいえない。平等であるべき恩恵をマイノリティーが受けられずに孤立していることは多い。

解決の糸口の見えない世界の公共性や平等性を、身の回りから少しずつ、しかし着実に変えていこうとしている。



 

リスナーの目線

決して大きくはない身体に対して圧倒的な存在感を放っているリュックサック。「よいしょ」と肩から降ろすと眼鏡の奥から人懐っこい眼差しが覗きます。“ほっこり”とした雰囲気をたたえながら、その言葉からは「人の話を聴くこと」への極めて純粋な想いが伝わって来て、ハッとさせられることも。水野さんの種蒔きが世界を大きく変える日が、いつか本当にやってくる気がしてきました。

インタビュー・編集/垣畑光哉、青木典子、高橋大道  撮影/平山諭

Profile

1996年愛知県生まれ。慶應義塾ニューヨーク学院を卒業後、慶應義塾大学法学部政治学科へ進学し、『Humans of Keio』を創設。以来、取材を次々に敢行、総取材人数は300人を数える。トレードマークは大きなリュックサック。趣味は14歳から高校の部活動として始めたダンス。ゼミでは現代社会理論を専攻し、「死生観の構築と幸福度の向上」に注目する。取材を重ねていく中で聴くことの奥深さを知り、SFCのゼミにも所属。現在は「身近な人との対話」を個人研究のテーマとしている。2つのゼミで学んだことを今後のインタビュー活動に活かしていく。

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