
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
企業は顧客に専念でき、フォトグラファーはクリエイティブに専念できる環境を
福田 強史 / Tsuyoshi Fukuda
ミーロ・ジャパン株式会社
代表執行役員社長
多くの商品を扱う企業にとって悩ましいのが、Webサイトに掲載する写真の撮影ではないだろうか。例えば不動産の仲介やフードデリバリーなどは、実際の商品がどんなに素晴らしくても紹介する写真が魅力的でなければ、問い合わせや注文にはなかなか至らない。
魅力的な写真を撮るためにプロに頼もうとすれば、フォトグラファー探し、スケジュール確認、日程調整や条件等を擦り合わせるなど、たくさんの作業が必要だ。それを新商品が入るたびに繰り返さなければならない。
そういった煩雑な業務を一手に引き受けてくれる企業が、ミーロ・ジャパン株式会社だ。
「弊社は、撮影を希望する企業とフォトグラファーをマッチングしています。日本全国の千数百名の登録フォトグラファーの中から、地域、機材、得意ジャンル、スケジュールなどを考慮して最適な人材を選定し、企業にご紹介。企業にとってもフォトグラファーにとっても、強い味方です」
ミーロ・ジャパン代表執行役員社長 福田強史は事業の有用性をそう強調する。
ミーロ・ジャパンの親会社、Meero(ミーロ)は、2016年にフランスで創業した。創業者のThomas Rebaud氏(現CEO)は、フォトグラファーの友人たちが営業活動や請求書の処理といった写真撮影以外の業務に多くの労力を割いていることを知る。そこでプラットフォームやAIを駆使して、フォトグラファーが本来のクリエイティブな活動に専念できる環境を整えた。これがMeeroの始まりである。
その3年前の2013年、フランスは政府主導のスタートアップ支援政策「La French Tech(フレンチテック)」を打ち出し、2025年までに時価総額10億ドル超のユニコーン企業を25社つくることを目標に掲げた。
Meeroはこのフレンチテック発ユニコーン企業の一つ。2019年3月には、日本法人ミーロ・ジャパンが誕生した。
フランスですでに成功している事業を日本でも展開することは一見単純なようだが、実際はそう簡単なことではない。
フランスでのやり方をそのまま日本にあてはめても、うまくいかない。言葉の翻訳だけでなく、文化や感覚的なところにも配慮して、擦り合わせていかなければならないのだ。写真のクオリティーもしかり。「良い写真」の定義は、文化によって異なるのだという。
「例えば、出来たてのお好み焼きの写真が必要とします。立ち上る湯気と踊るかつお節。日本ではおいしそうに見える写真表現だと言えるでしょう。しかし、この湯気やかつお節をノイズととらえる国もある。このような文化的な背景からなる違いを、一つひとつ丁寧に補正していく必要があるのです」
成功した事業スタイルをそのまま取り入れるのではなく、現地仕様に整える、いわゆる「ローカリゼーション」が日本展開におけるキーポイントだ。
海外では、撮影当日、手配したはずのフォトグラファーが来ない、撮影する対象物が用意されていないといったことを回避するため、撮影前に「何をどのような段取りで撮影するのか」「いつまでに何を準備すべきか」「当日は何時にどこに集合するのか」といった内容のリマインドをたびたび入れて運用している。
「国民性の違いといってもいいのでしょうか。フランスと同じような確認を日本でも行ったら、相手は『信頼されてないのかな』『少ししつこい』と感じてしまうかもしれませんね」
リマインドコールの頻度一つをとっても、現地に合わせた対応が必要なのだ。
「それまでMeeroが作り上げてきた、さまざまなマニュアルや仕様を細部にわたって日本向けに手直しする。地味で大変ですが、とても重要な作業です。また、小さなすれ違いや失敗が、ローカリゼーションの大きなヒントにつながっていることも忘れてはいけません。もともとMeeroが持っていた価値は、この日本向けローカリゼーションを通して、さらに高まりました。企業様にもフォトグラファーさんにもメリットの大きいミーロ・ジャパンのサービスを作り上げられたと思っています」
ミーロ・ジャパンは、単なるフォトグラファー派遣会社ではない。同社のサービスを支えているのはAIやプラットフォームといった高度なテクノロジー。これにより、スピード、価格、クオリティーに優れたサービスの提供が可能となっているのだ。
Webやアプリを販売チャネルとしている多くの企業の願いは、商品画像を一日も早くサイトに掲載したいということだろう。ミーロ・ジャパンはその希望に応えるため、AIによる編集工程を取り入れている。
「写真撮影希望日の2営業日前までのご依頼であれば、すぐにフォトグラファーを選定し、希望日に撮影いたします。その後、写真を編集し、納品までに2営業日。すべての工程を4営業日で完了できるのが、私たちの大きな強みです」
フォトグラファーは撮影後、すぐに画像データをミーロ・ジャパンへ納品する。いわゆる「撮って出し」である。その画像はAIによって自動で、明暗の補正や不要部分の削除といった編集がなされる。正確で標準化されたクオリティーの写真を早く提供できる仕組みだ。
またクライアントによって多種多様なクオリティーの要求レベルに柔軟に対応できるよう、フォトグラファーにバッジ制度を導入。得意分野や所持している機材などに応じて、等級分けをしている。
「フォトグラファー向けのガイドラインがあり、テストも実施しています。クライアント企業からオーダーが入ると、場所、時間、バッジ、ジャンルなどの条件で絞り込み、最適なフォトグラファーを自動手配すできるシステムになっています」
独自のプラットフォームも、ミーロ・ジャパンを支えるテクノロジーの一つだ。
顧客が求める商品をあらかじめパッケージ化し、それをプラットフォーム上に登録、あとは撮影の日時、場所を入力するだけで、発注完了。まさに自動販売機で買うような手軽さで写真を発注できる。
「全国規模の不動産企業の場合、それぞれの営業所が個別にフォトグラファーと契約をしていると、発注から請求書のやりとり、支払いなどの関連業務が膨大になります。そこをプラットフォームで一元管理するため、コストが大幅に圧縮できます。写真のクオリティーは一定なので、営業所によって見栄えに差異があるといった不都合も起きません」
プラットフォームでは写真の注文や納品だけでなく、API連携により、Webサイトへの自動アップロードもできる。
「弊社にご依頼いただくことで、企業様にとっては大きな時間短縮となります。『お客さまと向き合うことに、より多くの時間を使えるようになった』『接客の時間が増え、成約率が向上した』という声が多く寄せられています」
ミーロ・ジャパンでは、通常の写真だけでなく、より付加価値の高いサービスを拡充している。
例えば、デジタル加工(バーチャルステージング)。不動産企業が居住中の物件を紹介する場合、撮影した写真に写り込んだ個人の所有物をデジタル処理で削除することができる。また逆に、現場にはないものを付け加えることも可能だ。空き室の写真にカーテンやテレビ、テーブルやソファなどを配置して、実際の生活をイメージしやすくする。
最近では、3D写真や動画にも対応しているという。
「コロナ禍で長距離の移動や外出の自粛が要請された際には、バーチャル内覧用の3D写真や動画のオーダーが増えました。写真だけでなく、さまざまなビジュアルコンテンツを自動販売機のような手軽さで利用できるようにしたい。今後もいろいろなニーズに合わせてサービスを拡充し、高い価値をワンストップで提供していきたいと思っています」
クライアント企業だけでなく、フォトグラファーにとっても高い価値を提供する。それが、Meeroのコンセプトである。
Meeroのサービスは、世界80カ国で展開されており、計約6万人のフォトグラファーが登録している。登録フォトグラファーは、自国以外での仕事を請け負うことも可能だ。
「今後は、日本の登録フォトグラファーが海外で活躍するための後押しをしていきたい。写真の業界は、まだまだローカルな文化が根強く残っていますが、それを変えていきたい」と福田は話す。
「例えば旅行先で、時間が空いたらスケジュールをオープンにしておく。すると、現地で仕事が入る。そのような感じで、クリエイティビティーとモバイルな機会を融合させることができるのではないでしょうか。日本のフォトグラファーの皆さんにも、どんどん世界で活躍していただきたいです」
今後はフォトグラファーだけでなく、ドローン撮影やビジュアルソリューションといった次世代のニーズにもいち早く応えていきたいと福田は語る。固定概念にとらわれず時代の潮目を見極め、さまざまなクリエイターに新しい働き方を提案していく、それが、ミーロ・ジャパンの描くビジョンである。
公開日:2022年9月8日
法政大学卒業後、市長になることを志し、政治家秘書、その後大前研一事務所に勤務。家業廃業から政治家への夢を封印し、ビジネスの世界へ。IT分野におけるグローバル企業(デル、ノキア、シマンテック、マイクロソフト)にてセールス、マーケティング、ビジネスデベロップメントの要職を歴任。ウェアラブル最大手フィットビット社(現グーグル)では初代日本代表として、アップルウォッチ発売前からウェアラブル市場開拓に努める。フィスカース社マーケティング・デジタル戦略担当を経て、2019年9月よりフランス発AIユニコーン企業meeroの日本代表に就任。グローバル全社員の平均年齢27歳の中で最高齢。「大人もっと頑張れ!」が自分へのテーマ。
Contact
東京都渋谷区道玄坂1-10-8 Plug&Play2階
インタビュー・執筆:稲田和絵/編集:室井佳子
撮影:田中振一
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
一人ではできないことを、チームで実現させるスイミー経営
入社1年目にして大阪本社の新規プロジェクトに抜擢。2年目には東京拠点の立ち上げを担う
写真家と事業家、二つの顔で自然や動物に寄り添う
タグ