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ストーリー役員

今いる社員の意識を変え、新しい価値を生み出す。老舗モノづくり企業が挑んだ「心を動かす」組織改革

最新ストーリー代表_吉川化成株式会社

社員の声を「聴く」ことで心を動かし、組織を変える。老舗モノづくり企業の挑戦

吉川 拓哉 / Takuya Yoshikawa
吉川化成株式会社
常務取締役

射出成形でプラスチック加工品を製造する老舗企業

家電製品や自動車、医療機器など、さまざまなプラスチック部品を製造する吉川化成株式会社。1950年の設立以来、70年以上の歴史を刻む老舗モノづくり企業だ。

設立当初、当時では珍しい射出成形(加熱溶融したプラスチック原料を金型に流し込み、冷やして成形する)技術で、大手家電メーカーの洗濯機タンクのプラスチック化に成功。それを原資として工場を全国へ展開した。1990年代後半になると携帯電話部品の需要が高まり、会社は第二次成長期を迎える。そして現在、自動車や医療分野にも事業を拡大し、さらなる成長を見込む。

「モノづくりにおいて大切なのは、そのモノが作れるか否かではなく、できあがったモノの安全性を保証できるかどうかです」

そう話すのは、常務取締役の吉川拓哉だ。

安全性を保証するためには、製品の検査設備や検査担当者など、相応のリソースが必要となる。同社では、製造の過程でミスが起こらないよう細心の注意を払うとともに、安全基準に則した製品ができあがっているかを測定して検査する体制が構築されている。万が一問題が起こった場合には、その製品がいつ、どこで作られたのか追跡できるトレーサビリティーの仕組みを整える。同社のモノづくりへの真摯な姿勢は、国内の多くのナショナルブランドからも信頼を得ている。

「聴く」から始まった、新しい価値を生み出すための組織改革

老舗モノづくり企業では、長い歴史の中で組織が硬直化してしまうことが少なくない。同族経営の企業ならなおさら。吉川化成も例外ではなく、社内には「現状のままでいい」という雰囲気が漂っていた。そんな空気を打ち破ったのが、吉川の父で代表取締役社長の吉川秀朗が2020年に掲げた、売上倍増の方針だ。

売上を倍増させるためには、新しい事業やプロダクトを生みだす必要がある。そのためには、人材をはじめとした土台づくりをしなくてはならない。新しく人を雇うか、既存の社員のマインドを変えるか。常務である吉川は熟考の末、「今いる社員の意識を変えて、活性化させよう」という答えにたどり着いた。

まず吉川が採った打ち手は、一方通行になっている既存の会議体を刷新し、双方向かつオープンな新しい会議体を作ることだった。従来の会議は、経営側あるいは社員側のどちらか一方が報告や発表をするだけの、情報伝達の場になっていた。そうではなく、これからの会議体は「価値を生みだす」ものであるべき——。

「会議体が価値を生むものにするためには、まず社員の話を『聴く』環境を作ることが大切だと思いました。社員が自分から話してくれる会議とはどんなものか、徹底的に考えたのです」

吉川は七つの会議体を立ち上げた。そのうちの一つが、1on1形式で行う「改善提案」だ。

この1on1には吉川のほか、ファシリテーターと総務部の担当者が同席する。所要時間は1人20分。毎月3日間、吉川は1日20人の話に耳を傾ける。当初の議題は、日報について話すことだった。これには、「常務と何を話せばいいか分からない」と戸惑っていた社員も、自信を持って口を開いてくれたという。

「日頃の業務について、恥ずかしながら私はよく知りませんでした。社員に『これはどう作っているんですか?』と質問すると、ホワイトボードに図を描いて、生き生きと説明してくれるのです。常務が知らないことも知っているという、誇らしい気持ちだったのかもしれません」

会議体はほかに、社員が「おかしい」と感じたことを経営側と話し合って規約から変えていく「経営企画会議」、社員が起案した新事業やプロダクトに対して投資の可否を経営側と話し合う「プロジェクトチャレンジ会議」などが存在する。

社員の話を「聴く」ことは、当たり前のようでいて難しい。吉川化成は長らくトップダウン型の組織で成長を続けてきた企業。それをボトムアップ型に変革するには、大きな決意が必要だった。

吉川の判断には二つの背景があった。

一つは、MBA取得のため通っていたビジネススクールでの経験だ。経営マネジメントをはじめとしたさまざまな理論や知識を身に付ける一方で、どうしても学びきれないことがあると感じていたという。

「当時、学術論として学んだのは合理的な視点のみ。でもそれだけでは、モチベーションの保ち方や、愛情、人情といった非合理な部分を読み解くことができなかったのです。合理的な視点に加え、こうした非合理な部分を活用できるようになれば、ほかより抜きん出た会社になるかもしれない。そんな根拠のない自信がありました」

もう一つは、AGC(旧・旭硝子)グループを成長させた取締役兼会長の島村琢哉氏の言葉だ。島村氏はWebセミナーで、ガラス産業の老舗企業のトップとして、いわゆる「硬直化」した組織にイノベーションを起こした手法として「社員の話を聴くこと」を挙げていたのだ。

「AGCとは規模感は違いますが、長い歴史があり、硬直化しやすい業種である点がよく似ています。その時、経営者が何をしたか。それによって、どう組織が成長したか。島村さんを見習って、社員の声を聴こうと考えたのです」

改善提案で出た意見やアイデアを即、かたちに。変化を刺激に感じられる社員が増えた

1on1の「改善提案」をはじめとする、すべての会議体の対象は現場の社員が中心。社員から率直な意見が出るようにするためだ。

しかし、これが生え抜きの経営層にとって、不安のタネになった。外からは何をしているか見えないために、「吉川は何を始めたんだ?」「良からぬことを吹き込んでいるのではないか」と勘繰る人もいた。

「中にはなかなか信頼してくれない人もいました。でも、改善提案の目的は社員を褒めることでもあったので続けました。皆さんが納得してくれたのは、新しい会議体に移行して約半年後。社員たちが『いろんな話を聴いてくれる』『褒めてくれる』と口々に言うようになって、安心したようです」

クローズドな状態で行われる1on1は、ともすれば社員がグチをこぼす場になりかねない。しかし吉川化成では、そうしたことは皆無だったという。意見が出されるとしたら、「会社の方針がどこへ向かっているのか分からない」「自分の仕事にどんな価値を持たせてくれているのか分からない」など、会社の事業方針や自分自身の役割に関するものがほとんどだった。

1on1で出された意見は、その日のうちに吸い上げ、改善につなげる。得られた情報はその場でファシリテーターから各工場や拠点に横展開され、必要とあれば、総務部の担当者が規約を変更するなどの手続きを行うこともある。

例えば、社員Aから「自分の役割が明確でない」と相談をされたとする。吉川が話を聴いて、確かにそうだと判断した場合には、同席のファシリテーターがAの上長にメールをして事実確認をする。その結果、どういった対策を行うかを総務部のトップと確認し、手続きを進めていく。

この時、所属先でAが不利益を被ることがないよう、あくまで会社の課題であり、経営側の責任であることを前提に発信をする。所属先の上長にも、情報や時間を提供してくれたことに対して感謝の気持ちを必ず伝えているという。

「密なコミュニケーションをすることは、私という人間や経営側がどんな考えを持っているか、現場に知ってもらういい機会になります。もし何らかの拍子にコンプライアンスに反するような行動を取りそうになっても、『会社に迷惑をかけてはいけない』という抑止力にもなる。年間何百人もの社員と面談する効果は計り知れません」

改善提案の1on1は全社員を対象とする完全挙手制だが、毎月予約でいっぱいになる。

「社員は話を聴いてほしいというのです。私は『聴くこと』を通して、社員の力を引き出し、社員の心を動かす経営側の一人でありたいです」

先代から信頼のバトンを受け取り、社員と共に成長し続ける組織を作りたい

吉川の取り組みは、着実に実を結び始めている。

「社員の意識の中に、新規事業に対する抵抗がなくなってきていることを感じます。以前であれば現状維持を選んでいた人たちが、『変化』に対してポジティブな刺激を感じるようになってきているのだと思います」

同族経営の老舗企業では、トップが交代する時いかにして信頼・信用のバトンをつなぐかがカギとなる。

「この4〜5年で、新体制を迎えるにあたっての基盤作りができたのではないかと思います。この先、社長が交代しても、全体が同じ方向を向いて動き出すことができると信じられるようになりました」

「社員の中に、『自分たちでもできる』という気持ちが芽生え始めている」と手応えを語る吉川。海外に市場調査に行く、新しく工場を出す、新規顧客を得るために門を叩いて営業する――。できると思ったらまず行動する社員が増えた。一方、自分の過去の経験を引きずって、「それは現実的ではない」と後ろ向きな発言をする社員は少なくなったという。

「小さな粒がいくつも集まって、3つ、5つと増えていくことでシナジーが生まれる。そんなふうに、一担当者の発言が波紋のように広がって、組織を動かすことがあります。一つの『点』だった視点や視野、視座がつながり、『面』になって、『立方体』になっていく。そんな組織ができれば、成長する企業になれるのではないでしょうか。社員と共に、魅力的な組織を作っていきたいですね」

公開日:2022年9月8日

Profile

1978年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業。2021年にNUCB BUSINESS SCHOOL 経営学修士(MBA)を修了。
学生時代はゴルフ部に所属し、国体の代表選手や関西学生タイトルホルダーなどの実績を持つ。
2000年に日本ゴルフ協会から、学業、人間性、ゴルフ界への貢献活動など総合的に優れた学生ゴルファーとして表彰される。その後、プロゴルファーとしてアメリカ、アジアを中心に転戦。
2006年に吉川化成入社。東南アジアの駐在員経験を経て2013年帰国。2016〜2019年には、同社の会社運営を行う傍ら、立命館大学体育会ゴルフ部の監督に就任。現在は、吉川化成の常務取締役。日本のビジネス業界発展のため、各業界団体の役員としても所属し積極的な活動を行っている。

Contact
大阪市鶴見区横堤5-6-34

Staff

インタビュー・執筆:宮原智子/編集:室井佳子
撮影:正畑綾子

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