
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
「人生の選択肢を増やすため、海外へ出よう」
自らの苦境を乗り越え、若者と企業に成長の機会を提供するベンチャー企業
足立 卓也 / Takuya Brian Adachi
株式会社glowship
代表取締役
株式会社glowship(グロウシップ)は渡航費、滞在費、参加費完全無料の海外インターンシップを提供している。2018年はカンボジア、2019年はオーストラリアにて開催(※コロナ禍で2020年、2021年は休止)。対象は30歳未満の若者。高校生や大学生、フリーターからエリートコースを走る社会人、海外留学経験者、また日本人だけでなく、世界中のさまざまな層の若者からの応募を受け付ける。
1週間から10日間のプログラムでは、現地の観光だけではなく、現地の大学や企業、日本語学校でのインターンシップを経験できる。また滞在中は、海外を拠点とする日本人起業家のネットワーク「WAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)」などのカンファレンスにオペレーションスタッフとして参加し、海外で活躍する起業家と交流する機会も設けている。
「海外インターンシップに参加した方は、全員が『人生が変わった』と言って帰国します。マイナス思考だった人がポジティブになれた、といった性格面での変化だったり、就職しようと思っていた人が起業するという生き方の変化だったり、さまざまです」
そう話すのは、代表取締役の足立卓也。 glowshipの海外インターンシップには、毎年日本だけでなく海外からも、多くの若者から応募があるという。その中から選ばれてインターンシップに参加できるのは、わずか30名ほど。いろいろな想いを胸に海外インターンシップに応募した若者同士のつながりをコミュニティー化するため、同社では若者と企業が切磋琢磨し成長できるプラットフォーム事業を進めている。
「海外インターンに応募してくれた若者は、これまで数万人います。その方たちに対して、24時間365日ボーダーレスにつながれる場所を提供したいのです。現在、リリースに向けて、プラットフォームのシステム開発を進めています」
現在、5つの会社経営をする足立。大学時代、アメリカのサンフランシスコに何度も渡ってビジネスデザインを学び、大学卒業後はその知見を生かして、1社目となる株式会社flowtion(フロウション)を立ち上げた。flowtionでは顧客の経営課題を解決し、戦略的立案をするビジネスデザイン事業を営む傍ら、海外インターンシップや海外視察ツアーのプログラム立案を業務委託で請け負っていた。さらにこの経験を生かすことで、海外インターンシップ事業を法人化して立ち上げたのがglowshipだ。
「人生をデザインし世界を動かす」をミッションに掲げ、若者が世界に羽ばたくサポートをするglowship。足立自身、20代前半に海外に出たことで人生の幅が広がった経験から、若者には積極的に海外経験を積んでほしいという想いがある。
「私が海外で得た一番の学びは『自由』でした。海外の人たちは自由で、誰でも対等に意見を言います。例えば日本では、会議に出席しても、周りに気を使いすぎて一言も意見を述べられないことが多々あります。海外ではそうした場でも、自分の意見をきちんと述べる人が多い。あの器の広さと自由さは、非常に学びになりました」
これらの背景によりスタートした渡航費、滞在費、参加費完全無料の海外インターンシップ事業は、当初、インターンシップ先企業やスポンサー企業にインターンシップ生が就職することで収入を得る、「人材紹介」という形でマネタイズする計画だった。ところが、インターンシップの参加者たちは海外で多くの刺激を受けたことで、インターンシップ先には就職せず、起業したり、大学を休学し海外へ旅立ったりしてしまった。「いい意味で人生が変わりすぎて」しまったのだ。
事業売上0円の状態で海外インターンシップ事業を続けてきたが、これでは会社として成り立たない。そこで、健全な資金サイクルで運営が行えるようにとプラットフォーム事業を新たに展開することにした。
1社目を創業後、順調に業績を伸ばしてきた足立だが、glowshipの立ち上げと同時に暗雲が立ちこめた。
「2019年頃から、資金的に非常に厳しい時期に突入しました。当時、相次いで取引先の未払いや倒産、ついには詐欺被害に遭い、億単位で資産を失ってしまったのです」
取引先と突然連絡が取れなくなり、お金が戻ってこない。コロナ禍で資金援助を頼まれた会社に貸与したお金が返ってこない。そんな中、海外インターンシップの催行日が迫る。
「明日までに1千万円足りない」。そんな綱渡りの日々が続いた。しかし、足立はインターンシップの催行を諦めなかった。それまで自身が投資を行っていた会社の株式を清算し、別事業によって得た利益でカバーするなど、何とか資金を捻出して海外インターンシップをやりきったのだ。
「大学を卒業した年にアメックスのプラチナカードを作り、毎月300万円ほどの金額をカードで決済していました。それが資金繰りに苦慮していた当時、クレジットカードの支払いがたびたび遅延し、カード利用限度額を30万円まで減らされてしまったのです。プラチナカードなのに30万円しか使えなかったと、今でこそ笑い話にできますが、当時は本当につらかったですね。インターンシップが無事に終わった瞬間、そんな日々を思い出して涙が出ました」
まさに崖っぷちの窮状をしのいだ足立だったが、困難は続いた。資金繰りのめどが立ち、「これからやるぞ」というときに、新型コロナウイルスがまん延し始めたのだ。世界各国でロックダウンが宣言され、海外渡航が制限される中、海外インターンシップ事業は中止を余儀なくされた。
海外渡航が制限される中、メイン事業の停止を余儀なくされたglowship。経費の発生する活動はすべて停止し、休眠に近い状態となった。社員が少人数で、業務委託やスポットで参画するメンバーが多かったことから、なんとか人員削減を行わずに済んだのは不幸中の幸いだった。
たび重なる困難。そんな中、何度も心が折れそうになる足立を支えてきたのは、周囲にいる「人」だった。
「当時、資金が足りないことを隠して何事もないように振る舞うのが、何よりもつらかったです。だから、近しい関係者に事実を正直に説明した瞬間、とても気持ちが楽になりました。取引先との契約を履行できなくなり謝罪に伺った際、中には関係性が悪くなってしまった方もいますが、『足立君だから協力させてもらったんだ』『いつまでも待つよ』と言ってくださる方がほとんどで、本当に心が救われました」
また、周囲の経営者らからも元気づけられたという。
「私が『明日1千万円足りないんです』と言うと、『僕は3億円足りないよ』『先月は20億円足りなかったけどなんとかしたよ』と。そんな方々が周りにいたのです。これくらいで何を弱気になっているんだ、というポジティブなマインドに変わりましたね」
そして何よりも支えになってくれたのが、公私を共にするパートナーの存在だった。glowshipを立ち上げ、窮地に陥ってからも、離れることなくそばで支えてくれた。そこにいてくれるだけで安心できる存在だ。
すべてが裏目に出て、「もうダメだ」と感じながらも、別事業からの補填などによって必死に立て直しを図ってきたglowship。今、プラットフォーム事業を皮切りに、リスタートを切ろうとしている。どん底の状況から抜けだし、海外に出る基盤も再び整いつつある。
「早くみんなで海外に行きたいですね」と足立は笑顔を見せる。
自社のサービスを通して、一人でも多くの若者の人生をデザインしたいと意気込む足立。まもなくリリース予定のプラットフォームでは、若者の自発的な行動を促すために、プラットフォーム内で自由にプロジェクトを立ち上げてもらうことを考えている。
「私はあくまでもファウンダー。プラットフォームの統括者ではないので、私からトップダウンで提案することはほとんどありません。クルー(プラットフォームを利用する若者)と企業が『やりたい』と思ったことを、どんどん実行していただきたいと思っています」
クルーと企業を対象に、glowshipが主導するイベントは次の通りだ。
一つが、メイン事業の海外インターンシップ「glowship world internship(グロウシップワールドインターンシップ)」。二つ目が、企業から学びを得て、クルーと企業が交流を深めるための場として毎月開催するオフ会「glowship meeting(グロウシップミーティング)」。三つ目として、半年に1回の国内合宿「glowship camp(グロウシップキャンプ)」を企画する。
また番組企画から企業取材、映像編集までをクルーが担当するオウンドメディア「glowship TV(グロウシップティービー)」を運営。クルー同士でコンペを開催し、優秀チームを海外ロケに招待する。
若者にさまざまな挑戦の場を与える同社。足立はこれからを背負って立つ世代に、「自由な生き方をしてほしい」と願う。
「若い皆さんには縛られない生き方を知ってほしいと考えています。『自分は自由だ』と思っていても、世界には『自分が思う自由』を超える自由がある。そうした『自由』に触れて、自分の選択肢を広げてほしいですね。世の中には、自分が死ぬまでにやり遂げられないほどの選択肢があることを知ってほしいと思います。そうして選択肢を増やしたうえで、人生の決断をしてもらいたいのです」
足立は一貫してこう言い続ける。「だからこそ、海外へ出よう」
「日本人は、日本から見た世界のことを考えがちです。そうではなく、海外へ出れば世界から見た日本という視点に触れることになる。世界の中での日本はどんな国か。こうしたマインドは誰かに教わるものでも、学ぶものでもありません。自らの目で見て、肌で感じて、体験してほしい。その機会をglowshipが今後も提供していきたいですね」
公開日:2022年9月8日
足立 卓也(Takuya Brian Adachi)
Business Designer / Business Producer
・株式会社flowtion 代表取締役
・株式会社glowship 代表取締役
・株式会社RIN 代表取締役
・株式会社ウェブコレ 代表取締役
福岡県久留米市出身。高校、大学では情報工学・機械工学・チェーンストア理論を専攻。大学在学中より年間4度の渡米、ITの聖地サンフランシスコにてビジネスデザインを学ぶ。25歳で1.5億円の詐欺被害に遭い、全資産を失う。持ち前の気合と根性で倒産を免れるが、26歳でコロナウイルスの猛威に巻き込まれ、売上100%ダウンを経験。3年間の地獄をサバイブし「人生をデザインする」事をビジョンに掲げ、世界規模でビジネスを展開中。
Contact
〒108-0072 東京都港区白金3-1-10 Ferie白金305
https://glow-ship.com/
インタビュー・執筆:宮原智子/編集:室井佳子
撮影:田中振一
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