「本音を言えば、うちの会社でテレワークなんて10年早いと思う」。
そう語ったのはA社の人事担当者。経営トップからの「テレワークを導入して長時間労働を改善せよ」の命を受け、パーソルプロセル&テクノロジーに支援を依頼した。A社は創業50年以上、M&Aを経て数千人規模となった大手企業。「10年早い」という担当者の予想を覆し、3年後には運用に至った。現在は固定席をなくし、外部のコワーキングスペースを活用するなど、当初は考えられなかった変化が起きている。担当コンサルタントの成瀬岳人は、変化を導いたポイントを「思い込みを取り払ったこと」だと言う。
「『この打ち合わせは対面でなければ』『この業務は○○さんしかできない』『ずっとこのやり方で続けてきたから今さら変えられない』――皆さん、そんな前提にとらわれているんです。A社様に限らず、これまでもスポット的に業務改善を図ったことがあっても、組織変更等の影響で元に戻ってしまっているケースは多い。けれど今はITツールの進化により、仕組みの可視化がしやすくなっています。だから私たちは、業務一つひとつを可視化し、タスクの割り当てやコミュニケーションの手段を再設計します。クライアント内の『思い込み』に立ち向かい、働く人々を縛り付ける『属人化』や『過去のしがらみからくる制約』を解消するのが私たちの役割です」
テレワークの導入に際しては、「制度」「業務」「環境」「意識」という4つを軸に変革に取り組む。ベースとなるのは現場へのヒアリングだ。しかし「どんな課題を抱えていますか」「どう改善されればいいと思いますか」といった形式的な質問を投げかけるだけでは問題の本質にはたどり着けないと、成瀬は言う。そこで行うのは、「自分たちの課題や苦労をオープンにする」ということだ。
「私たち自身がテレワークをはじめとする働き方改革に取り組み、4つの軸を意識しながら『実験』を行っています。『私たちはここで苦労しています』『これを試しましたが失敗しました』など、自分たちの経験を開示しながら対話していくと、『そうそう、それなんだ』と、ご自身の組織の課題に気付かれるんです」
こうして現場の潜在的な課題を引き出し、人事部門や経営層に伝える。「現場はそんなことを考えていたのか」「問題はそっちにあったのか」などと驚かれることも多い。
こうして課題を共有したら、「目標設定」へと進む。「何のためにテレワークをするのか」「この導入により10年後、会社がどう変わっていればいいのか」――会社ごとに異なる目標を明確化。それに応じた仕組みを設計し、一部組織にトライアル導入する。問題点の洗い出しと解決を図りながら、徐々に全社へ広げていくプロセスに伴走する。
「成瀬さん達の本気度を見たよ」。あるクライアントは、ヒアリング報告書・提案書を見てそう言ったという。
成瀬の『本気』の源泉が沸き上がったのはおよそ10年前。当時はパーソルグループの人材派遣事業で法人営業と派遣スタッフのフォローを行っている中で、多くの現場の疲弊している実態を見た。その後、希望して業務コンサルティング部門に異動。その後、働き方改革のコンサルティングサービスを立ち上げた。
「皆、幸せになるために仕事をしているはずなのに、多くの現場は疲弊していて、最悪の場合、身体も心も壊す人もいる。そんな現実を見てモヤモヤしている頃、自分に子どもが生まれたんです。いずれ我が子を送り出す社会が、こんな状態のままではだめだ、と。そこで自ら働き方を変えていこうと決意しました。複雑な事情やしがらみを解きほぐすことで、働く人一人ひとりが自分のやりたいことに意欲的に取り組めるようにしたい。それが組織全体の生産性向上にもつながっていくはずです」