
一人ではできないことを、チームで実現させるスイミー経営
空調工事の仕事からスタートし、
カフェやジムの運営にも進出
「やりたいこと」を遠慮せず
自由にチャレンジできる環境こそ、
会社も個人も成長させる
株式会社オーソリティー空調
株式会社LAKA
代表取締役
立花 信一 / Shinichi Tachibana
「積極的に営業をしなくても、連絡をもらえるような信頼をいただくこと。お客様に『仕事ありますか?』と聞いてまわるのは、お互いに時間と気持ちをすり減らします。困ったときにはうちを一番に思い浮かべてもらえる、そんな信頼をいただくことが大切なんです」
立花信一は、自社のこだわりをこう語る。現在、神奈川県川崎市で空調設備の事業である「株式会社オーソリティー空調」と、オーガニックカフェやフィットネスジムスタジオなどを手がける「株式会社LAKA」の2社を経営。業種の異なる2社だが、経営者としての想いは一貫しているという。
「会社であるからには売上や収益も大切ですが、それは後からついてくるものです。お客様からの期待に応え信頼を築くためには、ひとつひとつの仕事へ丁寧に向き合わないと始まらない。『この会社・この人に依頼して良かった』と安心してもらうには、追求する順番を間違えてはいけないと思います」
目先の利を得ることよりも、人と人の信頼や共感の輪を大切にしたい。そんな立花の考えを象徴する方針の一つに、「どんなに難しい案件や困難な状況でも、依頼された仕事は断らないこと」がある。できるかどうかよりも、何とかしたいという姿勢で顧客に向き合えるか。それこそが信頼の土台だと語る。
「お客様は何かしら困っていることや、自分の力ではできないことがあって相談をしています。少なからず、不安や悩みを心に抱えている。そのときに私たちができるかどうか考え込んでしまっては、余計に相手を不安にさせる気がしませんか。『今、忙しいですか?』と聞かれても『いえいえ、暇ですよ』と話しやすい空気をつくる。難しい案件でも『できます』と即答する。万が一できなかったときには、社長の私が責任を取るので、社員の皆にはお客様のために精一杯努力をする姿勢で臨んでほしいのです。真剣に考えて本気で努力をしたことは、相手にも必ず伝わります。それは結果にかかわらず人との絆になります」
仕事を断らないのは「失敗を恐れず挑戦すること」に意義を見出しているからだ。それが人を成長させる最大の機会だと立花はとらえている。
「予算が少ない、ノウハウがない、スケジュールが短い……。冷静に考えてみれば、手を出さない方が賢明な案件にも出合います。けれど、無難に同じことを繰り返すだけの毎日は、危険がないけど成長もない。人は難しいことにチャレンジする中で、それを実現するためにスキルを身につけていくもの。私自身は挑戦をしない人生なんてつまらないと思うタイプだからこそ、皆にもリスクを恐れず挑戦してほしいんです」
現在会社を構える地域、川崎市で生まれ育った立花。今の自分の価値観は、親の育て方が大きく影響していると語る。
「親に怒られた記憶がないんです。あれはダメ、これはダメと言われたことがなく、何でも子どものしたいようにさせる親でした。でもそれは、決して甘やかしているわけではなく、見守るけれど手は差し伸べない。だから私にとっては、何か困ったことが起きても、まずは自分で考えてやってみることが当たり前でした。もちろん、子どもだから失敗だらけでしたよ。しかしそれを繰り返すうちに、転んでけがをしながら学ぶ方が人から手取り足取り教わるよりも、よっぽど自分のためになると悟ったんです」
高校卒業後は、同級生の親が社長を務める空調設備工事の会社に就職。ここが今につながるキャリアの原点だが、実は「やりたい仕事」ではなかった。音楽にのめり込み、DJとして食べていくことを夢見て活動していた時期もある。しかし、バブル崩壊とともに景気は急激に冷え込み、この道を続けるのは難しいと判断。生きていくために選んだ道だった。
たまたま目の前に現れたからつかんだ仕事。とはいえ、子どもの頃からの「何事もやってみないと分からない」の精神で経験を積み、15年勤め上げた。その後独立する道を選んだのは、結婚の節目に将来を考えたことが理由だと言う。
「自分一人だったら真剣に考えなかったかもしれません。でも、家族を養っていくとなったら、一段高いチャレンジとして独立したい気持ちが芽生えた。それで妻に相談したんです。結婚してわずか一ヵ月のタイミング。夫が会社員を辞めるなんて言い出せば、怒るだろうなと覚悟していました。でも彼女は『やってみたら?』と背中を押してくれた。この一言がなかったら、今の自分はいないと思います」
こうして2010年に株式会社オーソリティー空調を創業。空調設備の技術・知識があるとはいえ、経営の勉強をしてきたわけではなく、はじめは分からないことだらけ。それでも手探りで失敗も重ねながら社長の仕事を学び、会社を軌道に乗せていく。
少しずつ社員も増え事業は拡大、自らも現場に立ち会社をリードしていた。しかし、ある出来事によって組織のあり方を考え直すことになる。
「自分が現場で作業をしているときに、膝の大けがをしてしまったんです。リハビリに2年かかりましたし、一時はもう走ることはできないと言われていたほどでした。でも、それ以上につらかったのが、社長の自分がけがをしたことで取引先に迷惑をかけ、社員にいろんな面で負担をかけたこと。社員やその家族の生活を守る立場の私がこれでは申し訳ない。自分がいつまでもプレーヤーとして現場に立つのではなく、マネジメントにシフトして、もっと皆に期待して任せていかなければならないと痛感したんです」
オーガニックカフェやフィットネスジムを事業とする2社目の会社、「株式会社LAKA」を2020年に設立したのは、けがの経験から何事も体が資本だと気付かされたことも大きい。自分自身に健康の意識が芽生えただけでなく、働く仲間が健やかに生きてほしいという想いを強くしたことも、この事業を始めた理由だ。
「ランチに栄養たっぷりのサラダを食べられる。仕事帰りにちょっと運動できる場所がある。この事業は、自社で働く皆の健康を支える目的で始めました。わざわざ会社にする必要はなかったのかもしれません。けれど、私は単なる自社の福利厚生にはしたくなかった。同じような想いをもつ経営者と共感の輪を広げ、社員の健康をサポートするカフェやジムを世の中に増やしていくこと。これは私の新たなチャレンジです」
LAKAを設立したのは、立花自身がやりたいことに貪欲に挑戦するためでもあるという。生きていくために始めた空調の仕事。身につけた技術を活かした独立。その次のステップこそ、未知の領域にリスクを恐れず、挑戦していくことにほかならない。LAKAを設立する際も、妻に相談をしてみた。「やってみればいいんじゃない?」とやっぱり背中を押してくれた。
立花の人生には、いつも自分の挑戦に反対せず応援してくれる人がいた。だからこそ、今は社員にさまざまなチャレンジを促すのが社長としての務めだと考えている。LAKAの新規事業もその一つ。オーソリティー空調では官公庁や空調メーカーといった既存取引先のほかに、インターネットでの直接集客にも力を入れている。事業の第三の柱にすることを目指して、新しい試みを積極的に社員に任せているのだ。
「もちろん、あれもこれもというわけにはいきませんが、事業の枠組みの中で皆がそれぞれの意見を臆せず口にでき、その人の希望に沿った仕事に挑戦できる環境を大切にしています。人は自己実現に向かって歩んでいるときこそ、前向きにチャレンジできるし、困難の裏にある意味をとらえられるからこそ、“一見するとやりたくないこと”にも向き合える。こんな風に仕事をする方が、人として大きく成長できると思うんです」
社員にはうちの会社を成長の機会として使い倒してほしいと、立花は明るく語る。その言葉には、社内でより大きな仕事を任せられる人になってほしいという想いだけでなく、自社を通過点として外に羽ばたいていく人を応援したいという気持ちも込められている。今や、フリーランスや副業など枠にとらわれない働き方が当たり前になりつつある時代。会社という枠に固執することなく、関係が変わっても人と人との縁やつながりを大切にして、長い付き合いをしていくことが立花の信念だ。
「もし当社を離れたとしても、いろいろな形で一緒に仕事をするパートナーでいたい。今や一生同じ会社に勤める時代ではなく、生き方は実に自由です。裏を返せば何事も自分次第だということ。だからこそ、私は皆の成長に真剣であり続けたいですね」
公開日:2021年7月19日
「経営の勉強をするのにビジネス本を買ったこともあるけれど、表紙だけ眺めて満足した」なんて明るく語る立花さん。理論や知識を学び用意周到に準備を進めていく方法とは異なるご自身の生き方を、「アドリブ」と表現したのが印象的でした。お手本通りにやれば正しくそつなくこなせるけれど、予定調和ではつまらない。その場の空気や目の前の人に合わせて臨機応変に動いていく「ライブ感」こそ、立花さんらしさなのかもしれません。
神奈川県川崎市生まれ。高校卒業後、空調設備工事の会社に就職。アルバイトを経て社員になり、計15年勤める。2010年、結婚を機に独立し株式会社オーソリティー空調を設立。同社を運営する傍ら、2020年には株式会社LAKAを設立し、現在は2社の経営を担っている。
Contact
<株式会社オーソリティー空調>
〒214-0014
神奈川県川崎市多摩区登戸3282-1
https://authority-air.co.jp/
<株式会社LAKA>
〒214-0014
神奈川県川崎市多摩区登戸3282-1
https://laka.co.jp/
インタビュー・執筆:森田大理/編集:佐々木久枝
撮影:新見和美
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