一般的な賃貸オフィスは、契約時に家賃10~12カ月分に相当する敷金・礼金が求められる。例えば、社員10名の企業が東京の渋谷にオフィスを借りる場合、想定される賃料は50~75万円/月、初期費用として約500~900万円が必要になるという。多額のイニシャルコストがネックとなって、「必要な投資にキャッシュを回せない」「自社のニーズに合致したオフィスに移転できない」といった企業も多いのではないか。このような考えのもと、2019年7月にオフィスナビ株式会社よりリリースされた新サービスが、敷金・礼金ゼロ~最大3カ月という賃貸オフィス物件を集めた検索サイト『サブスクオフィス』だ。
「ベンチャー企業は事業成長のスピードが速く、経営者が予想している以上の勢いで人員が増えたために、オフィス移転が必要になるケースが非常に多いです。2年借りる予定で移転したものの、すぐ手狭になって1年でまた移転したという企業も。しかし、その度にかかる諸費用は馬鹿になりません。それが結果的に成長の足枷になっているのであれば、もっとフレキシブルにオフィス移転できるスキームがあった方が、結果的に借主・貸主双方にとってメリットがあるのではないかと、数年前から賃貸オフィス契約の在り方を模索していました」
そう語るのは、同社代表取締役の金本修幸。オフィス仲介事業を軸に、これまでも不動産業界の慣習にとらわれないサービスを多く展開してきた。そんなオフィスナビが満を持してリリースした『サブスクオフィス』は、従来の賃貸オフィス契約と、近年盛り上がりを見せているシェアオフィスやコワーキングスペースといった形態のちょうど中間を狙ったものだ。半年程度の短期貸しオフィスを扱っている点なども含め、時代のニーズにあわせて賃貸借の在り方の選択肢を増やしたと言えるだろう。
「例えば、シェアオフィスやコワーキングスペースを活用して起業した会社も、順調に事業成長すれば、いつかは自社でオフィスを構えるフェーズになる。しかし、従来の賃貸オフィス契約だけでは、彼らのニーズにマッチしません。また、近年は異なる強みを持つ会社同士でプロジェクトチームをつくって新規事業を検討するような動きも活発化しており、期間限定でオフィスを借りたいというニーズも増加。こうした借主のニーズの変化にあわせ、もっと手軽にフレキシブルに借りられる物件を増やしたいのです」
しかし、いくら借りる側にニーズがあっても、貸す側である不動産オーナーに変化を受け入れてもらえなければサービスは成立しない。実際に営業開始当初は、『サブスクオフィス』の概要を伝え、敷金・礼金を下げる分は保証会社の活用や賃料を高めに設定するという趣旨を説明しても、ほとんどのオーナーは「慣習を守らないのは抵抗がある」と首を縦に振ってくれなかった。それでも金本が諦めなかったのは、リーマンショック期に大変苦労しているビルオーナーの姿を間近で見てきた経験があるからだ。貸し方の選択肢が増えることは、オーナーにとっても意味がある。その信念で営業を続け、リリース時には全国で約100物件を紹介。2019年中には、1000件近い物件が掲載されるポータルサイトへと拡大していくことを見込んでいる。
「敷金・礼金は月々の家賃が抑えられる側面もあり、従来の慣習を全部なくしたいわけではありませんが、やり方が一つしかない世界はそれが選べない人の機会を奪ってしまう。もっといろんな選択肢がある世界の方が、結果的にたくさんの人にサービスを提供でき、業界全体にとって意味のあることだと思っています。それに、もともと賃貸は『買えない人にも機会を提供するため』に生まれたビジネスモデル。また、今流行りのサブスクリプションサービスの原型とも言えます。新しいサービスでありながら、賃貸オフィスがもともと持つ良さ・メリットに還っていく。『サブスクオフィス』のサービス名には、そんな想いを込めています」