
「楽しく働く」をモットーに最速で支店長へ。直感を信じ、女性のキャリアモデルを体現。
「イベントを開催できる今がとても楽しい」
イベントホール業界一筋の経営者に聞いた、コロナ禍の苦難と未来
株式会社マグネットスタジオ
代表取締役社長
薗田 光史 / Mitsufumi Sonoda
渋谷ストリームホール、大手町三井ホール、神田明神ホール、WITH HARAJUKU HALLといった、東京の一等地に構えるこれらのイベントホールを中心に、現在13のイベント会場や多目的ホールの運営を手がけている株式会社マグネットスタジオ。2000年の設立以来、社内会議や株主総会などビジネスの場で使われる貸会議室から、コンサートや2.5次元ミュージカル、プレス発表などの会場となる大規模ホールまで、数々の施設を展開してきた。
イベントホール事業において、施設年間稼働率は60%が成功ラインといわれる中で、マグネットスタジオが手がける会場は年間稼働率80%を超えることも珍しくない。同社の強みでもある稼働率の高さについて、代表取締役社長の薗田光史はこう話す。
「イベント会場を運営する会社は、基本的に待ちの姿勢なのです。お客様からのお問い合わせを待つばかりで、自分たちから積極的に営業をかけたりPRをしたりすることはほとんどありません。それを逆手にとり、問い合わせ電話1本や下見に来た人とも継続的に接点を持つことを心がけ、他社と差別化を図るようにしました。でもこうしたことをするのは当然といえば当然。この仕事も、お客様ありきのサービス業ですから」
「些細な出会いにもチャンスがある」と、イベントで知り合う現場スタッフや顧客から紹介された企業などの情報もすべてデータベース化。18,000社以上の顧客情報を基に、自社が運営する会場の宣伝活動を行っている。一期一会を大事にしてきた結果が、稼働率の高さにつながっているのだ。
大学時代は芸術学科・演劇専攻に所属し、舞台演劇を学んだ薗田。卒業後はファッションショーの演出会社に就職。イベント運営のノウハウだけでなく、ホールで使われる音響や照明の知識にも磨きをかけた。旧態依然な風習が残るイベントホール業界に「イノベーションを起こしたい」と、31歳で独立を決意。以来、ダーティーなイメージを払拭しようと禁煙のライブハウスを企画したり、カジュアルだった会場スタッフの服装をスーツで揃えたりと、イベントホールの新しいスタイルを構築してきた。
常識にとらわれない薗田の考え方を求めた大手デベロッパーから、企画段階からホール立ち上げに関わってほしいと依頼を受けることも少なくない。2010年にオープンした「日本橋三井ホール」も、その一つ。「街の活性化」と「365日活用できる会場を」というクライアントの要望を叶えた、多様な用途に対応できるマルチ型のホールになっている。
「昇降式ステージと移動観覧席を設置し、当時ではまだ珍しかった、平土間から劇場スタイルへと変形可能な会場を作りました。平日は展示会や会議といったビジネス利用、週末はコンサートやショーの開催と、年間を通してフル活用でき、稼働率が曜日や季節によって左右されません。音量の大きいロック系ライブも催行できるよう、防音設備にもこだわり、幅広い業態のお客様にお使いいただけています」
イベントホール業界のリーディングカンパニーとして、順調に業績を伸ばしてきたマグネットスタジオ。2019年は過去最高利益を記録し、すでに複数のスケジュールが確定していた。2020年を走り出して間もなく到来したのが、新型コロナウイルス感染症だった。「3密になりやすい」と劇場やライブハウスが感染拡大の矢面に立たされ、2020年4月7日に発出された緊急事態宣言を機に、ほとんどのコンサートやイベントが実質的な中止に追い込まれた。
国を挙げて盛り上げるはずだった東京オリンピック・パラリンピックは、翌年への延期が決定。マグネットスタジオも、マスコミ向けに押さえていたプレスセンターをはじめ、五輪関連で使われる予定だった施設の契約はいったん白紙に。緊急事態宣言下での施設キャンセル料は請求できないことも、売上に大きな打撃を与えた。「一気に先行き不透明の状態に追いやられた」と、薗田は当時を振り返る。
「もう雪崩のようでした。2020年の4月から6月は全会場キャンセルでしたから。生きるか死ぬかの瀬戸際だった、と言っても過言ではありません」
前例のない熾烈な状況に突如陥ったマグネットスタジオ。それでも薗田は歩みを止めなかった。緊急事態宣言が発出された4月、不安に駆られるスタッフや顧客に向けてあるメッセージを掲げた。「DON'T STOP EVENTS」だ。
「とにかく『イベントを止めてはいけない』という想いが強かったのです。イベントがなくなることで一番苦しむのは誰か。舞台関係者やスタッフ、役者、ミュージシャンなど、彼らはイベントがなくなった途端に職や稼ぎを失います。でも当社がここまで事業を続けられたのは、ほかの誰でもない彼らがいたおかげ。私にしてみたら大学卒業後から30年間もお世話になってきたのです。だから舞台やイベントに関わる人々の仕事場をつくることが、コロナ禍でのミッションだと考えました」
このメッセージのもと、まず開始したのが、自社ホームページ内の特設サイト開設。緊急事態宣言が解け、徐々にイベントを再開する中で培った感染対策やオンラインイベントのノウハウを、特設サイト内で共有した。「イベント主催者や同業他社の背中を押したい」と、観客動線やソーシャルディスタンスの取り方、使用機材、開催事例など、写真も交えて詳細に紹介したという。
イベントの開催自粛要請が解かれた後も、収容人数の制限は続いた。会場のキャパシティに対して半数しか観客を入れられないため、主催者に入るチケット収入も半減。そうした状況を考慮した薗田は、施設のオーナーに許可を取った上で、施設利用料の割引を決行した。さらに、不足しがちだったマスクや消毒用アルコール液を顧客へ無償提供。さまざまな取り組みを通じて、社会貢献に努めた。
「誰も経験したことのない前代未聞のパンデミックの中で、助け合いの精神が最も大事だと判断しました。社員を含む関係各社の皆さんを対象に、ワクチンの職域接種も行いました。もちろん手こずることも多く、時間も労力もいろいろな手配も必要で、すべてが初めての取り組みばかりだったのが正直なところです。
でも会社一丸となって社会貢献に尽力したことで、多くのお客様から喜ばれました。その声が社員の励みになっていくのが分かりましたし、自分たちの使命に向き合えた期間だったと思います」
また、マグネットスタジオは顧客や観客の安全を守る活動の一つとして、「GBAC STAR™認証」を取得。これは、ISSA(国際社会保障協会)内にあるグローバル・バイオリスク・アドバイザリー・カウンシルが提供するプログラムで、20の審査項目をクリアした集客施設などに与えられるものだ。同社は、自社で運営する8施設のGBAC STAR™認証を同時取得し、世界的にも安全性の高さが認められた。
「どん底を見た」という2020年は、売上高の面では前年比40%以上ダウン。しかし2021年の後半には勢いを盛り返し、現在はコロナ禍前の稼働状況に戻りつつある。新型コロナウイルス感染症の流行開始から今日までの道のりを、「社員の存在に救われた2年間だった」と薗田は話す。
観客やイベント運営スタッフなど、人と直に接することの多い仕事だからこそ、社員に対して、懇親会や社員同士の食事といった感染リスクのある行動はすべて控えるよう要請した。その甲斐あり、社内から感染者は一人も出ていない。会場内の清掃や整頓も、業者だけで手が回らない箇所は、社員自ら行うこともあった。
一方で、社員たちの仕事に対する意識の変化も感じた。コロナ禍前は、稼働率が高い分、イベント会場に出向いて次から次へと作業をこなす日々。顧客の大事なイベントを失敗させるわけにはいかないというプレッシャーも大きく、心身ともに疲労困憊な毎日を送っていた。しかしすべてのイベントがストップしたことで、仕事のあり方を再考する時間が増えたという。
「イベント再開後、『久しぶりの現場だ』とうれしそうにSNSにアップしているのを見ました。社員の中には元ミュージシャンや音大出身者など、もともとエンターテインメントが大好きな人間たちがいます。だからイベントに関われる喜びや、仕事があるありがたさを再認識したのだと思います。それは私も同じ。イベントが開催できるのは当たり前ではない、という大事なことを気付かせてくれました」
コロナ禍で一時は停滞したイベント産業だが、デベロッパーによる商業施設の開発は続いており、2024年までに3会場のオープンを控えるマグネットスタジオ。10年後のプロジェクトにも着手し始めた。
目の前の壁を乗り越えることに精いっぱいだった状況をようやく脱し、「2022年のテーマは経済を循環させていく」ことだと、薗田は未来を見据える。その根底には、2020年に社員たちと合言葉のように交わし合った『コロナ後まで、絶対にあきらめない。できることはやりつくす!』という想いがある。
「『パーパス』は、存在意義を表す言葉です。自分の組織は、そして自分自身は、社会的価値を見いだせているのか。そうした問いかけに自問自答しながら、経営に臨むことがマストになってくると思います。私たちはコロナ禍を経験し、情報やノウハウをアップデートしながら、より強い企業に成長できたと自負しています。この経験を無駄にせず、今後もイベントホール業界のトップランナーとして、新しい施設の企画や運営を支え、イベント産業を活性化させていくつもりです」
公開日:2022年3月31日
玉川大学芸術学科演劇専攻卒業。大学卒業後、ファッションショーの演出会社に就職。バブル時代、DCブランドのショーとイベント制作に関わり31歳で独立。現在都内に13会場を運営。コロナ禍でイベント業界は打撃を受けたが気合で挽回中!今後2030年までに、都内の不動産開発でイベントホールを数カ所オープン予定!趣味は仕事とゴルフと海外旅行。好きな言葉は「TAKE IT EASY!」。
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インタビュー:垣畑光哉/執筆:堤真友子/編集:ひらばやしふさこ
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「楽しく働く」をモットーに最速で支店長へ。直感を信じ、女性のキャリアモデルを体現。
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