
真面目におもしろいことをしよう!企業のビジネスが輝くような“世界観(ストーリー)”を世に展開し、顧客とのコミュニケーションを力強く後押しする
株式会社ワークスアプリケーションズ
代表取締役最高経営責任者
牧野 正幸 / Masayuki Makino
もともと外資系コンピュータ会社のコンサルタントとして仕事をしていた私に、起業するつもりなど、まったくありませんでした。
当時、日本の大手企業向けシステムは、クライアントの注文に合わせて、すべてゼロから作り上げる「オーダーメイド型」。どの企業も同じような仕様でありながら、ゼロベースの作業を繰り返していました。「こんな無駄はありえない。なんとかならないのか」。悶々とした思いが募りました。
日本と米国にあるビッグユーザーのシステムをレポートするために日米を行き来していた頃のことです。日本の大手企業のITコストは、米国に比べ、突出して高いことに気付きました。理由は前述の通り、米国の大手企業はいちいちオーダーメイドでシステムを組むことはせず、メーカーがユーザーニーズを先取りして開発したパッケージ型システムを使っていたからです。
開発に数百億円かかったとしても、より多くのユーザーが購入することで単価を下げることができる。一方、莫大な研究開発費を投じられる分、高機能にできるわけです。ソフトは工業製品と同じで、大量生産のスケールメリットが利く商品。海外では、自社専用のシステムを組んでいる大手企業は皆無ともいえる状況でした。
当時、日本には中小企業向けパッケージソフトはあったものの、大手企業向けのものはありませんでした。資金に余裕がない中小企業はパッケージソフトを購入し、大手企業はオーダーメイドのソフトを注文するというのが日本の常識でした。
「業務フローが複雑な日本では、オーダーメイドでないと対応し切れない」と、まことしやかに論じられることもありましたが、世界中の企業を調べてみるとそんなことはない。
日本独自の商習慣は確かにあっても、それは米国でもヨーロッパでも同様であり、実際には地域ごとの諸事情を反映したパッケージソフトが供給されていました。
お客様の要望に甘えて、こんな無駄なことを繰り返していていいのか。根本的に間違っているのではないか。日本の企業も世界水準で、ローコストなシステムを手に入れるべきではないか。この業界の問題点と矛盾に気が付いてしまったんですね。
けれども、莫大な投資が必要な大手企業向けパッケージソフトを日本で作ろうという人など現れはしない。「誰もやらないならオレがやる」というのが、起業のきっかけでした。
起業した理由はもうひとつありました。当時から米国では、最も優秀な人材はベンチャー企業で働き、次いで優秀な人材は大手企業へ勤め、その次が公務員になるという図式がありました。私が担当していたシリコンバレーの企業も、社員数は60人程度の規模であるにもかかわらず、IBMのような大手企業から、ある製品の開発をすべて任されていたのです。蓋を開けてみれば、メンバーの大半がMIT(マサチューセッツ工科大学)やスタンフォード大学の卒業生。博士号を持っている人材もゴロゴロいるし、ノーベル賞受賞者を擁するベンチャー企業もありました。
これだけ若くて、超優秀な人材が一堂に集まっているからこそ、世界に通用するものを次々と生み出せる。会社の仕組みや環境ではなく、超優秀な人材が集まっていることでシリコンバレーは成り立っている。そんなことを目の当たりにしました。
それならば、立ち上げ時の経営層だけでなく、その後も超優秀な人材だけを採用し続けて、組織力ではなくて、個々の絶対的な能力で問題を解決していく会社をつくりたい。創業時のコンセプトは決まりました。
1996年、私はこうして仲間とともにワークスアプリケーションズを設立。日本で最 初の大手企業向けERPパッケージソフトを開発しました。ERPというのは、企業運営 をするうえで欠かせない人事、財務、生産管理、物流に至るあらゆる業務基幹システムを、 一元管理するソフトウェアです。国内では、大手企業向けERPソフトウェア・パッケー ジを提供する唯一のメーカーで、競合は外資系だけです。いまでは、当社のERPは日本 の1000以上の大手企業・グループで使われています。
私には創業時から目指していたことが2つあります。ひとつ目は、お客様の情報投資効 率を世界レベルに引き上げること。2つ目は、優秀な人材が必ず成長できる場をつくること。もし、この2つがかなわないなら、会社はいつたたんでもいいと思ってやってきました。
どんなに人手不足に陥ったとしても、われわれが優秀だと考える基準に満たない人材を 採用したことは一度もありません。ちなみに私が「優秀」というのは、必ずしも学校の成 績を意味してはいません。能力には、何もない状況から自分で意思決定して試行錯誤しな がら問題を解決する「クリエイティブシンキング」と、すでにある方法論を素早く取り込 める「ロジカルシンキング」の2つがあります。この2つは誰でも持っていますが、私が いう「優秀」な人は、高いロジカルシンキングを持ちながらも、クリエイティブシンキングが飛びぬけている人です。 私たちのビジネスは、難しい経営課題にゼロから取り組み、ITの側面から問題解決すること。ゼロから1を生むのですから、誰もやったことがないことばかり。ヒントはあっ ても、教えてくれる人はいません。だからこそ、ロジカルシンキングが高く、かつ、問題の発見を自ら行い解決策を探していくクリエイティブシンキングが優れた人物こそ、問題解決能力の高い人材と考えています。
ただし、「クリエイティブシンキング」が優れた人材は見極めが難しいものです。そこで当社では「インターンシップ形式での採用」に注力し、年間多いときで3000人、少 なくても1000人の学生が参加しています。給与も支払うため、これだけでもたいへんな投資です。仕事を模した課題に対してどのように解決していくか。その過程を追うこと で、問題解決能力を見ていくのです。誰も思いつかないような発想を元に、問題解決まで 導けるかどうかがポイントです。
学生たちに自分の才能を見出してもらうことも目的のひとつです。自分はこんなに頭が 柔らかかったのか、あるいはこんなに頭が堅かったのかと気付いてほしい。この気付きが、 私たちのようなベンチャー企業向きなのか、または大手企業向きなのかを見極める判断材 料になるからです。
私はゼロから新しいことを生み出すのがベンチャー企業だと考えています。そのためには「クリエイティブシンキング」型の人材が必須なわけですから、必然的に生産効率は悪 くなります。ベンチャー企業は生産効率が悪くてもいい。しかしゼロから新しい価値を世 の中に生み出していかねばなりません。
社会的に意義がある仕事をしていて「その会社がないと世の中が動かない」と思われるような存在こそが、ベンチャー企業の目指すべき姿ではないでしょうか。例えば、ダイ エーが現れなければ、スーパーマーケットという業態が世に出るのは、あと10年は遅れた はず。ベンチャー企業は世の中を変え得る存在であるべきです。
かつて日本が、効率も品質もずば抜けて高い労働集約型産業をもって、欧米企業を駆逐 していったように、いま同じことが中国や韓国の企業によって行われています。早晩に、ベトナムでもインドネシアでも同様なことが起こるでしょう。もう、そこにかつての日本 の居場所はないのです。だからこそ私たちは、米国がシリコンバレーでやったように、優秀な人材を輩出して新しいビジネスを興していかなければならないと考えます。
ベンチャー企業を目指す人は、自己成長を目指すべきです。日本企業の国際競争力が失 われていく中、自分が30歳を過ぎたときに、どこででも働ける力を身につけておかないとある日突然、食べていけなくなるかもしれない。必要なのは、たとえ小さなことでも「こ れは自分の実績だ」といえるもの。それを経験できるのは、ベンチャー企業でしかありま せん。大手企業だったら、仕事は一部しか任されず、自分の実績といえることは、ほとんど何もないことが多い。
次から次へと直面する問題に対処しながら、自分の頭を使って解決していくことが、あなたを鍛えます。非常に難しい仕事を若いうちからどんどんやれる〝本物のベンチャー企業〞で、優秀な仲間に囲まれながら10年も戦えば、必ず飛躍的な成長が待っています。
日本のベンチャーの決定的な欠点はトップ1%の優秀な人材がいないこと。これからの日本は、「本当に優秀な人材を輩出して新しい事業をつくることが大切」と語る牧野CEO。決して他力本願にせず、自ら19年間実践し続けてきた経営者の言葉は重く、そして時に論理的な話題を〝べらんめえ調〟で語る弁舌はどこまでも痛快なのでした。
1963年兵庫県生まれ。
大手建設会社、ITコンサルタントを経て、1996年に同社を設立。現在、同社の製品であるERPパッケージソフト「COMPANY」は、ERPパッケージ市場において国産パッケージNo.1※となる。
また、イノベーションの源泉として優秀な人材の採用に注力し、「問題解決能力発掘インターンシップ」を始めとし、次々と新しい採用プログラムを実施。独自の人事戦略でも注目を集め、2010年、「働きがいのある会社」第1位(Great Place to Work Institute Japan)に選出、5年連続ベスト5にランクインしている。経営者としても「理想の経営者No.1」に選ばれるなど、幅広い支持を集めている。
※市場占有率推移(パッケージ市場)販売社数シェア
出典:株式会社富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場」2013年版
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フリーランスを活用する企業のリアルな声を、事業開発に活かす新しい営業職
2年間で4つの新規事業を担当。「ゼロから創る」へのチャレンジを続ける
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