LISTEN

TOP > ストーリーエンジニア > 世界最古の産業用ロボットメーカーが挑む、ヒューマノイドロボットが人間と共生する社会
ストーリーエンジニア

世界最古の産業用ロボットメーカーが挑む、ヒューマノイドロボットが人間と共生する社会

ピックアップ_川崎重工業株式会社最新ストーリー

単なる作業の代替手段ではない。
ヒト型ロボットを、親しまれ愛される存在へ

掃部 雅幸 / Masayuki Kamon
川崎重工業株式会社 精密機械・ロボットカンパニー
ロボットディビジョン 商品企画総括部 先進技術部 部長

技術開発のためのロボット研究から、事業化を見据えたロボット開発へ

船舶、鉄道車両、航空機、二輪車など多彩な製品を手がけ、日本を代表する総合重工業メーカーである川崎重工業。1969年に日本で初めて産業用ロボットの事業を展開し、現在では世界最古の産業用ロボットメーカーとしても知られる。川崎重工業のロボットは自動車製造ラインでの活用に始まり、今ではさまざまな製品の工場に導入。医療や物流の分野でも用いられている。

そんな歴史ある同社のロボットディビジョンで、新たなロボット活用のあり方を模索しているのが、商品企画総括部・先進技術部。ロボット工学に長けた技術者はもちろん、非技術系人材も含めた、さまざまな視点・知見を結集させてヒューマノイドロボット(ヒト型ロボット)の開発に挑んでいる。このスペシャリスト集団を牽引しているのが、部長の掃部雅幸だ。

「従来の当社のロボットは、工場の製造ラインなど一般社会からは見えづらいところで、人間に代わって労働を担う存在でした。国内の人口減少が進む中で、こうした役割は引き続き担っていきたいものの、ロボットのさらなる発展のために私たちが見据えているのは、人々の生活に入っていくような存在のヒューマノイドロボット。この新たな可能性にチャレンジしています」

ヒューマノイドロボットの研究・開発に取り組んでいるメーカーや研究機関は、世界各地にある。本田技研工業の「ASIMO」など、日本も研究開発が盛んな国の一つだ。しかし各社が研究に励む中で、川崎重工業にはほかのプレーヤーとは異なる点がある。

「私たちが今挑戦しているのは、ヒューマノイドロボットの事業化です。よくある技術開発のための研究ではなく、ヒューマノイドロボットを実用化し、社会に必要なものとして購入してもらえるような製品を世に出すのがミッション。単にロボット技術を高めればよいのではなく、ヒューマノイドは社会でどう使われるべきかというテーマに挑戦しているのが、現在の私たちの“ゼロイチ”なんです」

“人類のピンチ”で役に立てなかった悔しさから、緊急時も平時も活躍するロボットを模索

挑戦の始まりは、2018年。ロボット事業が創立50周年を迎えたことを機に、ロボットディビジョンでは「社会課題を解決する総合ロボットメーカーへ」というスローガンを新たに掲げた。その象徴としてスタートしたプロジェクトの一つが、ヒューマノイドロボットの開発だ。当時ロボット事業の責任者だった橋本康彦(現:川崎重工業代表取締役社長)から、このプロジェクトを託された掃部。驚きはしたものの、ロボット研究者の一人として大きな使命感に駆られたという。

「日本はかつてロボット大国と称されていたこともあるほど、世界をリードする存在でした。特にヒューマノイドロボットについては、その発想自体が日本のロボットマンガやアニメからも影響を受けている。私にとってロボットは世界に誇れる日本の文化と言える存在でした。しかし、いつの間にか日本のロボット技術は世界標準から遅れを取る事態に。それをまざまざと感じたのが2011年に発生した東日本大震災による原発事故です。事故後、発電所内の人が立ち入れない場所で作業をするためにロボットが用いられたのですが、そこで使われたのは海外製でした。人類にとって絶体絶命のピンチが今まさに起きていたその時に、自分たちのロボットが役に立てなかった。これは私だけでなく、日本の研究者の多くが悔しかったことだと思います」

こうした想いもあり、プロジェクト発足当初は災害救助に活用できるような、強靭な身体を持つヒューマノイドロボットの開発を目標に掲げていた。災害救助とヒューマノイドロボットを結び付けたのには、ほかにも理由がある。それは、ヒト型であれば災害以外の目的でも活用しやすいからだ。

「災害は滅多に起きるものではないですから、災害専用のロボットでは、ユーザーである企業や自治体は保管・メンテナンスの費用ばかりかかってしまいます。しかし人間と同じ姿や大きさのロボットであれば、ほかにもさまざまな用途で活用ができる。世の中の建物や道具は人間の身体的特性に合わせてつくられているので、ロボットも人間と同じ扉で部屋を行き来できたり、人間と同じ道具を使って作業できたりすることが最も効率が良いんです」

この発想は川崎重工業が得意としてきた産業用ロボットとはまったく異なる。産業用ロボットは特定の作業を「素早く・正確に」実現するために形状が最適化されているが、ヒューマノイドロボットは人の形・大きさに近づけることが大前提。人間らしい動きはまだ現在のロボット工学では再現しづらいことも多く、試行錯誤の連続だという。

「例えば歩くという動作。ヒューマノイドは一歩ごとに膝をちゃんと曲げないと安定した歩行ができませんが、人間は膝をあまり曲げずにすたすたと歩くことができます。なぜ人は可能なのか、これまでは数式で表すことができず、工業的に再現できなかった。でも、ロジックで説明がつかないから無理だと諦めるのではなく、何事も『まずは試しにやってみよう』でトライするように。日々模索を続ける中で人の歩き方に近づかせることもできました」

「あなたたちは間違っている」。痛烈な一言をバネに、開発コンセプトを大胆に転換

社内ではRHP:Robust Humanoid Platformと呼ばれているこのプロジェクトで、最初に開発したのが、「Kaleido(カレイド)」と呼ばれるヒューマノイドロボット。改良を繰り返した6世代目の「Kaleido-6」は、一定のレベルに到達できた実感があり、掃部としても自信があったという。しかし、そのお披露目をロボット業界最大のイベント「国際ロボット展(iREX2019)」で行ったところ、一人の観客から否定的な意見が寄せられる。

「展示会では、“Kaleidoが災害現場へ駆け付け、被災者を救助する”というデモンストレーションを披露していました。しかし、そのデモを見ていたある外国の方に『これでは実際の災害救助なんて無理。現場で使えなければ社会実装なんて果たせない』と痛烈に批判されたのです。後から分かったのですが、その方はヒューマノイドロボット研究で大変著名なフランス国立研究所の先生。『災害現場のように何もかもが想定外の環境で、人々が発展途上のロボットを使うとは思えない。日常の中で活用されるものでなければ』という先生の意見に、ごもっともだと思いました。この出来事が、もう一度ヒューマノイドならではの価値についてゼロから考えてみるきっかけになったんです」

満を持して世に出したものに対する辛辣なコメント。その意見に真摯に耳を傾け、もう一度コンセプトから見直して誕生したのが、人共存型ヒューマノイドロボット「Friends」だ。“人共存型”を冠している通り、Friendsのコンセプトは人間との協働・共生。Kaleidoよりも一回り小柄で、人の近くで仕事をすることを前提に、安全性に配慮したデザイン・設計が施されていることも特徴だ。

「ヒューマノイドロボットの価値を突き詰めていくと、ただの作業の代替者ではなく、人の心を豊かにする価値があることにたどり着きました。人々がヒューマノイドに興味を示し、愛着を感じてくれるのは、ただの鉄の塊ではなく自分と似ているからなんだと思います。人と似ているからこそ、感情移入ができる。たとえ作業スピードが人より遅くても温かく見守ってあげられたり、人がロボットの仕事をサポートしたりといった、協力関係が起きているんです」

2022年3月に開催された「国際ロボット展(iREX2022)」で、川崎重工業はFriendsと7世代目の「Kaleido-7」をお披露目した。Kaleidoは人とのチームワークで高所作業を行う様子を、Friendsは介護施設で人を乗せた車イスを押す様子を披露し、人々の生活に溶け込みながら、人の気持ちを幸せにする効果を訴えた。

ロボットは日本の文化。オールジャパンで社会実装を実現したい

掃部はプロジェクトの変遷を振り返りながら、川崎重工業のヒューマノイドロボットが現在の形にたどり着けたのは、事業化を目指したからだと語る。もちろん、ロボット自体の技術も目覚ましい進化を遂げてはいるが、事業として成立させるには技術だけでなく社会的価値が求められるからだ。

「人口減少という社会課題を抱えている日本においては、ロボットが日本の労働力を支えていくことも求められています。そのために品質やスピードを上げていくことが大切です。ただ、私はそれだけでなく、人間の幸福度を上げていくヒューマノイドロボットの価値にこだわりたい。開発に携わる私たちもKaleidoやFriendsにできることが増えれば、会社の後輩が成長するようにうれしいし、壊れた時は家族が病気やけがをした時のように悲しく、心配になります。そうした人と人とのつながりに近い部分を、ヒューマノイドは担えるはず。この発想になれたのは、日本にいる私たちだからこそかもしれません。ロボットと共生できる未来を無邪気に信じられるのは、やっぱり子どもの頃からそんな物語にたくさん触れてきたからだと思うんですよね」

日本的な発想で、日本にしかできないロボット開発を。この想いが根源にあるからこそ、掃部は今後の展望としてオールジャパンでの社会実装を見据えている。

「まだまだ道のりは長い。自社だけでやっても限界があると思うんです。日本の叡知を結集して実現したいからこそ、大学やほかのメーカーとも連携して、それぞれの強みを活かしながらKaleidoが日本を代表するヒューマノイドロボットになれるよう、育てていきたいですね。一方で、早く事業として商品化し、社会に使ってもらうことで進化が早まる側面もあると考えています。そのためには、現時点で完全なヒト型にこだわりすぎなくてもよいのかもしれません。足が車輪になっているものや四足歩行のロボットも開発しており、社会の多くの人に親しんでもらえるものを早く世に出し、社会全体で育てていきたいです」

ヒューマノイドの社会実装。人口減少を憂う日本のためにも、自分が現役でいるうちに成し遂げると、掃部は最後にそう加えた。

公開日:2022年9月8日

Profile

1997年、川崎重工業株式会社入社。以降18年間、本社系列のシステム技術開発センターにて、ロボット技術の研究開発に従事。この間、慶應義塾大学大学院理工学研究科にて博士学位取得、実用英語技能検定1級合格、神戸大学大学院工学研究科にて客員准教授就任、技術士(機械部門)登録。
2015年、同社ロボットビジネスセンターへ異動。当時のビジネスセンター長(現代表取締役社長)より、RHP(ロバスト・ヒューマノイド・プラットフォーム)プロジェクトの立ち上げ任命を受ける。2020年、ロボットディビジョン商品企画総括部・先進技術部長就任。現在に至る。ヒューマノイドほか、人間協働ロボットなど、先進ロボットの技術開発と事業企画の両輪を牽引する。

Contact
東京都港区海岸1丁目14-5

Staff

インタビュー:垣畑光哉/執筆:森田大理/編集:佐々木久枝

関連キーワード

ピックアップ_川崎重工業株式会社 最新ストーリー

「いいね!」
最新情報をお届け

関連ストーリー

タグ

人 (680) 最新ストーリー (38) WAOJE Tokyo (34) メンバー_WAOJE Tokyo (23) 社員_マケレボ (19) 社員_アイドマ・ホールディングス (18) KGF (17) 社員_秋葉牧場 (14) パートナー_リスナーズ株式会社 (14) 社員_インフォマート (13) 社員_ペー・ジェー・セー・デー・ジャパン(P.G.C.D.JAPAN) (12) 社員_メディケアー (11) 社員_カスタマーリレーションテレマーケティング (11) メンバー_WAOJE Tokyo(団体表示用) (10) 社員_アセットガーディアン (9) WAOJE Tokyo_イベント (9) WAOJE Tokyo 理事・委員 (8) 01 社員ストーリー (7) 社員_ダーウィンホールディングス (7) 社員_ココザス (7) ピックアップ (7) 社員_プリマベーラ (6) 社員_プルデンシャル生命保険 (6) 社員_ワークスイッチコンサルティング (6) 企業_イクリエ (6) 社員_PMG (6) 価値観1 (5) 社員_SB C&S株式会社 (5) 社員_D&I (5) 社員_いろはにぽぺと (5) 社員_ブルーコンシャス (5) 代表_セカンドマインド (5) 社員_ピープルズコネクト (5) 女性起業家特集 (5) 卒業特集 (5) 入社式特集 (5) 新入社員特集 (5) 沖縄特集 (5) 代表_ダーウィンホールディングス (4) 社員_ジブラルタ生命保険 (4) 社員_シーアールエス (4) 社員_Surpass (4) 社員_識学 (4) 社員_ブリス・デリ&マーケティング (4) 社員_日本ファイナンシャルプランニング株式会社 (4) ゴルフ特集 (4) 01 レビュー (3) 社員_フラー (3) 社員_メディカルネット (3) 代表_株式会社サーキュレーション (3)

カテゴリ

ピックアップストーリー