
プロとしての技術を継承し、
家業の写真屋を継いだ3代目社長
過去の常識に縛られないアイデアで
人々に幸せな時間を提供する
『成幸請負職人』を目指す
有限会社渡邉写真社
代表取締役社長
渡邉 真人/ Masato Watanabe
フィルムがデジタルに取って代わり、誰もがスマートフォンで簡単に撮影できる時代。1800年代に撮影技術が発明されて以降、幾度かの技術革新を経て、現代に生きる私たちにとっての写真撮影は極めて日常的なものになった。そんな時代において、「写真館でプロのカメラマンが撮影をする」という昔ながらのサービスを守り続けているのが、渡邉写真社だ。「横浜そごう」「千葉そごう」「東戸塚西武」に写真館を構え、七五三や入学、成人といった記念の家族写真、就活や受験の証明写真などを手掛けている。
「ハレの日の記念でプロに撮影してほしいと来てくださるお客様は、今も変わらずいらっしゃいます。しかし、一般の方がこれだけ手軽に撮影ができる時代になり、わざわざお金を払って写真を撮るというニーズは明らかに減っている。だからこそ、この時代に写真館が果たすべき役割とは何か、自分たちの使命を考えながら模索を続けています」
そう語るのは、渡邉写真社代表取締役社長の渡邉真人。2013年に父の跡を継ぎ、祖父から数えて3代目だ。写真館という商売の形態や、プロのカメラマンが撮影するからこその技術力は守りながらも、従来の記念写真や証明写真だけにとらわれない新たなニーズを広げようとしている。たとえば、「遺影写真は自分でお気に入りを選んでおきたい」といったニーズがシニアに増えていることを踏まえ、『終活』の一環として『自分史フォト』サービスをスタート。人生の幕引きをポジティブに考え自ら進んで撮影にくる人が増えている。また、家族写真のニーズが変化していることにも目を付けた。子どもの成長を収めるだけでなく、「お母さんが元気なうちに家族で最高の一枚を撮っておきたい」と子が親を想う気持ちに応えた『絆フォト』も好評。こうしたサービスは、単にクオリティの高い写真を提供できることだけでなく、写真館で撮影をするという非日常的な体験によって感動を提供したいという想いが込められている。
「『きれいな写真』はあくまでも手段です。今、世の中の人が求めているのは、モノよりコト。写真そのものを追求するというよりも、写真館で撮影をすることをお客様の人生の1ページに刻まれるような感動体験にすることが、今後も写真館がお客様に必要とされるための道だと考えています」
渡邉のこの方針を象徴するのが、東戸塚西武ではじめた着物レンタル事業。撮影用としてだけでなく着物を着たまま外出可能なのが特徴だ。たとえば七五三や成人式当日に写真館へ行けば必要なものを一通り揃えられるうえに、着付けやヘアメイクもおこなえ、もちろん記念写真も撮影できるというワンストップサービスだ。着物をほとんど見かけなくなった現代において、着ようとすればあれこれと準備が必要。それが余計に人を着物から遠ざけているからこそ、渡邉写真社の新事業はまさしく体験の提供だと言える。
「私たちの理念は、『ご縁をいただいたすべての方々を写真で笑顔にする成幸(せいこう)請負職人』。どんなに良い写真を撮れたとしても、お客様が幸せになれなければ意味がありません。だからこそ、時代にあわせた付加価値を高めることが大切なんです」
1970年、横浜市で生まれた渡邉。祖父の代では東京日本橋で広告写真の撮影を手掛け、父は横浜の商店街で写真館を営んでいた。時は高度経済成長真っただ中。誰もが右肩上がりの成長が続くことを信じ、多くの家族が記念日には写真館に足を運んだ。この時代背景も追い風となり、父の写真館は事業規模を拡大。86年には、横浜そごうのテナントとして「横浜そごう写真館」を開室。『良いものをつくれば売れた』時代に少年期を過ごした渡邉は、「不自由なく趣味に没頭した子ども時代だった」と振り返る。
「近所のお兄さんの影響で、音楽とパソコンに熱中。小学6年生で競馬ゲームを自作するなど、 『オタク』な子どもでしたね。心配した母の言いつけで、中学時代は強制的に勉強漬けの毎日でしたが、高校で同じ趣味を持つ友人に出会いオタクが復活。家にも帰らず音楽やゲーム制作に明け暮れていました」
子どもの頃から好きなものには周囲の目も気にせず全力を注ぐタイプだった渡邉は、大学卒業後は趣味で得た知識を活かしてシステムエンジニアになるつもりだった。しかし、吹奏楽サークルやゲーム制作に没頭していたため、4年で卒業できず留年。半年後には卒業できたものの、留年が決まった時点でシステム会社からの内定も取り消しになっており、職もないのに実家暮らしで寝食の心配がない渡邉は、のらりくらりとした日々を過ごしていた。すると、見かねた父から究極の選択を突き付けられる。
「業を煮やした父から『仕事もせず遊んでいるやつの面倒をこれ以上見るつもりはない。うちの会社に入るか、家を出て行くか、どちらか選べ』と言われたんです。これこそ、私が写真を仕事にしたきっかけです。もちろん自分が写真屋の息子であることはわかっていましたが、父から言われるまでやりたいと思ったこともなければ、家業を継ごうなんてちっとも考えていませんでしたね」
こうして渋々はじめた写真館の仕事だったが、実際に手を動かすうちにその奥深さに引き込まれていく。渡邉が入社した1993年当時は、まだフィルム撮影の時代。渡邉写真社が使用していたフィルムは1枚250円で、現像すれば更に250円がかかるため、今のデジタルカメラのごとく無制限にシャッターを切る訳にはいかない。被写体となる人物の最高の表情を一発で切り取るのは、まさしくプロだからこそなせる業。さまざまな作業で職人的な技術力が求められることが、渡邉のオタク気質な性格にぴたりとハマった。
その一方で、アナログなやり方に固執し過ぎずいち早くデジタル化を進めたのも、渡邉が実行したこと。他社に先駆けて顧客管理システムを導入し、社内の事務作業を効率化。撮影にデジタル技術を導入できたのは、職人的な撮影技術とシステムの両面を熟知していたからこそだ。
「業界でも早期にデジタル化を進めたのは、人がやらなくても良い仕事に時間をかける無駄をやめたかったから。今振り返ってみると、『もっとお客様に向き合い感動体験をつくることに全力を注ぎたかった』のだと思います。また、趣味が功を奏して、高額な開発費用がかかるようなシステムを自作できたのも、デジタル化を後押ししましたね。あれだけ私の趣味を嫌がっていた母が『パソコン好きでよかった』なんて認めてくれたんですから、人生何が起きるかわからないものですね」
2013年に代表取締役社長に就任してからは、時代の変化に合わせた組織改革に舵を切り、ホテルウェディングフォト事業を売却して絆フォトのような新サービスにシフト。昭和から続いていたビジネスモデルや企業体質にメスを入れることは、痛みを伴う改革ではあったが、この経験が渡邉を経営者として成長させた。厳しいマーケット環境にあって、自社は何を大切にすべきかを考え抜き、前述の経営理念も掲げるようになる。
「経営理念にある『すべての方々』とは、お客様だけでなく渡邉写真社で働く社員のことも指しています。写真館では、カメラマン・ヘアメイク・着付けスタッフが働いていますが、『好き』を職業にした人が多く、その気持ちがあるために薄給に耐えて働きがち。でも、それでは社員自身や家族がちっとも幸せになれず、いつか心が折れてしまいます。企業は働く人の『好き』に甘えてはいけない。だからこそ、彼らの頑張りにきちんと報いてあげられるような事業収益を生み出すことは、経営者としての私の責任です。今はまだ決して十分とは言えませんが、こうした想いを社員と共有しながら、皆で実現を目指していきたいですね」
法人向けの広告写真から、個人向けの写真館へ。写真というモノから、撮影を通した感動体験へ。渡邉写真社がたどってきた歴史は、代を追うごとに進化してきた道のりでもある。ビジネスが変わり、経営のあり方が変わり、今まさにサービスの価値も変わろうと模索している最中。だからこそ渡邉はどんな変化にも柔軟なスタンスをとるが、その一方で伝統も大事にすることで、伝統と革新を融合させたいと考えている。
「先代の社長である父は、徹底した現場主義で技術を叩き込んでくれました。考えとの違いから衝突したことは何度もありますが、父が守ってきた技術があるからこそ、今の会社があるのも事実。新しいことにトライする気持ちは大いにありますが、だからといって古いものをすべて否定するのではなく、歴史は大切にしたいと思っています。いつか原点回帰の意味で路面店も開いてみたい。そこを渡邉写真社のブランドを象徴する旗艦店として、さまざまな新しい撮影体験をお客様に発信していき、これまでは写真館に足を運ばなかったようなお客様にも幸せを提供すること。それが今の目標です」
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高校時代は一年のうち三分の二は友人の家に泊まって音楽&ゲーム制作に熱中していたという渡邉さん。その友人とは今でも一緒に活動を続けており、作品は動画配信サイトで累計100万再生を超えているそう。自身にも『好き』を原動力に続けていることがあるからこそ、尚更に「社員の好きな気持ちに甘えてはいけない」「社員を幸せにしてこそ、真にお客様を幸せにできる」というお考えが強いのだと感じられるお話でした。
撮影/渡邉写真社
1970年横浜市出身。1993年に明治学院大学を卒業後、家業である渡邉写真社に入社。写真館運営に従事しながらカメラマンとしての腕を磨く。横浜そごう写真館店長を経て、2013年に父から経営を引き継ぐ形で代表取締役社長に就任。
インタビュー、編集:森田大理、西野愛菜/撮影:渡邉写真社
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