
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
株式会社秋葉牧場ホールディングス
常務取締役
西山 孝一 / Koichi Nishiyama
「秋葉牧場の要であり原点でもある酪農事業をベースに組織を進化させる。これが私のミッションです」
こう語るのは、2021年4月に株式会社秋葉牧場ホールディングスへ入社し、常務を務めている西山孝一だ。前職では、大手銀行に15年、株式会社オリエンタルランドに17年在籍し、社員のマネジメントや育成、管理職や子会社の社長といった豊かなキャリアを構築してきた。
一方で「まだプレーヤーとしてがむしゃらに働きたい」と物足りなさを感じていたため、自らの市場価値を確かめる意味でも、転職を決意。オファーを受けた数社のうちから、知見も経験もない酪農ビジネスを展開する秋葉牧場に決めた。西山はその理由をこう振り返る。
「秋葉社長がこだわっていたのは、派生事業の拡大でも新規事業の立ち上げでもなく、本業である酪農の強化でした。創業から135年経つ今なお、長年守り続けてきた酪農を活性化させたいという熱意があることに、心を打たれたのです。
また新型コロナウイルスの流行を機に、世の中全体が食品や食材に対して本質的な魅力や安全性の高さを求めるようになっていました。こうした価値観は、酪農を基盤とする良質な商品やサービスを作る秋葉牧場のコンセプトと一致する、世の中のニーズに応える仕事ができる、と確信しました」
常務として入社した西山がまず目にしたのは、課題だらけの組織体制。部署や個人の目標設定、経営方針やビジョンの社内共有、評価制度など、会社として当然あるべき仕組みが明瞭ではなく、ほころびが目立つ状態にあった。
秋葉社長は組織改革の必要性を感じながらも、長年のうちに定着した風土や文化をなかなか一新できずにいた。その苦悩を知った西山は、「内部の人だけで抜本的改革をすることは難しい」と痛感。大企業に身を置いた経験を活かし、秋葉牧場の組織改革の役目を担うことにした。
「改革は短期集中で」の言葉通り、西山はわずか数ヵ月で、社員一人ひとりの業務やチームの役割の棚卸し、組織構造の可視化、組織のブラッシュアップに取り組んだ。嬉しい誤算は、社員における若手の割合が大きいことだった。
「老舗企業だと、勤続40年といったベテラン社員がいて、組織再編がスムーズに進まないケースが少なくありません。でも秋葉牧場には、先入観や固定観念に染まっていない若手が大勢在籍しています。柔軟な考え方を持ち、会社を良い方向へ進めるためのチャレンジができる土壌があるということ。135年の歴史を持ちながらも、新しい組織を創造していけることは、当社の強みだと思っています」
秋葉牧場が運営する「成田ゆめ牧場」を「唯一無二の憩いの空間」と話す西山。アトラクションやアミューズメント施設といった人の手で造られたエンターテインメントはないが、働く人々や動物たちがまとう、優しさや自然の息吹にふわりと包まれている。
東京都心から車で1時間という利便性の良さも相まって、癒やしを求めて足を運ぶ人は年間30万人にも上る。西山はまた、千葉県を中心に展開する直営店で販売している乳製品の数々にも自信を見せる。すべては酪農に真摯に向き合ってきた結果だという。
「有名ホテルやパティスリーなどから注目を集める自社商品の販売をはじめ、観光も製造も、すべては酪農事業があってこそ成り立つもの。入社前に聞いた秋葉社長のこだわりを、身をもって感じています。
組織として収益や認知度の向上を目指すのは当然ですが、それ以前に、私たちが大切にしているアイデンティティーに共感してくださる方と一緒に会社を動かしていきたいです。経験や業界知識の有無にとらわれず、さまざまな技術を駆使しながら秋葉牧場の魅力を伸ばしていける新戦力と巡り合えたら、この上なくうれしいですね」
現在は組織改革に尽力している西山。その目は未来を見据えている。成田ゆめ牧場は小さな子ども連れのファミリーがメインの客層だが、より幅広い年代が気持ちよく楽しめるよう、老朽化した牛舎の建て替えや、動物と共生する意義を伝えるコンテンツ制作にも取り組む予定だ。
「秋葉牧場には、“本物”しかありません。本物の自然があり、動物たちと本物の触れ合いができ、無添加でおいしい乳製品を味わえる。新しい人たちや新しい考え方を積極的に採用し、組織も事業も常にアップデートする必要はありますが、核である酪農による本物の空間や製品を届ける企業であることに変わりはありません。『長時間いたい』『また来たい』と、世代を問わず一人でも多くの方に思っていただける場を提供し続けることが、今の目標です」
2022年には135年目を迎える秋葉牧場。西山をはじめとした改革者たちが新しい風を吹き込み、さらなる進化を続けていくことだろう。
公開日:2022年3月7日
インタビュー・執筆:堤真友子/編集:室井佳子
撮影:新見和美
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