
地域に密着した事業運営ながら
日本一の実績も樹立!
お客様目線のサービス展開と、
スタッフへの“家族愛”で、
人の魅力を育てることにこだわる
兵庫県宝塚市。ここに、東京や大阪の都市部にも負けない大記録を打ち立てた店がある。「宝塚ひまわりサービスステーション」。ガソリンスタンドとして、1店舗あたりの車検の年間実施台数が全国1位(年1,009台/2020年実績)。全国大手チェーンのようなネームバリューがある訳ではない。店の概要だけを聞けば、どの街のロードサイドでも見かけるような個人経営のサービスステーション。そんな店を日本一に押し上げたのが、有限会社目見田商事、代表の目見田純也だ。神戸市北区にある整備工場「車検のコバック」とあわせて2店舗を運営する目見田は、自社の商品を「車ではなく人」だと語る。
「車検を軸に新車販売、鈑金塗装、一般整備、レンタカーなど車にかかわるサービス全般をおこなっていますが、お客様から選ばれているのは、『あなたから買いたい、あなたに相談したい』と“人”に期待していただいてのことだと感じます。だからこそ、当社の本質的な事業内容は“人づくり”。社員が仕事を通じて人として成長し、幸せを掴むこと。人間力を育むことで、結果的に多くのお客様にご信頼いただいているのだと思います」
目見田の人に対する熱意は、社員だけではなく事業戦略にも表れている。いたずらに店舗を拡大して顧客を増やすのではなく、商圏を自店から半径2㎞以内に絞って地域の人たちに徹底的に向き合うこと。車に関することならなんでも解決できるという姿勢が、日本一の車検台数を実現させているのだ。
「もし車に何かが起きたとき、一般的なロードサービスではコールセンターに電話をしてスタッフが到着するまでに1~2時間かかることもありますし、飛び込みの依頼を受け付けない自動車ディーラーもあります。でも、お客様の立場に立って考えると、一刻でも早く解決したいのは当然の気持ち。困ったときに誰よりも早く駆け付けられる存在であるためにも、敢えて商圏を絞っているんです」
はっきりとした正解がない選択を迫られたときは、「相手が家族や親友だったらどうするか」と考えるのが目見田の判断基準。「人の役に立ちたい」が原動力だという。だからこそ、社員とも上司部下の関係を越えたオープンな人付き合いを心がけている。やりがいや誇りを持って働いてほしいと日々熱心に伝えており、人情に厚く義理堅い性格からか、社員は目見田のことを社長ではなく“大将”と呼ぶ。偉ぶらない。自分の格好悪いところも隠さない。でも、社員のことは全力で守る。それが目見田の信念だ。
「当社が掲げる企業理念は、『全社員が自らの行動で誇りを持った幸せな人生を実現する』。それを実現するためのビジョンは『全社員が働くことを通じて人間力を向上し、地域社会の人々に貢献することでなくてはならない企業となる。そしてより良い社会を次世代に繋げていく』。車が商売なのに“車”の文字は一切入っていません。実は私、昔から車には興味がないんですよ(笑)。最大の関心事はスタッフの人生。縁があって同じ時間を共にしている仲間ですから、彼らの人生がより良いものになってほしいんです」
目見田が宝塚にやってきたのは2003年のこと。大学卒業後も就職はせずに、東京でカフェのアルバイトをしながら漫然と暮らしていたが、29歳の時に奈良・京都でガソリンスタンドを経営する父から関西に呼び戻され、兵庫県宝塚市にオープンする新店を任されたのがすべてのはじまりだ。父は経験がない息子に一切の容赦をしなかった。オープンの段取りとガソリンの仕入れ以外は手も口も出さず、相談しても「自分で考えろ」と突き放す。悔しくてがむしゃらに働いた。すると、地域の他店よりもガソリンの販売価格が安かったこともあり、給油待ちの大行列ができる店に。しかし今の目見田からすれば、当時は“ただ安いだけの店”。お客様や取引業者とのトラブルも絶えず、このままでは上手くいかないと確信する。
「父には安くガソリンを仕入れる才覚がありましたが、車の燃費は年々向上していますから、ただガソリンを売るだけでは消費量の減少にあわせて売上が減っていく未来は見えています。父のやり方を踏襲するのではなく、自分ならではのやり方で商売を成功させる必要がある。父を見返したかった気持ちもありました」
そこで目見田が取り入れたのは、カフェアルバイト時代に養った、お得意様の好みを把握して先回りをする発想。飲食店や美容室であれば、こうした取り組みは当たり前のようにおこなわれているが、飛び込みで来店するのが当たり前のガソリンスタンドで、すべてのスタッフが常連客の好みを把握するのは容易なことではない。そのため、目見田は新たに洗車サービスをはじめる際に、顧客管理システムを導入した。洗車がお得になる回数券を販売し、回数券にはシリアルナンバーを付与。回数券の番号をシステムに照会すれば、これまでの対応履歴(顧客の好みや特徴)が分かるという仕組みだ。
「急に来店しても、前回対応した店員がいなくても、自分のことを分かってくれているし、いつも気持ちの良い対応をしてくれる。そんな風にお客様から喜んでいただき、洗車チケットは大好評。常連のお客様がどんどん増えていきました。すると、次第に『ここで車検も出来る?』『鈑金はできない?』『カーナビは売ってない?』と新たな要望がではじめたんです」
お客様から頼られることは嬉しかったものの、当時のサービスでは洗車とオイル交換、タイヤ交換で精一杯。しばらくは引き受けられない旨を伝えていたが、車検の相談は増え続け、要望に応えられないことが悔しくてたまらない。そうして、ついに「分かりました、やります」と口にしてしまったことが、後の日本一に繋がるのだ。
「できるかどうか、よりもやりたいかどうかが大切だと思うんですよ。宣言してしまったからには、実現のために努力できるし頑張れる。2020年の車検台数日本一も、4年前から経営計画に掲げてきたこと。はじめた時点では無茶だと思えることでも、本気でかなえたいと言い続けることが大事で、あとから実力はついてくるものだと信じています」
車検をはじめてからは、自動車保険、鈑金塗装、新車販売…とサービスの幅を続々と広げ、地域のお客様の様々な相談に応えられるようになっていく。また、目見田は車好きではないからこそ、難しい車の用語を使わない“シロウト目線”の接客・商談も人気のひとつに。業界でも注目され、取材を受けることも増えていった。ところが、自身はお店の成功とは裏腹に長年後ろめたさを抱えていたという。
「2010年に父が奈良と京都の店を閉めて引退。私が代表になったのですが、表向きは成功して見えても、経理を会社の役員だった親族に任せっきりで実際の経営は火の車でした。自分は社員の頑張りに見合うような休みやボーナスを出せてないのに、でたらめなマネジメントで厳しく当たってしまうこともあり、経営者として未熟だったんです」
そこで目見田はイチから経営を学び直すとともに、“脱家族経営”を指向していく。社員にはこれまでの経営スタイルを謝罪し、無駄を省いて質を高める財務改革を断行。他の家族には経営から手を引いてもらい、会社で利益を出した分は賞与として社員に還元。生産性を高めた分は営業時間の短縮・年間休日の拡大と働きやすさを追求した。
「はじめは社員も半身半疑だったかもしれません。しかし、私の行動をみるうち、徐々に本気で変わろうとしていると信じてくれるように。そこからは、『仕事を通じて人間力を高める』という理念・ビジョンを伝え続けてみんなで想いを一つにしていきました」
目見田は、自社の雰囲気について家族主義的だと語る。それは、目見田商事が家族経営から今のスタイルに移行していった歴史を踏まえると、血のつながり以上の仲間同士の強い絆が、この会社では育まれているということだろう。
「うちには入社時点で飛びぬけて優秀な人はいません。“ふつうの人”が集まったチーム。でも、だからといって“誰でもいい”仕事をしている訳ではありません。一人ひとりの個性を尊重して最大の力を発揮できる役割を任せるからこそ全力で頑張れる。その信頼関係こそ家族の証であり、相手からの期待に応えたいと一生懸命に取り組める環境のなかでこそ、人は大きく成長していくものです」
2022年には宝塚市内に新車ディーラーを出店する計画。ここでは車のみならず、異業種と手を組んだサービス提供や地域の人に向けたイベントも開催予定。今後も様々な挑戦は続くが、目見田はこうしたチャレンジもすべて、社員の成長を見据えたものだという。
「私が目指すのは、社員が自分の家族に憧れられる姿。『働いているお父さんってカッコいい』『将来はお母さんみたいな人になりたい』なんて言われたら最高。そのために仕事を通じて輝けるような成長機会をたくさん提供することが、私の役割だと思っています」
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「満足ではなく幸福」が大切だという目見田さん。その心は、数値的に満たされる “満足”ではすぐ現状に飽きて「もっともっと」と終わりがないけれど、数に表せない“幸福”は他人や環境に左右されずにいられるそう。日本一を目指したときも、社員の皆さんには「順位が大事なのではなく、一位になる過程で力をつけることが大切」だと伝えつづけたそうで、地域密着の事業戦略から人生の価値観まで、首尾一貫しているのが印象的でした。
1974年愛媛県出身。高校・大学時代は関西で過ごし、卒業後は東京へ。29歳の時に、父が兵庫県宝塚市にガソリンスタンドをオープンさせたことをきっかけに目見田商事に入社。店舗運営を任される。2010年、代表取締役に就任。
Contact
〒665-0051
兵庫県宝塚市高司2-16-15
https://himawari-ss.com/
インタビュー・執筆:森田 大理/編集:垣畑 光哉
撮影:正畑 綾子
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