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「できない理由を並べてはなりませぬ」住民起点のDXで行政や地域社会を再デザイン

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星野リゾートから磐梯町長に、町民本位で自治体DXの最先端に挑む磐梯町

佐藤 淳一 / Junichi Sato
福島県磐梯町
町長

破綻した「アルツ磐梯」を再生し、星野リゾートから磐梯町長へ

「行政とは、住民が生まれてから死ぬまでの人生フルサービス産業です」

2019年6月から磐梯町町長を務める佐藤淳一は、こう言い切る。磐梯町は全国の自治体に先駆けて、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による行政サービスの変革を進めている。同年11月に自治体初のCDO(最高デジタル責任者)を設置し、2020年7月にはデジタル変革戦略室を創設。住民起点で行政や地域社会のあり方を再構築するために、デジタル「も」活用した斬新な取り組みが注目を集めている。

「磐梯町は、明治時代に磐梯山のふもとにある、複数の宿場町や村が合併して誕生しました。大正時代には、猪苗代湖周辺に東洋一の規模といわれる水力発電所が建設され、首都圏への電力供給を支えてきました。昭和30年代に約8,000人だった磐梯町の人口は、現在は約3,300人にまで減っています。主要産業は製造業やサービス業で、福島県内で一人当たりの市町村民所得が2番目に多い自治体です。レンズメーカーのシグマ、星野リゾート、日曹金属化学の3つの企業が地元の雇用や産業の柱になっていますね。町外からの通勤者も多く、昼間の人口が夜間の人口より約1,000人多いことも特徴です」

磐梯町生まれの佐藤は、日本大学工学部を卒業後、東京で就職。「長男だから戻ってこい」という父親の言葉がきっかけで磐梯リゾート開発に入社した。当時はバブル景気の全盛期。リゾート法(総合保養地域整備法/1987年制定)による規制緩和が進み、日本各地でゴルフ場やスキー場など大規模リゾートの開発が相次いでいた。磐梯町にも1992年に「アルツ磐梯スキー場」が開業したが、経営を担っていた磐梯リゾート開発は、バブル崩壊後に多額の負債を抱えて破綻。佐藤は民事再生の担当者として、弁護士と債務整理やスポンサー探しに奔走した。

その後、磐梯リゾート開発は星野リゾートの傘下で事業再生に挑むことに。佐藤は星野リゾート東京営業所長を経て、2010年にアルツ磐梯(星野リゾート アルツ磐梯)の取締役総支配人としてふるさとに戻ってきた。しかし再スタートの矢先、2011年3月に東日本大震災が発生する。

同年12月にスキー場を再開できたが客足は戻らず、原発事故による風評被害との闘いが待っていた。たび重なるピンチに遭遇しながらも、佐藤は新たな一手泊を打ち続けることを諦めなかった。磐梯町議会議員を兼任しながらインバウンド誘致に舵を切り、独自のパッケージツアー商品を企画・直販。3年目には宿泊5,000泊を達成した。

一方で、この時議員にできることの限界を感じたのが、町長選に挑む動機になったと振り返る。

「福島の復興のために、自分にできることは何か?ふるさとをどう魅力づけるのか? 磐梯町全体の底上げを考えた時、それらを実行できるポジションは町長しかないと思ったのです」

DXを進める磐梯町。誰一人を取り残すことなく、町民が幸せに暮らせるように

2019年6月、佐藤は磐梯町町長に初当選。町長になり役場へ登庁して、その現状に驚いたという。

「役場の組織が旧態依然なんです。星野リゾートとは真逆で、既成概念にとらわれている。職員はできない理由ばかりを並べる。このままでは、町民のために何もできないと思いました。社会の変化が加速する中で、行政サービスや地域社会のあり方が問われています。少子高齢化や地域経済の低迷など、さまざまな課題を抱える中で、磐梯町が生き残っていくためには、これまで先送りにされていた行政の構造的な問題を洗い出し、デジタル技術による大胆な変革を進める必要がありました」

磐梯町は「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」というビジョンと、「誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創」というミッションを掲げている(「磐梯町総合計画」2020年3月策定)。デジタル技術はこれらを実現するための手段であり、根底にあるのは、誰一人取り残すことなく、町民がこの町で幸せに暮らせることにある。

「自分が住んでいる場所や、祖先が培ってきた文化や歴史を誇りに思うことが大切です。子どもや孫たちがここに住まなかったら、町はなくなりますから」と佐藤は語る。

磐梯町ではデジタル変革について、「自治体や町民がデジタル技術も活用して、町民本位の行政、地域、社会等を再デザインするプロセス」と定義している。デジタル技術の活用(Dx)ではなく、変革(dX)に焦点をあてているのだ。

2019年11月、磐梯町は地方自治体初の「CDO」を設置し、菅原直敏氏(一般社団法人Publitech代表理事)が就任した。佐藤と菅原氏との出会いは、町長就任前の同年1月。あるイベントで隣の席に座った2人はデジタル技術の話題で意気投合。「DXはあくまでも手段であり、自分たちの考える町の将来像を達成するためにどう使うかが大事だ」と語る菅原氏の考え方に共感した佐藤は、その頃からDXで磐梯町を変えたいと考えていたという。

「2020年7月には「デジタル変革戦略室」が、3年間の時限組織として創設されました。副町長の直轄なので縦割りに縛られることがなく、各課を横断して巻き込める仕組みになっています。新たな発想を柔軟に取り入れるために、12名中8名は外部人材を起用、地域おこし協力隊や地域活性化起業人などが参画しています。DXに関する審議会のメンバーも外部人材から構成されていまして、デジタル庁職員や会津大学教授、弁護士、地元IT企業経営者など、多様な顔ぶれが揃っています」

さらに、DXを推進する羅針盤となる「磐梯町デジタル変革戦略」を策定。役場のインフラやシステムの整備、条例や規則の見直し、業務プロセスの洗い出しやICT化など、デジタル変革の推進に必要な前提条件の整備から着手した。また、チャットツール導入や、職員や住民、議会に対する説明や啓蒙、議会のDXにも取り組む。地方自治体の議会で初めてオンラインを活用したのが磐梯町で、NHKの全国ニュースでも放送された。

2021年に「脱デジタル宣言」、行政のあり方をデザインで再定義

2021年7月、磐梯町は「脱デジタル宣言」を掲げた。コロナ禍でDXが一気に進んだ追い風もあり、磐梯町ではデジタルという言葉が当たり前になっていた。同年9月、デジタル庁が創設されたが、磐梯町はさらに先を見据えて「デジタルからデザイン」に発想を切り変えたのだ。「デジタルは手段であり、目的ではない」という考え方がここでも貫かれている。

「脱デジタル宣言」では、磐梯町のあらゆる事象を「役場本位」から「町民本位」「職員本位」に再構築するために、「デザイン」をDX推進の重要な要素として位置付けている。

「これまで行政は、トップダウンですべて進めてきました。だから、行政サービスは分かりづらく、使い勝手が悪かった。そうではなく、住民起点ですべてを考え、住民の要望に合わせてサービスを変えていく。それをどうデザインしていくか。行政とは、生まれてから死ぬまでのフルサービス産業です。住民起点で考え、町民を幸せにするためには、役場職員全体の意識改革が重要です」

町民からは「高齢者はデジタルを使えないのに、なぜDXを推進するのか」という声も挙がる。しかし、佐藤はこう考える。

「デジタルを使える人がデジタルを使えばいいのです。住民は誰もが役場に行きたいわけではない。もし町民の7割が自分のスマホで証明書の発行や申請などの手続きを完結できれば、デジタルが使えない残りの3割の人に手厚いサービスができます」

町民全員に対してDXを一斉に進めると、必ずこぼれ落ちる人が出る。しかし、アナログとデジタルを併用すれば、より良いカタチで住民に必要なサービスが提供できる。行政サービスのデザインを再構築することで、将来的には住民が自分でカスタマイズできる仕組みを作りたいと佐藤は考えている。

磐梯町は対外的な広報と、内部(職員&町民)への情報発信の両方に力を注ぐ。全職員が広報マンになるための広報研修やマニュアルもある。「住民に分からないサービスは、やっていないのと同じ」と、佐藤は職員に伝えている。また、職員間の情報格差をなくすために、毎週自らブログを書いて職員に情報共有しているという。

「既成概念の塊をいかに打破していくか。行政職員は『できません』と言うけれど、できないわけではない。行政職員の場合、失敗したら周りに批判されるし、うまくいっても給料も何も変わらない。余計なことはしない方がマシだと消極的になりがちです。頑張った成果が認められる仕組みを作ることが大切です」

「関係人口」よりも、「愛着人口」育みた

「今後は管理職を含めて民間の人材を行政に受け入れ、行政職員が企業に出向することで双方の交流を増やし、官民共創や行政を変えていく仕組みをつくっていきたい。アウトソーシングできるものは外部に任せて、行政はスリム化すべきだと考えています」

磐梯町の税収が6億円なのに対し、年間予算は45億円。地方交付税交付金や、国からの補助金、ふるさと納税などで歳入をまかなっているが、いつまでも国に依存し続けるわけにはいかない。「磐梯町として、自分たちでお金を稼ぐ仕組みをつくらなければならない。官民連携によって新たな産業や価値を創出し、町全体を活性化させたい」と佐藤は話す。

2021年6月には「一般社団法人ばんだい振興公社」を設立した。ふるさと納税の業務のほか、起業支援や商品開発、観光事業なども視野に入れる。公社で得た収益は、すべて地元に還元。地域経済の活性化や、「愛着人口」を増やすことを目指す。愛着人口とは佐藤の造語だ。

「磐梯町への来訪などの有無や町民であるかを問わず、磐梯町に対して好意を持ったり、温もりを感じたり、愛しんだりといった気持ちを持つ人を『愛着人口』と定義しています。『関係人口』よりも、さらに家族に近いつながり、磐梯町が好きで、磐梯町のことを気にかけてくれる、そんな人たちを増やしていきたいですね。最終的には、自分たちの子どもや孫たちが住み続けたい魅力ある町になることが目標です。外から関わる人にも、磐梯町はいいね、住んでみたいね、と言われる町にしていきたい。磐梯町に関わる人を生み出し、地域の人々と第2のふるさとのような結びつきをどう深めていくか。それが、愛着人口のカギになると思います」

公開日:2022年12月23日

Profile

1961年9月、福島県磐梯町生まれ。地元小中学校、会津工業高校、日本大学工学部を卒業。1989年にアルツ磐梯(現・星野リゾートアルツ磐梯)に入社、星野リゾート東京営業所長、アルツ磐梯取締役総支配人を経て、2015年に磐梯町議会議員、2019年6月に磐梯町長に就任、現在1期目。
2020年7月に「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」というビジョンを実現するためデジタル変革に着手、町民本位の行政・地域・社会の実現を主目的とするデジタル変革で新たな行政経営のモデルを推進している。

Contact
福島県耶麻郡磐梯町大字磐梯字中ノ橋1855

Credit

インタビュー:垣畑光哉/執筆:高崎美智子/編集:勝木友紀子

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