
「楽しく働く」をモットーに最速で支店長へ。直感を信じ、女性のキャリアモデルを体現。
アジアクエスト株式会社
代表取締役
桃井 純 / Jun Momoi
私は元々海外旅行が好きで、世界中を訪ね歩いてきたこともあって、若い頃から海外に対する思いを強く抱いていました。
IT関連の仕事に就いていたことから、憧れの地は、やはりアメリカのシリコンバレー。結果的に、諸事情により断念せざるを得ませんでしたが、現地でのビジネスがもう少しでまとまりそうなところまでいったこともあります。
しかし、あとになって考えてみると、日本人がシリコンバレーで勝負するのは、やはり厳しいという判断に至りました。アメリカは技術力の点で最先端であるうえ、交渉に必要なコミュニケーションについても、ネイティブイングリッシュは私たち日本人にとって大きなハンディキャップとなります。
そこで私は、進出先をアメリカからアジアに変更することにしました。アジアであれば日本企業はアドバンテージを発揮できるし、何といっても今後急成長が期待できる魅力的なマーケットが存在します。このまま日本に留まり続けても未来はないという危機感も、私を後押しすることになりました。
アジアでの事業展開を前に、2012年4月にはウェブシステム開発会社「アジアクエスト」を東京で設立。そして9月にはインドネシアのジャカルタに現地法人「PT. AQ Business Consulting Indonesia」を設立し、さらに10月には現地のシステム開発会社にも出資を行い、私たちのグループに仲間入りしてもらいました。
アジアの中で最初にインドネシアを選んだのは、その市場規模の大きさに可能性を感じたからにほかなりません。約2億4000万人という世界第4位の人口と日本の5倍もある国土面積を誇り、GDP6%成長を継続。しかも、15〜64歳の生産年齢人口がそれ以外の2倍以上を占める、いわゆる「人口ボーナス期」が、この先30年続きます。働き盛りの世代が多ければ、それだけ経済活動や消費が活発になるのは道理ですね。
実際にインドネシアは、街中が活気に満ちあふれています。中間層の所得が伸びているため購買力が旺盛で、多くの人が白物家電や自動車をローンでどんどん買っていきます。自分たちのビジネスを、この国の可能性に賭けない手はないと思います。
当社は現在、ここインドネシアで、現地に進出している日系企業向けの業務システムやウェブシステムの開発、ウェブサイト制作や運営などのサービスを中心に事業を行っています。社員数はアジアクエストの現地法人である「AsiaQuest Indonesia」が15人程度、出資している現地のシステム開発会社が50人程度となっています。
日本でも同様のサービスを手がけていますが、インドネシアと日本とでいちばん違うのは、競合の数が圧倒的に少ないということです。同業他社が何百、何千とある日本で、差別化を図るのはものすごく大変なことです。一方インドネシアには、1400社近くの日系企業が進出していますが、彼らにITサポートを行う現地の日系ベンチャー企業はまだ数社しかありません。当社は「インドネシアでナンバーワンの日系ITサービス会社になる」という目標を掲げていますが、進出してから1年半でトップを狙える位置にいるということもできるわけです。
こうした状況はIT業界に限りません。日本国内ではどの分野にも多くの競合がいて、新規参入するにはニッチを狙っていくほかありません。けれどもインドネシアの場合、マーケットがこれから形成されていく過程にあるため、マス市場でさえ、まだほとんど誰も参入していない状態です。つまり、今後インドネシアでトップシェアを取りに行くのなら、マーケットが形成される前に進出し、機会を待つことが大切になると思います。
日系企業からの受託制作のほかに、私たちがもう一つの柱にしたいと思っているのが、現地の消費者向けEコマースサイトを始めとしたインターネットサービスの構築です。現在のところ、まだインドネシアではEコマースの市場は形成前の段階ですが、既にたくさんの人がスマートフォンやパソコンを所有していることから、必ず波が来るはずです。そこで私たちは現地にいち早く入り、市場の基盤作りを行うとともに、大きな波が来たときに一気呵成に動ける態勢をとろうとしているわけです。
現在の主力業務となっている日系企業からの受託制作については、戦略的には重要な仕事である半面、難しい面もあります。というのも、日系企業の多くは「インドネシアであれば、制作費は安く抑えることができるもの」として、発注してくださっています。一方で、インドネシアでもIT関係のエンジニアの人件費は近年どんどん上昇傾向にあり、薄利多売にならざるを得ない場合があります。
それでも私たちがインドネシアに拠点を置いて事業を継続させているのは、インターネットの波が来たときに、その波をつかまえるためです。そのときまで、いかに辛抱強く地道に体力をつけておくかが勝負といえるかもしれません。日本の会社がアジアで収益をあげていくためには、日本と同じ単価で価格設定ができ、かつ現地スタッフの活用によって人件費を抑えられるビジネスモデルの構築がいちばんのポイントとなります。
これを、今まさに実現しているのが飲食業ですね。例えば、東南アジアに進出している日本のラーメン店の場合、ラーメン1杯の値段は日本と同じ、もしくは少し高いくらいでありながら、従業員は現地スタッフなのですから、それは高い利益率を維持できます。あとは、現地への定着をいかに図り、一過性の流行で終わらせないかが課題ではあります。私たちが行っているITの分野でも、こうしたビジネスモデルを再現できないかと思案しています。
インドネシアで事業を行っていると、日本ではあり得ない、理不尽な苦労を強いられることがたくさんあります。
まず、首都のジャカルタは、渋滞が世界一ひどいうえ、大雨が降ればすぐに洪水となるため、しばしば行動範囲が限定されます。役所では手続きが遅いうえに、わけのわからないお金がかかり、内部では賄賂も横行しています。
さらに、ネガティブリストと呼ばれる、外資の参入が完全に禁止されている業種が数多くリスト化されたものがあり、外資比率や地域が規制されたり、特別許可が必要な業種などもあります。けっして外資に門戸が開かれているとはいえない状況なのです。労働組合による賃上げ要求もすごいですね。2015年には規制緩和が行われるという話も耳にしますが、どうなることか……。こればかりは、今後の成り行きを見守るしかありません。
あらゆることが混沌としていて、世の中全体が過渡期にあるような状態は、もしかしたら日本の60年代に近いのかもしれません。そこにポテンシャルを感じます。
今のインドネシアが混沌としているのは、国や人びとの成長スピードに古いシステムやインフラが追いつかず、そこに矛盾が生じているからです。逆にいえば、それだけエネルギーがあふれているということです。現地の人たちを見ていると、前向きでチャレンジ精神が旺盛で、何かと守りに入りがちな今どきの日本人とはマインドが正反対です。いずれシステムやインフラさえ整っていけば、インドネシアはとんでもない成長を遂げることになるような予感がします。そう思えばこそ私も「大変だけど、頑張ろう」という気持ちになれるのです。
日本の若い人の中には、「これからの時代は海外に出ないとやっていけない」という危機感を持ちながら、知らない世界へ一歩を踏み出すことへの不安感から、何もできずに立ち止まっている人も多いと思います。でも、ひと足先に一歩を踏み出した人間から言わせてもらうと、まずは飛び込んでみればいいんです。東南アジアは成長スピードに比べて人材が圧倒的に不足していますから、飛び込んでみれば必ず何らかのポジションが得られます。もし一人で飛び込むのが怖いのなら、それこそ当社のような海外展開を積極的に進めようとしているベンチャー企業に転職する手もあります。
現在アジアクエストでは、東京の本社も含めて全社的に5年後には英語を社内公用語にする計画を立てていて、社員の英語教育に力を注いでいます。また東京の本社に勤めている従業員の中でも、海外事業に興味を抱いている人は積極的に海外出張させ、また海外に関連する業務を与えています。今後20年を視野に入れると、事業の中心が海外に移っていくことは確実だからです。
とにかく、若い人には「海外に出てみよう」と言いたいですね。1回出てみれば案ずるほどのものではなかったことに気づきますし、自分を取り巻く状況も変わってきます。
私と同じ経営者の勉強会で、ともに英会話を習っていたこともある桃井代表。高度成長期の日本が持っていたであろう、現在のインドネシアの熱気を日々体感しているからでしょう。苦労を苦労とも感じさせない語り口は、頼もしくもあると同時に羨ましさを覚えました。現地のEコマースに火が付いたあとの動静が本当に楽しみで、目が離せません。
1970年東京都生まれ。
1999年イズ株式会社設立(2012年まで代表取締役)。2012年アジアクエスト株式会社設立。東京とジャカルタで、システム構築、サービス開発を行う。インドネシアを第一弾として、東南アジア諸国にグループ会社を順次設立予定。成長するアジアのIT市場を狙っていくとともに、アジアに進出する日本企業にとってのベストITパートナーを目指す。
「楽しく働く」をモットーに最速で支店長へ。直感を信じ、女性のキャリアモデルを体現。
「人」「食」「社会貢献」を起点にビジネス総合力を身に付け、即戦力として活躍
BtoB特化のマーケティングと営業DXという希少価値の高い領域で 企画から実装まで手掛けるプロ集団
文化とコミュニケーションの発信を通して、心が豊かになる時間を生み出す
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