
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
関わるすべての方々に、「身内」と思っていただける存在でありたい
松井 英之 / Hideyuki Matsui
株式会社リレイティブ
代表取締役
求人広告や人材紹介、採用コンサルティングといったヒューマンリソース領域のサービスを展開し、企業が抱える人材・採用における課題を解決に導く、株式会社リレイティブ。富山県で設立し、現在は東京にもオフィスを構える。北陸と関東を中心に、北は北海道、南は九州まで、全国に顧客を持つ。
例えば求人広告に関しては、さまざまな求人媒体の中から各顧客のニーズに合ったものを選定し、求人広告原稿の制作、出稿・運用までをワンストップで提供する。大手求人媒体Indeedの認定パートナーでもあり、代表取締役の松井英之は、「求人業界では最先端のサービスを提供できている会社」と自負する。
「求人広告の真の目的は、『採用すること』です。私たちのミッションは、広告を掲載することが目的なのではなく、採用を目的とした提案をすることにあります。手段と目的を履き違えて、求人広告の枠を取るための営業活動にならないよう肝に銘じています」
掲載した広告を確実に採用につなげるために、同社では顧客へのヒアリングの際、その求人が現実的かどうかをシビアに見極めている。例えば、顧客から求める人物像に対して、かけ離れた条件で提示があったとしても、市況や相場感を踏まえて顧客と一緒に求める人物像から応募が来るような内容を考え、的確な広告を制作する。顧客である企業には、従業員が仕事を通して輝き続けられる環境を作ってほしいし、求職者には自分が輝ける職場に就職してほしいと心から望んでいる。
求人広告を制作しリリースするだけでなく、顧客の採用を成功に導くための提案とともに、働く人が輝ける職場作りを提言するリレイティブ。その根底には、同社の企業理念である「Stay Gold」がある。「輝き続ける」を意味する「Stay Gold」は、松井が好きなHi-STANDARDというバンドの曲名から引用した。
「一日のうちで長い時間を占める仕事。その時間が輝かなければ、プライベートでも輝けない。だから、仕事を通して輝き続ける人を増やすことが、私の信念なのです」
松井がそう考えるようになった背景には、リレイティブを起業するまでに渡り歩いた2社での経験がある。
1社目は、新卒で入社した投資用マンションを扱う不動産会社だ。電話でのアポイントメントが取れなければ深夜までの残業は当たり前。怒声が飛び交う、いわゆるブラック企業だった。2〜3年は踏ん張っていたが、耐えきれず退職を決意した。
「この時、別の部署の課長が引き留めてくれました。憧れていた人で、『辞めたらもったいない』『辞め癖がつくぞ』と言われたのですが、結局私は辞めてしまいました。当時、その人は34歳。『辞め癖がつくぞ』の一言が心に引っかかっていたので、次に就職する会社では33歳までは辞めず、34歳になったら起業しようと決意しました」
会社があった東京から故郷の富山に戻り、就職したのが、東京に本社を置く人材業界大手の上場企業だった。
松井はそこで、さまざまな経験を積み、いつしか管理職のポストに就いた。気が付くと自分を採用してくれた人が部下になっていたり、父親くらいの年齢の人たちが自分に敬語を使うようになっていたりした。
「20代の若造に従わなければならないなんて、この人たちは本望なのだろうか。仕事人生の分岐点で、楽な道を選んできた結果なのだろうか。『自分はそうはなりたくない』。そう思った時、『どんなにつらくても、自分は挑戦する道を選んでいこう!』と強く決意しました」
そして、目標に掲げていた34歳になったタイミングで、松井は独立を決意して人材会社を退職。どんな事業をするかも決めずに退職したため、まずは稼げるようにと、やりたいことよりもやれることをしようと考えた。そこで前職で取り組んできた求人広告の販売を事業にし、あらゆる求人媒体社に電話をかけ、代理店をやらせてもらえないかと願い出たのだ。こうして、リレイティブが誕生する。松井のもとには前職から付き合いのあった顧客から採用支援の依頼が舞い込むようになり、無計画な中、なんとか事業をスタートすることができた。
リクルートやパーソルなど大規模企業の競合が多い人材業界にあって、リレイティブは毎年増収増益、右肩上がりの成長を続けている。コロナ禍で求人業界が冷え込んだ時には、一時売上が半分以下に落ち込んだが、変わらず声をかけ続けてくれた顧客が多く、業績は2倍近くまで回復した。そこから採用を積極的に行い、スタッフも順調に増えている。
コロナ禍を経験しても、なぜ売上を伸ばすことができたのか。松井は、スタッフが企業理念に基づいて顧客と接し、信頼関係を築いている結果ではないかと分析する。
「仕事を通して輝き続ける人を増やすためには、スタッフ一人ひとりが『Stay Gold』していなければならない」
松井は企業理念を浸透させるため、採用面接やミーティングなどの場で折に触れて、企業理念の意味を伝えている。スタッフがStay Goldな状態でいられるように、評価制度の設計にも力を入れる。一例としては、営業職の給与体系の見える化。どういった営業成績であればどの程度の給与になるのかなど、評価の基準を明確に定めている。
「不動産会社に勤めていた影響だと思いますが、『頑張っている人は正当に評価されるべきだ』と考えています。インセンティブは高く設定していますし、会社の売上はできるだけその社員に還元したいと思っています。『頑張っているのに報われない』状態をなくしたいのです」
仕事を通して輝き続ける人を増やすためには、それに適した職場を用意しなくてはならない。そのため、顧客企業の職場作りに対しても目を向けている。顧客にはそこで働く人たちが輝き続けられる職場環境を作ってほしいからだ。
「例えば広告の打ち合わせをする場合、『こういう職場にした方が、良い人材を採用できますよ』『こういう方針を打ち出しているのであれば、この部分を改善していきましょう』など、具体的に改善の提案をしていきます。求職者に対しては、『あなたのやりたいことを叶えるためには、この会社がぴったりですよ』と自信を持って紹介します」
リレイティブとしての姿勢を企業理念「Stay Gold」で示す一方、企業としてのあり方は、社名の「リレイティブ」に想いを込めている。
「英語のrelativeには、『身内』という意味があります。お客様など、関わるすべての方々に自分の身内だと思ってもらえる会社でありたい。そんな想いを込めました。お客様が『リレイティブ』なしにはやっていけないと思うような、身近で頼れる存在になりたいですね」
小手先の営業トークで「仕事をください」と言っても、信頼は得られない。顧客と人間関係を構築した先に信頼が成り立ち、「この人に仕事を任せたい」と心が動くものだ。だからこそ松井は、自社のスタッフが顧客に頼られているところを見聞きするのがとてもうれしいと話す。
「仕事で頼りにされたり、仕事を通してお客様から食事に誘われたり。スタッフがお客様の『身内』になっていくことが本当にうれしいです。お客様と関係性を築いているスタッフは、結果的に営業成績が良いですし、Stay Goldしていると感じます」
人との関係性を大切にする松井ならではのエピソードがある。松井が不動産会社を退職する際に引き留めてくれた、当時憧れだった課長は、その後独立して不動産会社を経営している。月に一度食事を共にする仲で、今ではリレイティブの一顧客だ。松井は、理想とする会社のあり方「relative」と企業理念「Stay Gold」を、自ら体現している。
リレイティブは「人材領域」の軸はそのままに、新しい挑戦を続けている。その一つが、新会社の立ち上げだ。2022年8月に、障がい者の就労をサポートする就労移行支援の会社を新設した。より多くの求職者が仕事を通して輝き続けられるよう、企業理念に沿って自分たちの領域を広げていく。
もう一つの挑戦は、エリアを拡大して仲間を増やしていくことだ。現在オフィスを構える北陸、関東だけにとどまらず、リレイティブの想いを理解して「共に会社を大きくしていこう」という想いを持つ人を全国で採用したいと意気込む。このほど、オフィスのないエリアでもスタッフを採用。このスタッフがその地で支社を作りたいと言えば、自らリーダーとなって行動してほしいと思っている。
「仕事を通して輝き続ける人を増やす」。その想いは、自社のスタッフにも向けられている。松井は「やりたいことがあればどんどんチャレンジしてほしい」と常に声をかけている。
「リレイティブが、自分のやりたいことを実現できる環境であることが理想です。人材領域の範ちゅうであれば、新しい拠点を設けたり、新規事業を立ち上げたりするのも大歓迎だと考えます。同じ想いを持った『身内』と呼べるスタッフと共に、身内と感じてもらえるような顧客を、どんどん全国に広げていきたいと思います」
公開日:2022年12月27日
1979年生まれ。富山県出身。大学を経て新卒で都内の投資用マンションを販売する会社に就職。その後、株式会社広済堂に転職し求人広告をはじめとした人材サービス業に携わる。約10年勤務した後の2014年、株式会社リレイティブを設立。求人広告の総合代理業務をはじめとする人材・採用に関わるサービスを展開。2018年、リレイティブ事業協同組合を設立し、外国人技能実習事業を開始。2022年、株式会社リマインを設立。障がい者の就労をサポートする就労移行支援事業を行うため、同年ディーキャリア富山オフィスを開設。
Contact
富山県富山市総曲輪4−5-11 4F
インタビュー:垣畑光哉/執筆:宮原智子/編集:室井佳子
撮影:田中振一
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