
一人ではできないことを、チームで実現させるスイミー経営
日本でただひとつの職業
「レンタルCFO」とは
三菱重工からgumiまで
どんな状況でも、最善策を考え
より良い方向に導く
株式会社リンクス
代表取締役
鈴木 吾朗 / Goro Suzuki
『レンタルCFO』この肩書を持っているのは、日本でただ一人しかいない。スタートアップやベンチャー企業の資金調達サポートをおこなっている株式会社リンクスの代表取締役社長・鈴木吾朗だ。
「起業を目指している方や設立間もない会社の経営者は、資金繰りに手間取ってしまい、本来の任務である事業のマネジメントに時間を割けないケースが数多くあるんです。私は、彼らが本業に集中できるように財務や融資の部分でコンサルティングを担い、スムーズな会社経営ができるようにお手伝いしています」
鈴木が話すとおり、事業資金の調達方法は経営者にとって悩みの種だ。事業開発や人員採用がうまくいっても、資金がなければビジネスそのものが成り立たないのが現実。投資家との交渉は時間だけでなく心労がかかり、経営者に大きな負担をかけてしまう。彼らにとって、レンタルCFOという存在は救世主といっても過言ではないだろう。
リンクスでは、これまで150社以上の企業を資金調達・財務戦略の面で成功へ導いてきた。顧客の年齢層は、経営の経験値が浅い20代の起業家から定年後に事業を始めたシニアアントレプレナーまで幅広く、事業のジャンルもさまざま。常時30~40社ほどの案件が稼働しているが、現在営業活動はしておらず、依頼のほとんどが顧客間の紹介によるもの。「貯蓄より投資をした方がいい」という昨今の風潮も追い風となり、出資先を探している金融機関や個人投資家からの問い合わせも増えてきている。
「ともに仕事をする上で大事にしているのは、顧客の事業に『共感性』と『社会的価値』を見出せるか。AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)を扱う可能性を秘めた会社もあれば、働くママや障がい者に仕事をアウトソーシングする社会貢献度の高い会社もあります。出資者との交渉にも影響があるので、事業内容や事業計画に納得できる企業とお付き合いしています」
資金調達で最悪のケースは、何ヵ月もかけて100社以上の投資先候補と交渉をしたものの、結果どこからも出資を受けられない場合だ。苦労も時間も水の泡となり、経営者のモチベーションダウンにもつながる。しかしリンクスでは早ければ2~3ヵ月という短期で投資を決められる場合もある。鈴木は交渉が長引く事態を避け、顧客と入念に打ち合わせをおこない、業績推移・数値計画・資本政策などを明確に提示できるよう準備に臨む。
重要なのは、出資者と経営側の双方が合致する企業価値(バリエーション)を見極めることだ。現実的ではない取引を持ちかければ当然投資家から賛同は得られず、安価であれば経営者の議決権の希薄化を生じさせてしまう可能性もある。類似企業や同業他社の調達額の相場感を理解し、絶妙な数字をアレンジすることが求められる。これらの技術を習得するには、座学で得るのではなく「実践第一だ」と鈴木は話す。
「投資家さんと経営者、どちらの要求もすべてを飲むのは不可能なので、一方に譲歩をお願いしたり、妥協点を見つけたりするスキルは場数を踏めば身についてくるもの。資金調達の交渉は男女のお見合いに似ているかもしれません。高望みするのではなく、ポテンシャルや将来性に目を向けて、お互いがプラスに感じられる結果を生み出すことが成功とされます。そのちょうどいいバランスをとるのが私の役目です」
愛知県名古屋市に生まれた鈴木。三菱自動車で働く父と、専業主婦の母とともに岡崎市で幼少時代を過ごした。大学卒業後、新卒で入社したのは三菱重工。企画経理部で会計業務に携わっていた鈴木だが、国産ジェット機を扱うビッグプロジェクトの事業計画メンバーに抜擢された。懸命に打ち込んではいたものの、当時世間で話題となっていたベンチャー企業の若手起業家たちの活躍にも憧れを抱いていた。「大企業にいる限り、経営判断にはかかわれない」ともどかしさを感じ、鈴木は思いきって退職を決意した。
「30歳を過ぎた頃で、『このタイミングを逃したら変われない』という強迫観念に後押しされました。かといって、事業をつくり推進する能力があるとは思っていませんでした。10年間の会社員経験で積み上げてきたのは、数値を読み取る力やコミュニティを形成するスキル。『いずれ、財務のキャリアを活かして起業家をサポートしたい』と自分の将来を漠然と描き始めたのは、この頃ですね」
自分自身でビジネスを始めたいという志より先に、「まずはIPOを経験したい」という願望をかなえるべく、広告代理店へ転職した鈴木。ベンチャー企業ならではの視点を持つことができ、学ぶ点が多くあったが、社長にIPOの意思がないとわかり、2年半で退職した。
その後は、アプリ開発の会社に転職したが、思いもよらない事態に遭遇する。社長の失踪だ。CFOとして迎え入れられた鈴木だが、蓋をあけてみると売上見込みはなく資金もショート。姿を消してしまった社長に代わり、金融機関や投資家に頭を下げて説明責任を果たす毎日。5ヵ月ほど無給状態が続き、さすがに次の職を見つけなければならないと考えていたとき、ソーシャルゲーム会社である株式会社gumiの國光氏と出会う。
当時のgumiは、社員10人足らずの駆け出しベンチャー。CFOとしてオファーを受けた鈴木は、「この人に人生を預けても大丈夫だろうか」と葛藤したが、國光氏による12時間に及ぶ説得と会社の将来性が決め手となり、2010年にジョインした。
「フィーチャーフォンからスマートフォンへの転換期、ヒットコンテンツの誕生が重なりITベンチャーの成長期真っ只中を体験できました。『CFOはIPOを経験してこそ一人前』という人もいるので、上場前に退職したのはもったいなかったかもしれませんが、IPO準備に携わり経験値が上がったように思います。2年半しかいませんでしたが、gumiで得たものは大きかったです」
gumiへの入社は鈴木にとって大きな転機となったが、苦労も少なくなかった。肩書はCFOでも、任されたのは経理、採用、労務、法務といった管理業務全般。専任担当が不在だったため、社会保険や評価などの制度が整っていなかった。社会保険や雇用保険の加入申請、オフィス移転手続きなど、バックオフィスのタスクは率先しておこなった。
加えて頭を悩ませたのは、毎月の数千万円単位の赤字だ。上場企業から出資を受けてゲーム開発や人員増加に投資したが、一向にヒットゲームが生まれず、軍資金がもたないと判断した鈴木。國光氏や社外取締役と相談し、リストラ執行人という辛い役目も背負った。
gumiを退社した後は、eコマースで書籍販売を展開する企業にて、ベンチャーキャピタル交渉や上場準備に従事。不安定な売上状況を見た鈴木は「自分の単価比重は今の会社にとって重すぎる」と感じ、現在のレンタルCFOというスタイルを思い立つ。
「一社にフルコミットして上場を成し遂げるのは達成感がありますが、その間に設立された会社の創業準備を第三者視点でアドバイスできるのであれば、そちらにも大きな価値があります。所属している組織にとっても私にかかるコストを抑えられるし、両者にとって得策。そのときには資金調達や財務業務で培ったネットワークが結構あったので、独立することにしたんです」
当初は受注件数も数件だったが、新聞掲載やSNSの効果などにより依頼が増え続け、設立から5年経った今、軌道に乗ってきているリンクス。今後の課題は、世間が抱いている資金調達に対するハードルを下げていくことだ。そのためにはレンタルCFOという職業が認知され、この仕事に就く人を増やしていく必要がある。
さらに、「プラットフォーム化」の展望も持つ鈴木。資金調達の際、出資元に提出する資料やテンプレートが金融機関によって異なるため、都度転記をしなければならないが、一つのプラットフォームに集約すれば手間を省くことができる。そうすることで、より早く確実に資金調達をおこなうことができ、起業家の後押しにつながると鈴木は考えている。
「ビジネスアイデアを持ち、実行する力を持っている人はたくさんいますが、潤沢な資産がある人は多くありません。資本金や軍資金を安心して調達できる仕組みがあれば、今以上に起業しやすい世の中になるはず。私も経営者という立場ですが、先頭に立って牽引していくというよりは、起業家たちを応援し、支えられるファンドを組成していくことがミッションだと思っています」
普通なら辞めるはずのない財閥系企業を退職してスタートアップに転じ、聞くだけで息苦しくなるようなHARD THINGSを幾多も経験された鈴木さん。そこで培われた資本政策や資金調達のノウハウはまさに実践的で、一筋縄ではいかないアーリーベンチャーの心強い支えとなっています。経営者にとって、時に恥部を晒すような相談も懐深く受け止めてくれそうな人当たりの良さも特筆ものです。
1973年生まれ。1996年4月三菱重工業(株)に入社。航空機部門の管理会計、新規プロジェクト事業計画策定に携わる。その後創業期の(株)gumiなど複数ベンチャーの資金調達に携わり、累計約20億円の資金を調達した元ベンチャー企業の財務責任者。 2015年3月にリンクスを創業、代表取締役に就任。独立後「レンタルCFO」として東工大発AIベンチャーのSOINN(株)、キッズスペース付きワーキングスペースを展開する(株)ママスクエアなど複数企業で約70億円の調達支援に携わり、ドリームゲート、東京都中小企業振興公社などが主催する様々なイベントで講演し、オープンイノベーション領域にも参画している。大企業における意思決定プロセスを理解しつつ、スタートアップ領域の支援先に特化し、独立5年で150社以上で70億円資金調達を実現させた稀有な経歴のCFO。
インタビュー・編集/垣畑光哉 、堤真友子 撮影/森モーリー鷹博
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