
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
歯科医院情報サイトの運営から
歯科医院経営のトータル支援まで
海外での歯科医院展開、
美容、子育てなど幅広い領域へ展開
株式会社メディカルネット
代表取締役会長CEO
平川 大 / Dai Hirakawa
“インターネットを活用し、健康と生活の質を向上させることにより、笑顔を増やす”
このミッションを掲げて成長を続けている株式会社メディカルネット。代表取締役会長 CEOを務めるのが平川大だ。
平川は2005年にメディカルネットに入社して以降、新規事業や支社の立ち上げを手がけ、2010年に東証マザーズに上場するまでの成長を牽引した。2012年には代表取締役社長に就任し、2016年より会長職を務めている。
現在の幅広い事業展開は、まさしく平川自身が挑戦・成長してきた証。「医療」×「IT・インターネット」を主軸に、さまざまな領域へ広がっている。
例えば、「メディアプラットフォーム事業」。国内初のインプラント治療に特化したポータルサイト『インプラントネット』は、治療を必要とする個人に適切な情報を提供し、一人ひとりのニーズにあった歯科医師(医院)が探せるサイトとして成長を続けている。このような領域特化型のプラットフォームによって、個人と専門技術者の橋渡しをするビジネスモデルは、歯科医療対象だけにとどまらない。美容や育児、ライフスタイルといった分野でも、生活者の細かなニーズに沿ってサービスを立ち上げており、最近では子育て支援サイトやアプリをリリースして順調な伸びを見せている。
また、IT・インターネット以外の手法も駆使して顧客を支援する「医療機関経営支援事業」もメディカルネットの広がりのひとつ。歯科医院のお客様に向き合い続けてきた実績があるからこそ、経営課題にまで入り込めるような立ち位置にもなれるのだという。
「私たちは、もともとはポータルサイトや医院のホームページ制作などを通して集患(≒集客)のお手伝いをしてきました。ただ、何のために集患が必要かといえば、医院の経営を向上させ、ひいてはより多くの患者さんを幸せにすることに他なりません。その意味で言えば、ITはあくまでも手段のひとつ。経営課題を解決するための戦略を広い視野で検討し、人材・キャリアサポートや医療機器・機材の導入、開業・事業譲渡サポートなど、経営に関連したあらゆるテーマを支援しています」
今もっとも伸ばしていきたいのは、歯科治療に関連する企業を支援するサービス。メディカルネット自身が歯科にまつわるさまざまな企業をつなぐプラットフォームになることで、歯科治療のバリューチェーンを新たに創造していくことを目指している。
力強い既存サービスを持ちつつも、それだけに留まることなく新たな挑戦を続けているのが同社らしさ。挑戦する社員が称賛される風土は、代表の平川自身が変化とチャレンジを繰り返す人生を歩んできていることも影響しているそうだ。
平川がビジネスの面白さに目覚めたのは小学5年生の頃だという。小売店よりも安くお菓子が買える「問屋」の存在を知ったことで、お菓子を安く仕入れて友達に販売しようと思いつく。しかもさらに付加価値を付けた。自宅には最新ゲーム機がある。友達を呼んで1回50円で遊ばせてあげれば、ゲームセンターで遊ぶよりも安く、中高生の不良に絡まれる心配もない。皆に喜ばれるはずだと考えたのだ。
「僕はこの“ビジネス”を小遣い稼ぎのために起こしたわけではありません。お客さんから得た利益で新しいゲーム機を買う……いわば設備投資をし、さらに顧客を増やす。経営者として夢中になったのです。僕の起業魂はこんなふうに形成されたように思います」
中学からは全国レベルのサッカー部に入部し、中高とサッカーに明け暮れた。「ザ・体育会系」の厳しさの中、何ごとも自分が正しいと信じたことをやり切りたい平川は、監督が指示する戦術にも物怖じせず意見して、ひんぱんに衝突していたという。
大学でもサッカー部に所属したが、Jリーガーを多数輩出するような周囲のレベルに自分の才能の限界を感じ、別の道を模索することに。そこで、目を向けたのがIT業界だった。中学の頃から、サッカーに取り組む傍ら、兄から譲り受けたパソコンにも熱中していた。部活が終わればパソコンゲーム三昧。この道に進むのはいわば必然だった。
大手システム会社に新卒入社すると、早々に試練が訪れた。当初は顧客先での受託開発に関わり、プログラマとして楽しく働いていた。それが急に、オーストラリアの企業が開発したツールを日本で展開するプロジェクトの責任者に任命されたのだ。
「一緒に仕事をするのは、システムの裏の裏まで熟知しているようなエンジニア集団。ITスキルで歯が立たたないだけでなく、本国とのやりとりはすべて英語という環境にいきなり放り込まれて、毎日泣きながら仕事をしました。けれど、同時に楽しくもあったんです。なぜなら、細かく指示されるのではなく“結果を出せ”しか言われなかったから。今思えば、僕の性格や適性を見抜いて、挑戦させてくれたのかもしれません」
チャレンジの日々を送る中で、平川は起業への想いを募らせていく。そこで開発以外の力も身に付けるために転職し、プリセールスや営業の経験も積んだ。
そしてついに起業を実現。出張でよく訪れていた海外でネットビジネスを始めた。
しかし、その土地特有の風土や価値観のズレなどにより、なかなかうまくいかない。そんなときに出会ったのが、メディカルネットの当時の社長・早川亮だった。悩みを打ち明けた平川は、早川からの言葉に衝撃を受けた。
「開口一番、『馬鹿じゃないの?』と言われました。それもそのはず。当時の僕は、うまくいかないのを一緒に働いていた仲間のせいにしていたんです。あいつがちゃんとやってくれないから上手くいかない、って。そういう姿勢は経営者として失格だと言われて、ハッとさせられました。経営者は社員の人生を預かっている身なのに、他責で考えてはいけない。自分の未熟さを思い知らされましたね」
そして、この出会いが平川の人生を大きく変えていく。当時のメディカルネットは、社員わずか6名で、売上も1億円に満たない会社。それにも関わらず、早川は真面目な顔で平川にこう告げた。
「上場準備を手伝ってくれないか。とりあえず、来年までに売り上げを倍にしてほしい」
この環境でもう一度チャレンジしてみよう。そして絶対に結果を出してみせる。そう決意した平川は、海外の会社を譲渡し、メディカルネットに入社したのだった。
それから月日は流れ、現在のメディカルネットは大きく事業領域を広げている。近年では、タイに現地法人を立ち上げ、歯科医院の経営に乗り出した。今後は他の国でも展開していく計画だ。
「クリニックの院長は、医師でありながら経営者の顔も併せ持ちますが、本来は医師にしかできない仕事に専念する方が、医院としても患者にとっても良いはずです。だからこそ、私たちは経営を支援していくための手段を広げていきたい。現状の日本では法規制で難しいこともありますが、既存の手段に捉われない挑戦を始めています」
また、挑戦の先に平川が見据えているのは、お客様ごとの課題解決にとどまらずマーケット全体をより良くしていくこと。課題が大きいからこそチャンスも多いのだという。
「今、医療マーケットは40兆円もの市場で、毎年1兆円ずつ拡大しています。それにも関わらず、IT化がほとんど進んでいません。電子カルテの導入は全体の2割で、ホームページすらない医院が5割もあるんです。マーケットがこういう状況だからこそ、私たちがどのようにお客様と向き合っていくかで、未来は変わるはずです。それは医院だけでなく、業界に関わる事業者や医療系の教育機関なども同じこと。ビジネスの流れや経営のあり方から変えていき、マーケットを牽引する存在になっていくことが、私自身が描くメディカルネットの未来です」
こうした未来を一緒に実現しようとしている仲間たちも、平川と同じように未知の領域へ果敢に飛び込んでいく者たちばかりだ。例えば、タイの現地法人社長に就任したのは、中途入社2年目の20代。平川は、実績よりも仕事に向き合う姿勢や意欲を評価して、ポジションを任せていきたいのだという。
「自律的に考えて行動できる人、自ら手を挙げて挑戦する人こそ、マーケットを変革できる人だと思います。そんな人に事業責任者や子会社社長などの役割を任せたい。いつかは起業したいと思っている人こそ、一緒に働きたいですね」
サッカーに打ち込みつつも、パソコンやゲームに没頭していたオタクな幼少期がご自身のルーツと語る平川さん。ひとつの仕事を極める度に活躍の場を移し、まるでジグソーパズルのピースを埋めるようにキャリアを形成されていった様は、今の若い方にも大いに参考になる仕事観だと思います。日本サッカー協会主催の全国シニア(40歳以上)サッカー大会で勝ち取った念願の優勝も、ピースのひとつなのでしょう。
インタビュー・編集/青木典子、森田大理 撮影/田中振一
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