株式会社マケレボ
代表取締役社長
髙嶋 厚志 / Atsushi Takashima
企業が抱える経営課題を受託し、サポートする
新たな元号の発表とともに本格施行された働き方改革関連法。一億総活躍社会の実現に向け、企業には就業機会の拡大、非正規・正規雇用の格差縮小、高齢者の就労支援といった働き手の意欲や能力を最大限に高めるための環境づくりが求められる。
なかでも、企業の経営に大きな影響を与える可能性があるのが、年次有給休暇の義務化や時間外労働時間の上限規制だろう。特に、これまで社員のサービス残業や休日出勤に依存してきた企業は、改革を進める中で「これまでできていたことができなくなった」という壁にぶつかる可能性が高い。
企業の経営課題に対する事業コンサルティングを手がける株式会社マケレボでも、働き方改革に伴って生じた企業の新たな課題を受託し、サポートする業務が増加傾向にあると同社代表取締役・髙嶋厚志は言う。
「コンサルティングを通じて顕在化した課題に対して、テレマーケティングをはじめインフィールドセールス、Web、さらにインハウスという形で解決策を提示し、一緒に問題解決を図っています。私たちが受託するよりも業務設計そのものを変えた方が業務の効率化が図れると判断した場合は、そういった提案をする場合もあります」
同社がコンサルティングを担当するクライアントの業態は、通信キャリアから通信系の販売店や代理店、ガス会社や電気会社など多岐に渡り、関わり方も様々だ。
「新規顧客の開拓にかけるコストを引き下げたい」という通信キャリアに対して採用方法の見直しや人事制度の改革を提案することもあれば、メイン事業以外のビジネスモデルに取り組み始めた企業の業務設計段階からタッグを組むこともある。状況に応じて、自社のコールセンターを活用して業務を受託することもできる。頭脳も、手足もソリューションとして提供できる点が最大の強みだ。
「コンサルティングは、クライアントに選んでもらえなければ仕事がなくなりますし、失敗すればすぐに評判が落ちてクライアントが減るというリスクもあります。ですが、当社は一度コンサルティングをした企業からの紹介や、成功例を耳にした企業からの問い合わせによる受注がほとんどを占めるようになりました」

2度目の転職で会社が倒産し、開業を決意
大阪で生まれた髙嶋は、両親の離婚をきっかけに親戚の家を転々とした。18歳のときに結婚するが、当時ともに暮らしていた親戚は猛反対。やむなく家を出て、結婚相手の姉の家に転がり込んだ。
「そこで言われたのが、『お前は社会を舐めている』と。ちょっと鍛えられたほうがいいというので紹介してもらったのが、布団販売の営業の仕事だったんです。厳しい業界で営業の基礎を叩きこまれた後、ちょうど子どもが生まれるタイミングだった20歳の時に情報通信の大手上場企業に転職しました」
転職先は、前職を上回る激務だった。長時間労働をいとわない社員こそが良い社員とされていた時代背景もあって、朝9時の始業から夜中の2時3時まで働き続けることもざらにあったという。「家族を養わなければならない」という責任感に突き動かされるように必死で働いた髙嶋だったが、残念ながら思いは届かず、髙嶋と子どもを置いて妻は家を出ていった。残された子どもと2人、何とか生活しようともがくも、朝から晩まで働き詰めの状態での育児は、限界があった。
「そこで7年ぶりに親と連絡を取って、仕事をしている間だけ子どもを見てもらいたいと頼んだんです。ちょうどそのころ、上司がテレマーケティングの会社を立ち上げるということで誘いを受け、心機一転頑張ろうという気持ちでついていきました」
ところが、会社は5年目に倒産。髙嶋を含む多くの社員が、次の就職先も決まらないまま職を失った。就職先の斡旋を待っていては生活できないと感じた髙嶋は、自ら会社を興すことを決意。「寿司屋で修業したから寿司屋を出すような感覚」でテレマーケティングや訪問営業を主たる事業として株式会社テレマーケティングサポートを創業した。後に株式会社マケレボに社名変更。時は2009年10月、ついてきてくれた5名とともに髙嶋の実家に同居しながらのスタートだった。

規模を拡大し、コンサルティング業務に進出
立ち上げからしばらくして、継続的に利益を出せるようになったとき、髙嶋の頭を「このままでは、いずれ5人とも辞めてしまうだろう」という不安に似た直感がよぎった。髙嶋が激務を強いられていた頃とさほど変わらない業務内容であるうえ、規模は小さく、社員のやりがいも少ないのが現実だった。
「僕が一番恐怖を感じたのは、例え1人になっても仕事はできるけど、何のために会社を立ち上げたのか分からなくなるんじゃないかということでした。人が好きで、人が持つ可能性を伸ばしたくて仲間と始めた会社なのに、1人になってしまったら目的を見失ってしまう。それだけは避けたいと思い切って社員を増やし、規模の拡大に踏み切りました」
5名から一気に50名まで社員数を増やした同社は、テレマーケティングの代理店ビジネスで順調に実績を重ねていく。現在の主軸であるコンサルティングを手がけるようになったのは2014年頃のことだ。きっかけは、仕事を請け負っていた大手通信事業者から「御社と似た業態の子会社の業績が芳しくないので、コンサルティングをしてもらえないか」という打診を受け、わずか3カ月半ほどで従来の3倍近く実績を引き上げたことだった。
「この時は、自社で蓄積してきたコールセンター業務のノウハウがうまく使えました。企業が抱える悩みを突き詰めていけば、最終的には仕組みづくりやマネジメントの仕方、社員の教育方法といった共通の問題に帰結します。つまり、自社の経験値は、あらゆる業種のコンサルティングで生かせるということであり、できることはたくさんありそうだ、と感じました。コンサルティングという分野に新たな可能性を見出した出来事でしたね」
コールセンター業務に比べて、コンサルティング分野のマーケットのほうがはるかに大きいことも、チャレンジを決意した理由の1つだった。今では、事業の6割超をコンサルティングが占め、ガス会社や電気会社など、まったく違う業種のコンサルティングでも高い成果を上げている。

財産である「人」を大切に、企業価値の向上を図る
国籍や性別、経験年数にかかわらず、すべての社員に平等にチャンスを与える完全実力主義の同社では、入社後すぐの若手にも責任のある仕事を積極的に任せていく。入社2年目でコンサルティング業務を担当する社員もいるほどだ。
社名から受ける印象もあって、入社希望者はテレマーケティングや訪問営業に興味がある、という人がほとんど。だが、同社にとってテレマーケティングは「トレーニングの場」という位置づけだ。社員として新たに入社する人には、テレマーケティングを通過点として、最終的には企業のコンサルティング担当を目指して欲しいと髙嶋は言う。
入社後の研修では、コールセンター業務や営業をひと通り経験した後、社員の意志を尊重した人材配置で「誰もが伸びる」環境を提供し、成長をバックアップする。入社後の研修で重視しているのは、実際に営業を経験し、成功体験ならぬ失敗体験を積み重ねてもらうことだ。
「自分自身の経験からも思うことですが、失敗はたくさんした方がいい。失敗してもやり続けるというのは辛いし難しいけど、やり続けることでしか得られないものが必ずあります。失敗しながら個人の価値を高めることが、企業の価値の向上につながると信じて、未経験の分野にも積極的に挑んで欲しいですね」
今後は、コンサルティングの対象となる企業を拡大しつつ、内部の人材力をさらに強化していく考えだ。
「私たちのビジネスモデルは、社員が財産。社員が成長し続けられる会社でなければ、クライアントからの支持は得られません。採用時に見ているのも、学歴や経験より『人』ですね。この会社で一生働きたい、という人でなくてもいいんです。むしろ、この会社で得たことを次のキャリアに生かして欲しいし、そんな想いのある方を全力で応援できる会社で在り続けたいな、と思っています」

リスナーの目線
創業メンバーが辞めてしまう恐怖心から、社員数を一気に十倍へと拡大した背景は、人に甘えたくても甘えられない幼少期から青春時代の体験とは無縁ではないのでしょう。創業期から続けられている立派な社内報からも、髙嶋さんの“人”に対する思い入れは伝わってきます。その想いを受け継いだメンバーが会社をけん引し始めているということは、何よりも嬉しいことに違いありません。
Profile
1982年、大阪府生まれ。2000年、情報通信企業へ入社し、マネージャー、部長、執行役員を歴任。2009年、株式会社テレマーケティングサポート(後に、株式会社マケレボに社名変更。)設立、代表取締役社長に就任。
Staff
インタビュー・編集:垣畑光哉、藤巻史/撮影:石本文子