
病院を飛び出した理学療法士が鳥取県でつくる「つながり」
企業統合でシナジーを発揮する。二つの企業を一つにする、ミッション策定プロジェクト
新澤 明男 / Akio Niizawa
株式会社CARTA HOLDINGS
代表取締役社長兼COO
2019年、メディアレップの草分けとして始まり、国内のデジタルマーケティング領域を牽引してきた「株式会社サイバー・コミュニケーションズ」と、ネットベンチャーとしてテクノロジーを強みに数々の事業を開発してきた「株式会社VOYAGE GROUP」が経営統合し、株式会社CARTA HOLDINGSが誕生した。
CARTA HOLDINGSでは、マーケティングソリューション事業、アドプラットフォーム事業、コンシューマー事業の三つつを柱に事業を展開。デジタルマーケティング支援、広告配信プラットフォーム運営、メディア運営、販売促進のデジタルトランスフォーメーション支援、ゲームアプリの提供、ふるさと納税事業、新卒エンジニア採用支援など、多岐にわたるニーズに対応している。
「デジタルを起点として、あらゆる支援、サービスを提供しています。ブランディング広告を得意とするサイバー・コミュニケーションズと、ダイレクトレスポンス広告を得意とするVOYAGE GROUPが経営統合したことで、幅広い課題解決力が弊社の大きな強みになりました」と株式会社CARTA HOLDINGSの代表取締役社長兼COO新澤明男は話す。
現在、さまざまなWeb広告の配信サービスが乱立しているが、CARTA HOLDINGSがほかと一線を画しているのは、自社開発したアドテクノロジーを使っている点にある。
「自社で独自に開発した技術を使っているため、クライアント企業が抱える課題に対して、的確にカスタマイズした形でサービスを提供することが可能です。より効率的に、かつ、効果の高いマーケティングを支援しています。一口にマーケティングといっても、その中身は直近の販促から中長期的な視野でとらえたブランド構築まで、多岐にわたります。弊社ではさまざまなプロダクトを組み合わせ、あらゆるニーズに対してトータルにご提案できる体制を整えています」
得意な領域の異なる二社が統合することで、デジタル広告・マーケティング分野において死角のないサービスを可能にしたCARTA HOLDINGS。しかし、文化の異なる二つの企業の統合は、一筋縄でいくものではなかった。
サイバー・コミュニケーションズは、電通グループの子会社で、1,000人規模の企業。インターネット広告の黎明期から参入し、インターネット広告のあるべき姿勢や、社会に対する自社の存在意義について考え、業界を牽引してきた。
一方のVOYAGE GROUPは、ネットベンチャーから始まり、「360°スゴイ」 をSOUL(企業理念)として掲げる勢いのある企業だった。
「価値観も文化も違う二つの企業を統合し、新たな一つを生み出す。これは、非常に大きなチャレンジであり、これこそが、私たちにとってのゼロイチでした」
2019年の統合直後は、まだそれぞれで事業を行っており、あくまで事業連携や協働という形で、シナジーを追求していた。
「共に仕事をする感覚値が社内に浸透してきた感触を得られたので、それを言葉にしたいと考えるようになりました。さらに心を一つにするために、社員すべてに持ってもらいたい大切な心持ちとして、バリューを定義することにしたのです」
2021年、新しい経営理念を策定するプロジェクトを立ち上げた。
社長である新澤自らがプロジェクトオーナーとなり、チームメンバーには両社からバランス良く、さまざまな職種、ライフステージにいる男女を集めた。
ミッション・バリューを策定するうえで最も苦労したことは、どこかからの借り物ではない「自分たちの言葉」で作りあげることだったという。
「プロジェクトメンバーだけで話し合っても駄目だし、経営陣だけで話しても、もちろん駄目。どれだけ広く社員の声を集められるのかが課題でした。全社アンケートやインタビューを行い、さまざまな立場の社員や経営陣にヒアリングをしました。そのうえで、どのようにしたらCARTAらしさを表現する言葉になるのかを検討し、丁寧にすり合わせていったのです」
特に心がけたのは、ミッション・バリューが固まるまでのプロセスをできるだけ社員と共有することだった。
通常のプロジェクトでは、メンバー以外にはプロジェクトの発足と結果しか知らされないことが多い。しかし、このプロジェクトは、全社員にその過程を伝えることが重要と考えたのだ。毎週のミーティングは、絵や図を多用したグラフィックレコードの手法で分かりやすい議事録を作成、全社員に共有した。
こうして、次のようなミッション・バリューが生まれた。
【ミッション】
The Evolution Factory
【バリュー】
いくら優れたミッションやバリューがあっても、それが社員に浸透し、サービスやプロダクトを通して社会へ還元されなければ意味がない。
今はバリューを社内に浸透させるための仕掛けを作っている段階だという。バリューを体現できているかどうかの評価システムや制度を作り、「進化」や「挑戦」「自分ごと」といったミッションやバリューが、普段の会話の中でも使われる言葉になるよう促している。
「ミッションである“The Evolution Factory”に関しては、浸透しつつあることを感じています。Slackのスタンプで使われたり、日常的に“進化する”という言葉が社内でよく使われたりするようになりました。とはいえ、言葉が浸透すればいいというわけではなく、それをどのように事業へ結びつけるか、行動に移せるかが重要です。そこについては、これからですね」
CARTA HOLDINGSは経営理念を作るプロジェクトと同時に、社内の人事部門や経理部門、情報システム部門といったバックオフィスを一つにする機構改革も行った。2019年の統合後も二つの企業それぞれのコーポレートが存在していたのを、3年がかりでホールディングスとして一つのバックオフィスにしたのだ。
こうして、新しいCARTAが誕生した。
「我々はこれを“統合”ではなく、“融合”と定義しています。2022年に、真の融合フェーズに突入したということで、キックオフイベントを実施しました。そこで、これまでのCARTAの3年間を振り返り、我々がいよいよ一つになった証しとして、新しいミッション・バリューを社内外に向け発表したのです」
自社を「進化推進業」と称し、20以上の事業を展開しているCARTA HOLDINGS。事業だけでなく、顧客に対して、社会に対して進化を与えることを基本ミッションとしている。
「例えば、最近ではNFT(ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデータ)が大きな話題となっていますよね。その話題性をもって事業を考えるときに、儲かりそうだからうちでもNFT事業をやろう、という考え方ではなくて、NFTを通じてCARTAがどのような進化を、社会に、顧客に、個人に提供できるのかという視点に立って、やるべきかどうかを検討する。このような姿勢が、これからのCARTAのベースになっていきます」
「進化」という言葉には、CARTA HOLDINGS自身も常に進化していくという決意が込められている。顧客や社会を進化させるためには、まず自分たちが先陣を切って進化しなければならない。自らが最先端をいき、より専門的で、よりプロフェッショナルであることを意識する。そのうえでの「進化」なのである。
そして、CARTA HOLDINGSのミッション「The Evolution Factory」の「Factory」にも、独自の意味が込められている。「Factory」は一般的には「工場」という意味だが、CARTAの認識は少し違う。
「我々はFactoryを“工房”ととらえています。匠の知恵や経験値の集結、そして各領域のプロフェッショナルたちが揃うことで、そこからさまざまな素晴らしい技術やプロダクト、作品が生まれる。このような場であることを意識した“Evolution Factory”なのです。我々はこのFactory=工房の一員として、匠が1,500人集まった企業グループになる。そして、時代の最先端を走れるように努力をしていきたいと思っています」
InnovationでもRevolution でもなく“Evolution”であることにも、CARTA HOLDINGSの強い決意が込められている。
「革新的な変革で一足跳びにガラッと変わるのではありません。地道に社会を一つひとつ進化させていく。泥くさく聞こえるかもしれませんが、我々は、一歩一歩社会を後押しするような存在でありたいのです」
公開日:2022年9月8日
ソフトバンクを経て、1998年に株式会社サイバー・コミュニケーションズ(CCI)入社。日本のインターネット広告の黎明期からインターネット広告事業全般に従事。営業本部、メディア本部の部門長などを歴任し、2005年に執行役就任。新事業推進本部長としてeコマースやCGM系ソリューション開発などの新たなビジネスモデル構築を担当。
2007年にCOO(最高執行責任者)就任。2010年に代表取締役副社長、2013年より代表取締役社長に就任し、日本のインターネット広告事業の中核企業を牽引し、業界の発展・健全化に尽力。
2019年のCCIとVOYAGE GROUPの経営統合に伴い、株式会社CARTA HOLDINGSの代表取締役社長に就任。
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東京都渋谷区道玄坂1-21-1 渋谷ソラスタ15階
インタビュー・執筆:稲田和絵/編集:室井佳子
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